クラウス・シュルツェ&アンドレアス・グロッサー Klaus Schulze & Andreas Grosser - バベル Babel (Virgin, 1987) Full Album : https://youtu.be/YV7Ht0oOOBs
Recorded at Klaus Schulze Studio, Hambuhren, Autumn 1986 - April 1987
Released by Virgin/Venture Records VE5(LP), CDVE5(CD), October 26, 1987
Produced, Composed, Performed, Recorded & Mixed by Andreas Grosser and Klaus Schulze
(Side 1)
A1. Nebuchadnezzar's Dream - 8:00
A2. Foundation - 4:00
A3. The Tower Rises - 5:00
A4. First Clouds - 3:00
A5. Communication Problems - 1:00
A6. The Gap Of Alienation - 3:43
(Side 2)
B1. Immuring Insanity - 14:00
B2. Heaven under Feet - 3:00
B3. Deserted Stones - 1:23
B4. Facing Abandoned Tools - 3:00
B5. Vanishing Memories - 2:00
B6. Sinking Into Oblivion - 3:00
B7. Far From Earth - 8:36
[ Personnel ]
Andreas Grosser - synthesizer, piano
Klaus Schulze - electronics, keyboards
*
(Original Virgin/Venture "Babel" LP Liner Cover & Side 1/2 Label)
クラウス・シュルツェの作品歴の中ではソロ名義の第19作『ドリームス』'86と第20作『エン=トランス』'88の間にリリースされた本作は、シュルツェ&ライナー・ブロス名義の『ポーランド・ライヴ』'83がシュルツェのソロ作に数えられているように従来シュルツェのソロ作をゲスト・ミュージシャンとの共作名義としたもの、と受けとめられていました。ひさびさに外国(イギリス)メジャーのヴァージン・レコーズ(傘下のヴェンチャー・レーベル)に移籍して発表された作品でもあり、また'87年には単独名義のアルバムはなくコラボレーション・アルバムでもシュルツェの名前が先に印されているので、リスナーは前年の『ドリームス』に続くシュルツェの新作としてこれを聴き、次作『エン=トランス』とその次の『メディタニアン・パッズ』では『ドリームス』同様にドイツのブレイン・レコーズ原盤で国外配給のみがヴァージンになりますが、'90年の大作『ドレスデン・パフォーマンス』以降は『バベル』に続くヴァージン/ヴェンチャー・レーベル原盤・配給の作品が続きますから、当時のリスナーの受けとめ方はごく自然なものでした。本作がシュルツェのソロ名義作ではなくコラボレーション・アルバムと位置づけられたのはシュルツェ自身がインターネット時代に公式サイトのディスコグラフィーで本作をコラボレーション・アルバムに分類するようになったからで(『ポーランド・ライヴ』は共作名義のソロ作のまま位置づけられています)、ディスコグラフィーでの本作への短いコメントでシュルツェ自身が本作を「More an A. Grosser than a KS album.」としています。ブレイン・レコーズとの契約はまだ2作残しており、特に『エン=トランス』は'87年の一年間をかけて制作された2枚組大作だったので、ヴァージンにはまず『ドリームス』のサポート・ミュージシャンだったシンセサイザー/ピアノ奏者のアンドレアス・グロッサーとの共作である本作を提供しておき、ブレイン・レコーズとの契約満了をもって『ドレスデン・パフォーマンス』からヴァージン移籍後のソロ名義作にとりかかった事情がうかがえ、ヴァージン/ヴェンチャー・レーベルが本作をシュルツェの名前を先にした共作アルバムとして発売したのは商業的な便宜だったということでしょう。シュルツェのソロ名義作としてはブレイン・レコーズの契約満了前なので出せず、また実際はグロッサー主導のアルバムにシュルツェが協力した共作アルバムでしたがシュルツェのヴァージン/ヴェンチャー第1弾アルバムとしてはグロッサーを先にしたアンドレアス・グロッサー&クラウス・シュルツェ名義のアルバムでは商業的に弱い、と踏んだ。シュルツェもグロッサーともどもこれを承認したものの、今ではシュルツェは公式サイトではソロ作ではなくコラボレーション・アルバムであり、「(名義はシュルツェ&グロッサーだが)シュルツェのアルバムというよりグロッサーのアルバム」とコメントしているわけです。
しかし本作の出来は'80年代後半のシュルツェ作品でも『エン=トランス』と並ぶ完成度の高いもので、一応A面6曲・B面7曲と曲名とタイムがついていますがCDで聴けばまったくシームレスに展開する全1曲・55分におよぶ「バベル」1曲であり、かつての大作『蜃気楼(ミラージュ)』'78や『デューン』'79の'87年ヴァージョンとも言える内容です。タイトル通り旧約聖書のバベルの塔の逸話をテーマに、ブリューゲルの絵をジャケットにした本作は、前半ではアコースティック・ピアノをフィーチャーした淡々としたサウンドで、これがもともとのグロッサーのアイディアだったと思われます。グロッサーによる『蜃気楼(ミラージュ)』や『デューン』のアコースティック・リメイクともとれるもので、このミュージシャンはこの時期のシュルツェ関連作以外に知られた活動がないのでシュルツェの内弟子格のようなピアニスト出身のシンセサイザー奏者なのでしょう。アルバムはB面からどんどん重厚なサウンドに変化していきます。すでにシュルツェは機材をデジタル化して久しいのでサンプリングによるものでしょうが、かつてメロトロン・コーラスで行ったのと同じ用法でドローン効果を狙った混声コーラス音声が次々と重なりあい、シュルツェのソロ作品でもさらに早い時期で重く混濁したサウンドの『タイムウィンド』'75や『イルリヒト』'72まで思い出させる不穏な崩壊感が漂ってくる。シュルツェが自分のアルバムというよりグロッサーのアルバム、と見なすのは、シュルツェ自身の発想からは本作のサウンド傾向は出てこないもので、シュルツェとの共作に当たってグロッサーが提示したモチーフがかつてのシュルツェのアルバムを再構成するような作風につながった、ということを指しているように思えます。同じピアニスト出身のシンセサイザー奏者でもライナー・ブロスはシュルツェとはかなり異なる素養や音楽的指向があり、ブロス参加のシュルツェのソロ作はブロスの音楽性をシュルツェの音楽に組みこんだものでしたし、ブロス主導のコラボレーション・アルバムははっきりブロスの指向性が表れていました。本作のグロッサーはかつての'70年代のシュルツェ作品を'87年時点で再解釈する方にそもそもの発想があり、それが本作を充実した作品にしてもいれば'70年代シュルツェ作品の最新機材と新たな作曲によるセルフ・リメイク的なものにとどめているとも言えるので、'90年代半ばにはシュルツェ自身があえて'70年代作品を思わせる作風に回帰しますがアプローチはもっと気まぐれで大ざっぱな楽しみがあふれたものです。『バベル』は'80年代後半のシュルツェの名作の一枚と言ってよい作品ですが、この傾向のアルバムならすでにシュルツェには代表作があると既視感を感じさせる点で割をくっている。シュルツェがソロ作に数えていないのはそのあたりも含めてのことではないでしょうか。
Recorded at Klaus Schulze Studio, Hambuhren, Autumn 1986 - April 1987
Released by Virgin/Venture Records VE5(LP), CDVE5(CD), October 26, 1987
Produced, Composed, Performed, Recorded & Mixed by Andreas Grosser and Klaus Schulze
(Side 1)
A1. Nebuchadnezzar's Dream - 8:00
A2. Foundation - 4:00
A3. The Tower Rises - 5:00
A4. First Clouds - 3:00
A5. Communication Problems - 1:00
A6. The Gap Of Alienation - 3:43
(Side 2)
B1. Immuring Insanity - 14:00
B2. Heaven under Feet - 3:00
B3. Deserted Stones - 1:23
B4. Facing Abandoned Tools - 3:00
B5. Vanishing Memories - 2:00
B6. Sinking Into Oblivion - 3:00
B7. Far From Earth - 8:36
[ Personnel ]
Andreas Grosser - synthesizer, piano
Klaus Schulze - electronics, keyboards
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(Original Virgin/Venture "Babel" LP Liner Cover & Side 1/2 Label)
クラウス・シュルツェの作品歴の中ではソロ名義の第19作『ドリームス』'86と第20作『エン=トランス』'88の間にリリースされた本作は、シュルツェ&ライナー・ブロス名義の『ポーランド・ライヴ』'83がシュルツェのソロ作に数えられているように従来シュルツェのソロ作をゲスト・ミュージシャンとの共作名義としたもの、と受けとめられていました。ひさびさに外国(イギリス)メジャーのヴァージン・レコーズ(傘下のヴェンチャー・レーベル)に移籍して発表された作品でもあり、また'87年には単独名義のアルバムはなくコラボレーション・アルバムでもシュルツェの名前が先に印されているので、リスナーは前年の『ドリームス』に続くシュルツェの新作としてこれを聴き、次作『エン=トランス』とその次の『メディタニアン・パッズ』では『ドリームス』同様にドイツのブレイン・レコーズ原盤で国外配給のみがヴァージンになりますが、'90年の大作『ドレスデン・パフォーマンス』以降は『バベル』に続くヴァージン/ヴェンチャー・レーベル原盤・配給の作品が続きますから、当時のリスナーの受けとめ方はごく自然なものでした。本作がシュルツェのソロ名義作ではなくコラボレーション・アルバムと位置づけられたのはシュルツェ自身がインターネット時代に公式サイトのディスコグラフィーで本作をコラボレーション・アルバムに分類するようになったからで(『ポーランド・ライヴ』は共作名義のソロ作のまま位置づけられています)、ディスコグラフィーでの本作への短いコメントでシュルツェ自身が本作を「More an A. Grosser than a KS album.」としています。ブレイン・レコーズとの契約はまだ2作残しており、特に『エン=トランス』は'87年の一年間をかけて制作された2枚組大作だったので、ヴァージンにはまず『ドリームス』のサポート・ミュージシャンだったシンセサイザー/ピアノ奏者のアンドレアス・グロッサーとの共作である本作を提供しておき、ブレイン・レコーズとの契約満了をもって『ドレスデン・パフォーマンス』からヴァージン移籍後のソロ名義作にとりかかった事情がうかがえ、ヴァージン/ヴェンチャー・レーベルが本作をシュルツェの名前を先にした共作アルバムとして発売したのは商業的な便宜だったということでしょう。シュルツェのソロ名義作としてはブレイン・レコーズの契約満了前なので出せず、また実際はグロッサー主導のアルバムにシュルツェが協力した共作アルバムでしたがシュルツェのヴァージン/ヴェンチャー第1弾アルバムとしてはグロッサーを先にしたアンドレアス・グロッサー&クラウス・シュルツェ名義のアルバムでは商業的に弱い、と踏んだ。シュルツェもグロッサーともどもこれを承認したものの、今ではシュルツェは公式サイトではソロ作ではなくコラボレーション・アルバムであり、「(名義はシュルツェ&グロッサーだが)シュルツェのアルバムというよりグロッサーのアルバム」とコメントしているわけです。
しかし本作の出来は'80年代後半のシュルツェ作品でも『エン=トランス』と並ぶ完成度の高いもので、一応A面6曲・B面7曲と曲名とタイムがついていますがCDで聴けばまったくシームレスに展開する全1曲・55分におよぶ「バベル」1曲であり、かつての大作『蜃気楼(ミラージュ)』'78や『デューン』'79の'87年ヴァージョンとも言える内容です。タイトル通り旧約聖書のバベルの塔の逸話をテーマに、ブリューゲルの絵をジャケットにした本作は、前半ではアコースティック・ピアノをフィーチャーした淡々としたサウンドで、これがもともとのグロッサーのアイディアだったと思われます。グロッサーによる『蜃気楼(ミラージュ)』や『デューン』のアコースティック・リメイクともとれるもので、このミュージシャンはこの時期のシュルツェ関連作以外に知られた活動がないのでシュルツェの内弟子格のようなピアニスト出身のシンセサイザー奏者なのでしょう。アルバムはB面からどんどん重厚なサウンドに変化していきます。すでにシュルツェは機材をデジタル化して久しいのでサンプリングによるものでしょうが、かつてメロトロン・コーラスで行ったのと同じ用法でドローン効果を狙った混声コーラス音声が次々と重なりあい、シュルツェのソロ作品でもさらに早い時期で重く混濁したサウンドの『タイムウィンド』'75や『イルリヒト』'72まで思い出させる不穏な崩壊感が漂ってくる。シュルツェが自分のアルバムというよりグロッサーのアルバム、と見なすのは、シュルツェ自身の発想からは本作のサウンド傾向は出てこないもので、シュルツェとの共作に当たってグロッサーが提示したモチーフがかつてのシュルツェのアルバムを再構成するような作風につながった、ということを指しているように思えます。同じピアニスト出身のシンセサイザー奏者でもライナー・ブロスはシュルツェとはかなり異なる素養や音楽的指向があり、ブロス参加のシュルツェのソロ作はブロスの音楽性をシュルツェの音楽に組みこんだものでしたし、ブロス主導のコラボレーション・アルバムははっきりブロスの指向性が表れていました。本作のグロッサーはかつての'70年代のシュルツェ作品を'87年時点で再解釈する方にそもそもの発想があり、それが本作を充実した作品にしてもいれば'70年代シュルツェ作品の最新機材と新たな作曲によるセルフ・リメイク的なものにとどめているとも言えるので、'90年代半ばにはシュルツェ自身があえて'70年代作品を思わせる作風に回帰しますがアプローチはもっと気まぐれで大ざっぱな楽しみがあふれたものです。『バベル』は'80年代後半のシュルツェの名作の一枚と言ってよい作品ですが、この傾向のアルバムならすでにシュルツェには代表作があると既視感を感じさせる点で割をくっている。シュルツェがソロ作に数えていないのはそのあたりも含めてのことではないでしょうか。