Recorded at Klaus Schulze Studio, Hambuhren, Autumn 1986 - April 1987
Released by Virgin/Venture Records VE5(LP), CDVE5(CD), October 26, 1987
Produced, Composed, Performed, Recorded & Mixed by Andreas Grosser and Klaus Schulze
(Side 1)
A1. Nebuchadnezzar's Dream - 8:00
A2. Foundation - 4:00
A3. The Tower Rises - 5:00
A4. First Clouds - 3:00
A5. Communication Problems - 1:00
A6. The Gap Of Alienation - 3:43
(Side 2)
B1. Immuring Insanity - 14:00
B2. Heaven under Feet - 3:00
B3. Deserted Stones - 1:23
B4. Facing Abandoned Tools - 3:00
B5. Vanishing Memories - 2:00
B6. Sinking Into Oblivion - 3:00
B7. Far From Earth - 8:36
[ Personnel ]
Andreas Grosser - synthesizer, piano
Klaus Schulze - electronics, keyboards
*
(Original Virgin/Venture "Babel" LP Liner Cover & Side 1/2 Label)
しかし本作の出来は'80年代後半のシュルツェ作品でも『エン=トランス』と並ぶ完成度の高いもので、一応A面6曲・B面7曲と曲名とタイムがついていますがCDで聴けばまったくシームレスに展開する全1曲・55分におよぶ「バベル」1曲であり、かつての大作『蜃気楼(ミラージュ)』'78や『デューン』'79の'87年ヴァージョンとも言える内容です。タイトル通り旧約聖書のバベルの塔の逸話をテーマに、ブリューゲルの絵をジャケットにした本作は、前半ではアコースティック・ピアノをフィーチャーした淡々としたサウンドで、これがもともとのグロッサーのアイディアだったと思われます。グロッサーによる『蜃気楼(ミラージュ)』や『デューン』のアコースティック・リメイクともとれるもので、このミュージシャンはこの時期のシュルツェ関連作以外に知られた活動がないのでシュルツェの内弟子格のようなピアニスト出身のシンセサイザー奏者なのでしょう。アルバムはB面からどんどん重厚なサウンドに変化していきます。すでにシュルツェは機材をデジタル化して久しいのでサンプリングによるものでしょうが、かつてメロトロン・コーラスで行ったのと同じ用法でドローン効果を狙った混声コーラス音声が次々と重なりあい、シュルツェのソロ作品でもさらに早い時期で重く混濁したサウンドの『タイムウィンド』'75や『イルリヒト』'72まで思い出させる不穏な崩壊感が漂ってくる。シュルツェが自分のアルバムというよりグロッサーのアルバム、と見なすのは、シュルツェ自身の発想からは本作のサウンド傾向は出てこないもので、シュルツェとの共作に当たってグロッサーが提示したモチーフがかつてのシュルツェのアルバムを再構成するような作風につながった、ということを指しているように思えます。同じピアニスト出身のシンセサイザー奏者でもライナー・ブロスはシュルツェとはかなり異なる素養や音楽的指向があり、ブロス参加のシュルツェのソロ作はブロスの音楽性をシュルツェの音楽に組みこんだものでしたし、ブロス主導のコラボレーション・アルバムははっきりブロスの指向性が表れていました。本作のグロッサーはかつての'70年代のシュルツェ作品を'87年時点で再解釈する方にそもそもの発想があり、それが本作を充実した作品にしてもいれば'70年代シュルツェ作品の最新機材と新たな作曲によるセルフ・リメイク的なものにとどめているとも言えるので、'90年代半ばにはシュルツェ自身があえて'70年代作品を思わせる作風に回帰しますがアプローチはもっと気まぐれで大ざっぱな楽しみがあふれたものです。『バベル』は'80年代後半のシュルツェの名作の一枚と言ってよい作品ですが、この傾向のアルバムならすでにシュルツェには代表作があると既視感を感じさせる点で割をくっている。シュルツェがソロ作に数えていないのはそのあたりも含めてのことではないでしょうか。