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映画日記2019年3月1日~3日/フレッド・アステア(1899-1987)のミュージカル映画(1)

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 フレッド・アステア(1899-1987)の出演映画はミュージカル映画が34作、一般映画が8作ありますが、ミュージカル映画のうち『ザッツ・エンタテインメント』'74、『ザッツ・エンタテインメント 'パート2』'76、『ザッツ・エンタテインメント パート3』'94は過去のアーカイヴ・パートを構成したオムニバス作品ですし『パート3』は没後の製作なので、純粋にオリジナル作品のミュージカル映画は31作です。コスミック出版から2017年にリリースされた『ミュージカル パーフェクトコレクション フレッド・アステア』全3巻は各巻DVD9枚組のボックス・セットでパブリック・ドメイン化した'53年の『バンド・ワゴン』までの27作中26作を網羅しており(あとの1作はテレビ用伝記番組『フレッド・アステアのすべて』)、以降のアステアのミュージカル映画は『足ながおじさん』'55、『パリの恋人』'57、『絹の靴下』'57、『フィニアンの虹』'68の4作と減少しており、'59年の『渚にて』以来アステアは一般映画に性格俳優として出演するようになります。ハリウッド黄金時代の最期を飾る大作『バンド・ワゴン』までの27作でミュージカル・スター時代のアステアの全盛期は一望できるので、コスミック出版の廉価版ボックス・セット全3巻は第24作『レッツ・ダンス』'50(日本未公開・TV放映のみ)1作のみを落としていますが、一気にアステア出演のミュージカル映画を観るには格好のセットになっています。収録作品の一覧を上げておきましょう。
[1] ファーストステージ 《幾多の名曲にのせたフレッド・アステアの華麗なるステップ!!》 1.『トップ・ハット』'35、2.『踊るニュウ・ヨーク』'40、3.『イースター・パレード』'48、4.『晴れて今宵は』'42、5.『恋愛準決勝戦』'51、6.『ブロードウェイのバークレー夫妻』'49、7.『踊る結婚式』'41、8.『空中レヴュー時代』'33、9.『セカンド・コーラス』'40
[2] セカンドステージ 《アステアのきらびやかなステップが眩しいミュージカル大全集!!》 1.『バンド・ワゴン』'53、2.『有頂天時代』'36、3.『踊らん哉』'37、4.『スイング・ホテル』'42、5.『ジーグフェルド・フォリーズ』'45、6.『ロバータ』'35、7.『踊る騎士(ナイト)』'37、8.『ベル・オブ・ニューヨーク』'52、9.『ダンシング・レディ』'33
[3] サードステージ 《アステアのダンス めくるめくステップの万華鏡!!》 1.『コンチネンタル』'34、2.『艦隊を追って』'36、3.『気儘時代』'38、4.『土曜は貴方に』'50、5.『カッスル夫妻』'93、6.『青空に踊る』'43、7.『ブルー・スカイ』'46、8.『ヨランダと泥棒』'45、9.『フレッド・アステアのすべて』' 80
 ――フレッド・アステアの出演作はほとんどアメリカ公開翌年(戦時中の作品は戦後)日本公開されて親しまれており、テレビの衛星放送普及前・ハイヴィジョン化前には地上波テレビ放送頻度も高く、ミュージカル映画のため吹き替えではなく字幕放映される機会も多かったので、筆者も代表作の多くに先にテレビ放映から接してきました。旧作外国映画の地上波でのテレビ放映頻度が減少した現在、こうした廉価版ボックス・セットにまとめられてアステア映画が観られるのはたいへん重宝でもあり、一昨年のリリースから観直して楽しんできましたが今回は年代順に並べて観直して感想文を書いていくことにします。なお作品紹介はDVDケース裏の紹介文を先に掲げ、適宜日本公開時のキネマ旬報の新作紹介を引くことにしました。

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●3月1日(金)
『ダンシング・レディ』Dancing Lady (MGM'33)*92min, B/W : アメリカ公開1933年11月24日、日本公開昭和9年11月
監督 : ロバート・Z・レオナード/共演 : ジョーン・クロフォード、クラーク・ゲイブル
◎当時、看板スターだったジョーン・クロフォードとクラーク・ゲイブルのミュージカル・ロマンス。アステアは出演時間は短いものの、クロフォード演じるダンサーの相手役として見事なダンスを披露している。アステアの貴重な映画デビュー作。

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 フレッド・アステアの映画デビューは今で言うカメオ出演に近いもので、主人公のクラーク・ゲイブル演じるレヴュー・ショー演出家がいよいよヒロインのジョーン・クロフォードを主役に抜擢した初ステージで「アステアと合わせてみてくれ」とショーのオープニング曲を踊る相手役として実名で登場します。それまでのリハーサル場面でもダンサー一座に混じってちらちら姿は見えていたのですが、ゲーブルなり他の登場人物、または本人なりがフレッド・アステアを紹介する場面もなければドラマに絡む場面もなしにいきなり「アステアと合わせてみてくれ」ですから、観客はアステアがあの有名ダンサーのアステアでこのショーは一流のショーという前提があるわけで、しかもアステアをフィーチャーした場面は映画全編でもこの場面だけと、これをカメオ出演と言わずして何と言うかという具合です。もともとアステアは舞台の大スターの地位をすでに確立していたので映画進出には乗り気ではなかったといいますから、本作に限っては本当に単なるゲスト、賑やかしとしてワンポイント出演の依頼(つまりアステア登場のリハーサル場面はまとめて一度に抜き撮りされた可能性大)があり、実名出演なのもそれを裏づけます。本作出演時にジョーン・クロフォードはスター女優であり、クラーク・ゲイブルは翌年の『或る夜の出来事』で大ブレイクする直前の登り坂でした。本作はアステアが準主演の『空中レヴュー時代』が昭和9年5月に日本公開された評判から同年11月に遅れて日本公開されたようですが、公開時のキネマ旬報の紹介を引きましょう。
[ 解説 ]「グランド・ホテル」「雨」のジョーン・クローフォードと「夜間飛行」「ホワイト・シスター(1933)」のクラーク・ゲーブルが主演する映画で、ジェームズ・ワーナー・ベラ作の小説を「駄法螺男爵」と同じくアレン・リヴキンとP・J・ウルフソンが共同脚色し、「スザン・レノックス」のロバート・Z・レナードが監督にあたり、「雨」「夜間飛行」のオリヴァー・マーシュが撮影した。助演者は「南風」「爆弾の頬紅」のフランチョット・トーン、「一日だけの淑女」のメイ・ロブソン、「空中レヴュー時代」のフレッド・アステア、「四十八手の裏表」のウィニー・ライトナー、ロバート・ベンチリー、「駄法螺男爵」のテッド・ヒーリー、グローリア・フォーイ、グラント・ミッチェル等で、ダンス振り付けは「素晴らしき人生」のサミー・リーと「ボレロ」のエディ・ブリンツが共同している。
[ あらすじ ] 生まれながらダンスの好きだったジェニー(ジョーン・クロフォード)は怪しげな寄席芸人となって半裸体で踊っていたが、一座は検挙されて彼女も投獄された。見物中の社交界に羽振りの良い青年富豪トッド・ニュートン(フランチョット・トーン)は彼女を保釈出獄させてやり、改めて生活を扶助しようと申し出たが、ジェニーは商売女でなく舞踏を己が生命と信じる純粋のダンサーだったので彼の提案を拒絶した。ブロードウェイに出られまいとトッドに皮肉られたジェニーは奮起して、レヴューの名監督で気難しいパッチ・ギャラガー(クラーク・ゲーブル)を追い回したが機会をつかめなかった。トッドの紹介でようやくパッチ一座のコーラスの仕事にありついたジェニーは、トッドと妥協して舞台で成功すれば良し、もし失敗したらトッドと結婚する約束をした。成功する筈はないとたかを括ってトッドは秘かに一座の後援者となった。ジェニーの技量はパッチに認められたが、一切の事情を知っているパッチは快く思わず彼女に惹かれていく自分の心を抑えていた。しかし彼は感情を抑えレヴュー演出家としてジェニーの精進を認めないわけにはいかなかった。斯くてパッチはジェニーをスターのヴィヴィアン・ワーナー(グローリア・フォーイ)に代わって出演させることにした。いよいよ開演が迫ってジェニーの成功は確実となったので、トッドは急に一座の後援を中止した。そのため開演不可能となり、ジェニーは約束通りにトッドと結婚することを承知したが、トッドが奸計を弄したことを知った彼女はトッドと別れ、パッチが独力でレヴュー興行の旗揚げをしたので、彼と和解しフレッド・アステアと共に出演しダンサーとして素晴らしい成功を収めた。そして彼女はパッチの愛をも得ることができたのである。
 ――本作はMGMのアカデミー賞作品賞受賞作『ブロードウェイ・メロディ』'29始めワーナー社などもこぞってサウンド・トーキー初期に作ったバックステージもので、映画に音声がついたなら歌とダンスで派手に見せるドラマとなると新人のヒロインがステージ・デビューする話が景気が良くてウケる、と量産されたこの手のジャンルがそろそろ飽きられてきた頃にスター女優のクロフォードと人気急上昇中のゲイブルを起用して作られたものです。『シンギング・フール』'28や『ブロードウェイ・メロディ』は今日観るに耐えませんが本作はクロフォードとゲイブルの風格と、サウンド化数年で各段に向上した音声技術で安定した娯楽作品になっており、それなりに面白い映画です。クロフォードは映画デビューのきっかけはダンサーとしての力量だったそうですが、'25年のデビュー当時はともかく'30年代には演技派女優で定評あるスターになっていたので、正直なところ本作で見せるクロフォードのダンスはせいぜい昔取った杵柄といったところで、踊れてはいますが盛りを過ぎた印象で、ダンスの才を見抜かれてショーの主役に抜擢される新人ダンサー役の本作では女優ならともかくダンスは余技だろう程度にしか見えないのに難があります。ゲイブルのキザな実力至上主義者の演出家はさすが急成長の真っ最中だけある色男ぶりで、'30年代のアメリカ映画の中でしか存在しない色男ですが、ジゴロやホストと同類のそのものずばりの色気があります。映画の内容は昔の少女マンガみたいな他愛ないものですが、順序は逆で本作のようなアメリカ映画から生まれたのが少女マンガの世界なので、それを存在感あるスター俳優たちが堂々としたセットで気恥ずかしくもなく演じているのを楽しむのが本作の真っ当な見方でしょう。恋のライヴァル役の金持ち良い人お坊ちゃん役のフランチョット・トーンなどは爽やかな魅力にあふれているので、鬼コーチ役のゲイブルより現実的にはよっぽどいいんじゃないかと思いますが、そこもロマンス映画の世界なのでヒロインはちゃんと危ない男(ギャラガーという役名からするとアイルランド系)の方とくっつきます。と、フレッド・アステアは本当にゲスト出演だけの作品ですが、次作『空中レヴュー時代』ではほとんど主役を食う準主演、その次の『コンチネンタル』では早くも主役スターの座に就くのですから、舞台時代が長く映画デビューこそ遅かったにしてもアステアの映画界での出世は急激で、そのアステアの初出演映画ということで本作は後世に残る作品になりました。本来はクロフォードとゲイブルの音楽ロマンス映画なのですが、それだけでは歴史に埋もれた1作になっていたかもしれないだけに、アステア出演のオマケだけでこの時期の典型的な音楽ロマンス映画を今でも観ることのできるサンプル的作品とも言えます。

●3月2日(土)
『空中レヴュー時代』 Flying Down to Rio (RKO'33)*89min, B/W : アメリカ公開1933年12月29日、日本公開昭和9年5月
監督 : ソーントン・フリーランド/共演 : ドロレス・デル・リオ、ジンジャー・ロジャーズ
◎バンドリーダーのロジャーは、マイアミで出会った美女に一目惚れするが、彼女には婚約者がいて……。アステアとジンジャー・ロジャーズはバンドメンバーという脇役だが、主役と言ってもいいほどの見事なダンスシーンを披露している。

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 書き落としていましたが『ダンシング・レディ』では有名エッセイストのロバート・ベンチリーや三バカ大将(Three Stooges)のゲスト出演もあり(あまり目立ちませんが)、またアル・ジャレットが歌う挿入歌「Everything I Have Is Yours」(バートン・レイン、ハロルド・アダムソン作)はビリー・エクスタインやビリー・ホリデイによってのちにジャズ・スタンダードになりました。エクスタインやビリーのヴァージョンのしっとりとした情感で知ると映画のアル・ジャレットの歌唱はコミック・ソングみたいなのですが、アステアの初出演映画からも同曲があるように、このあとの本格的なアステア映画は陸続としてのちにスタンダード曲となる名曲が生み出されていきます。さて、フレッド・アステアは舞台ではすでにトップ・スターだったのですが、この頃には舞台のミュージカルとオリジナルの「ミュージカル映画」は別物という風潮が出てきたらしく、RKO映画社ではアステアを起用して舞台劇の映画化ではないミュージカル映画を作ろうという企画が起こりました。アステアの本格的な映画出演作としては最初になる『空中レヴュー時代』はブラジルの富豪令嬢役のドロレス・デル・リオと、アメリカのジャズ・ビッグバンドのリーダー役のジーン・レイモンドの音楽ロマンス映画ですがコメディ色が強く、リオをめぐって実は親同士が決めたリオの婚約者だったブラジル富豪の親友(ラウル・ロウリン)と恋と友情の板挟みになる、というロマンス・コメディが進んでいる間、ビッグバンドの方ではピアニスト兼音楽監督のアステアとバンド・シンガー兼女性ダンサー・チームのリーダーのジンジャー・ロジャースが映画のあちこちで4曲を歌い踊るシーンが平行して描かれ、アステアとロジャースの共演映画として記念すべき第1作になった上に、ロマンス・コメディの方の主演俳優たちよりもアステアとロジャースの歌とダンスが映画を食ってしまった作品になり、本作の成功から次作『コンチネンタル』以降はアステアとロジャースの主演映画がしばらく続き、ロジャースとのコンビ解消後もアステアは主演スターとしてさまざまな相手役とともに映画出演を続けていくことになります。本作も日本公開時のキネマ旬報の紹介を引いておきましょう。
[ 解説 ]「レヴュー艦隊」と同じくルウ・ブロックが作製に参与した映画で、自ら原案を立て「類猿人ターザン(1932)」のシリル・ヒューム、「宝石泥棒」のアーウィン・ゲルシー、H・W・ヘーンマンがこれを共同脚色し、「フービー」「突貫赤ん坊」のソーントン・フリーランドが監督「スポーツ・パレード」「頓珍漢嫁探し」のJ・ロイ・ハントが撮影した。作曲は舞台のミュージカル・コメディーで名高いヴィンセント・ユーマンスが書き、舞踊は「レヴュー艦隊」のデーヴ・ゴールドが振り付けしている。主演者は「南海の劫火(1932)」「リオの誘惑」のドロレス・デル・リオ、「ブタペストの動物園」「紅塵」のジーン・レイモンド、「素晴らしき人生」「デリシアス」のラウル・ロウリン、「四十二番街」「ゴールド・ディガース」のジンジャー・ロジャース、英米ミュージカル劇団の人気俳優フレッド・アステアという顔振れで、ウォルター・ウォーカー、フランクリン・バクグボーン、故ブランシュ・フレデリシ等が助演している。
[ あらすじ ] ロージャー・ボンド(ジーン・レイモンド)は金持のお坊ちゃんで「ヤンキー・クリッパース」と称するジャズ・バンドにリーダーをしている。小唄作家としても相当の腕があり、自用の飛行機にはピアノを積み込んでいるという変わり者だ。フロリダのマイアミで彼のバンドを指揮した時、ロージャーはラテン系の美人に岡惚れした。その美人は南米リオ・デ・ジャネイロのレゼンデ(ウォルター・ウォーカー)という富豪の1人娘ベリニャ(ドロレス・デル・リオ)だった。ところがロージャーは彼女とダンス等したために、ホテルから出演お断りされてしまう。ベリニャは父親が病気のため支給帰国することになった。一方ロージャーもリオのアトランチコ・ホテルから申込があった。そこで彼は自分の飛行機に彼女を同乗させる。途中無人境と思わしき所に不時着してロージャーは恋をささやいた。ところが彼女には婚約者がリオにあるという。しかもその婚約者は、彼の大学の同窓ドン・ジュリオ(ラウル・ロウリン)だった。そしてアトランチコ・ホテルはベリニャの父レゼンデの経営するものであった。ところがホテルを横取りしようと企んでいる悪資本家組合はその筋を動かして、ブラジルの主府の大ホテルでアメリカ音楽を演奏することを許さず、という命令を出させた。そのためせっかくやってきたヤンキー・クリッパース一行は手も足もでないこととなり、ベリニャは幼年時代にドン・ジュリオと誓い合った婚約は破ることはできない、というのでロージャーは恋にも破れねばならない羽目となった。が、ヤンキー・クルッパースが出演できぬとなれば、ベリニャの父親は責任上ホテル経営しなければならぬ、ということを知ったロージャーは愛人の父を救うために、リオ・デ・ジャネイロの上空で飛行機応用の空中レヴューを演ずる計画を立てる。それは世界最初の空中レヴューとして大成功を博し、ベリニャの父親の面目は立って悪資本家組合は敗退の止むなきに到った。ロージャーはそれを名残にアメリカへ帰るべく定期旅客機に乗った。ドン・ジュリオはベリニャが真実愛しているのはロージャーである以上自分が退くことを決意し、彼女をせき立てて飛行機上で結婚しようといって出発間際の旅客機に乗り込んだ。そして飛行士に頼んでベリニャとロージャーに空中結婚の式を挙げさせ、自らはパラシュートで飛び降りたのである。
 ――前記の通りこの映画ではバンド・リーダーのレイモンドがリオとのロマンス・コメディ担当、レイモンドのバンドの親友で音楽監督役のアステアが歌手役のロジャースとともにミュージカル場面担当とパラレルに進んでいくために、ドラマを追ったあらすじの上ではアステアもロジャースも出てきません。アステアとロジャースも「ダンスと歌はいいけど、演技は……」と本人たちが遠慮したのか、ドラマ場面とミュージカル場面は分けた方が構成も撮影効率もすっきりするからか、クライマックスのショーで地上でビッグバンドが演奏し、プロペラ機数機の翼に安全帯で固定した女性ダンサー・チームが飛行機の翼の上で空中レヴューを踊る(ここの特撮と合成撮影は上手くできており、CGとは違ったリアルすぎない良さが出ています)とんでもないシーンになりますが、映画全編観終えると結局アステアとロジャースがコンビで歌い踊るシーンが一番印象に残る、という具合になっています。本作の場合はドロレス・デル・リオとジーン・レイモンド、ラウル・ロウリンの三角関係のロマンス・コメディも映画のバランスではミュージカル場面とつりあいが取れているので、レイモンドが恋愛で忙しい間にバンドのリーダー代理になったアステアとロジャースのミュージカル場面はクライマックスまではロマンスとは別に進行するのも映画の要素を二つに分けて無理に絡ませず見通しの良いものにしており、これでアステアとロジャースまでをロマンス・コメディのドラマ進行に絡ませると話がややこしくなっていたでしょう。4曲ある本作の歌唱・ダンス場面のうち1曲はレイモンドがリオに捧げて作曲したという設定の歌曲ですしクライマックスの1曲は全員登場ですからアステアとロジャースのコンビの担当は2曲ですが、本作では額をくっつけあって踊るラテン曲「カリオカ」のシーンがハイライトになりました。アステアの役名はフレッド、ロジャースの役名はハニーという具合にバンド・メンバー役の二人は限りなく素に近いので、映画のキャラクターというよりミュージシャンでダンサーの二人がそのまま出演して芸を披露している感じですし、バンドのピアニスト兼音楽監督役のアステアも歌手兼ダンサー・チームのリーダーのロジャースも素顔に近い役柄です。ロジャースにうながされたアステアが「ダンスは得意じゃないんだが……」と、それなりに映画の登場人物らしい台詞もありますが、これはバンドマン役のアステアがダンスも踊るための言い訳みたいな半分ギャグの言い訳でしょう。本作はドロレス・デル・リオのお目付役のエレナおばさん(ブランシュ・フレデリシ)のように『コンチネンタル』につながっていく人物配置もあり、また伝説的メキシコ人ハリウッド女優ドロレス・デル・リオ(1904-1983)の代表作でもあります。クライマックスの突拍子もない空中飛行ダンスなどは、確かに舞台のミュージカルではできない趣向でしょう。製作費46万ドルに対して興行収入155万ドルを上げた本作でアステアとロジャースの成功を確信したRKO映画社は、次作『コンチネンタル』では早くもアステア&ロジャースの主演作に乗り出すのです。

●3月3日(日)
『コンチネンタル』The Gay Divorcee (RKO'34)*107min, B/W : アメリカ公開1934年10月12日、日本公開昭和10年4月
監督 : マーク・サンドリッチ/共演 : ジンジャー・ロジャーズ
◎有名ダンサーのガイは令嬢ミミに一目惚れ。しかし、ミミは自分の離婚問題が原因でガイには一切見向きもせず……。本作がアステアとジンジャー・ロジャーズの初主演とは思えないほど息の合ったミュージカル・ロマンス。

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 フレッド・アステアとジンジャー・ロジャース(1911-1995)のコンビの初主演映画にして製作費52万ドルに対して興行収入180万ドルの大ヒット作になった本作は、以降もアステア&ロジャース映画の傑作を作り出すことになるマーク・サンドリッチ(1900-1945)の監督作で、サンドリッチはアステアとビング・クロスビーの共演作『ブルー・スカイ』'46のテスト撮影中に急逝しましたが(映画はスチュワート・ヘイスラー監督で完成・公開)、'30年代~'40年代にもっとも成功したハリウッド監督の一人で早い逝去が惜しまれます。本作は映画界入りの前にアステアが姉のアデールとヒットさせた舞台劇の映画化権をRKO映画社が押さえたことで企画されましたが、アステアは当初ロジャースとの再共演が『空中レヴュー時代』の二番煎じにならないか、また映画向けの題材ではないのではないかと難色を示し、RKO社はコール・ポーターによるヒット主題曲「夜も昼も(Night And Day)」以外の挿入歌4曲は映画書き下ろしに一新すること、レヴュー場面はすべてアステアに演出・監修権を与えて興行収入の1%を別報酬とすることなどの特別契約によって実現しました。本作の大ヒットによって次作以降もアステアはロジャースと8作で共演することになります(通算で全10作)。本作のアステアは映画の登場人物とはいえ誰もが知る有名ダンサーという本人そのままの役柄ですが、ゲスト出演の『ダンシング・レディ』はもちろん準主演作でロジャースと共演作の『空中レヴュー時代』ではロマンス・コメディは主演俳優に任せてミュージカル場面担当だったのが、主演映画となるとミュージカル場面はもちろんロマンス・コメディのドラマまでアステアとロジャースが主役にならなければならない。舞台ミュージカルでは当然アステアはそれを演っていたのですが、舞台と映画ではリアリティの基準が違うのも当然わかっていたでしょうし、アステアのルックスは洒落者ではあっても色男ではありません。舞台ではどんな容姿の俳優でも演技次第で色男になり得ますし、女優も容姿や年齢を超越できますが、映画のリアリティとなるとそうはいかない。サンドリッチはもともとコメディ畑の映画監督でしたし、アステアがミュージカル場面の演出・監修を買って出てくれたのはむしろ好都合だったでしょう。アステアのミュージカル場面はミュージカル場面として独立し、そのトーンに合わせて(または対比させて)ロマンス・コメディのドラマを演出し、全体をまとめるのがサンドリッチの役割になるので、いわばアステアとロジャースはミュージカル場面とドラマ場面では一つの映画の同一キャラクターながら歌とダンス、ドラマ俳優の二役を勤めることになり、ロマンス・コメディのドラマ場面に無理にミュージカル部分を絡めるような強引な構成はかえって避けられることになります。アステアが映画向けでないと懸念した離婚コメディの部分は、これを正面からやるとエルンスト・ルビッチ的なブルジョワ風刺的な刺激の強いものになり、ルビッチの場合はウィーンやパリ、ロンドンと設定や登場人物を外国人にして和らげていたのですが、アステアのダンスはアメリカのダンスですから外国人キャラクターには置き換えられない。本作の設定はロンドンですが、アステアは国際的アメリカ人ダンサーという役柄です。またアステアの懸念は男尊女卑的な離婚コメディになっては観客の不興を買うという舞台人ならではの勘にあり、ルビッチ的な結婚コメディではどうしても女性を揶揄するようなニュアンスが入ってきます。ルビッチの場合それはブルジョワ階級批判と表裏一体なので女性を揶揄する男性視点もまた揶揄の対象なのですが、こうしたこともコメディ畑の監督だったサンドリッチはさじ加減を心得た上で脚本を解釈していったのでしょう。それがどんな具合かは後段に譲ることにし、先に日本初公開時のキネマ旬報の紹介を引いておきます。
[ 解説 ] 1932~33年にニューヨークで、1933~34年にロンドンで好評を得たドワイト・テイラー作のミュージカル・コメディー「陽気な離婚」の映画化で、脚色には「ラジオは笑う」「その夜」のジョージ・マリオン・ジュニアと「ふるさとの唄」のドロシ・ヨーストが共同し、監督には「メリケン万歳爆走の巻」「レヴュー艦隊」のマーク・サンドリッチが当った。主役は「空中レヴュー時代」に出演したフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースのチームで「坊やが盗まれた」「紐育・ブロードウェイ」のアリス・ブラディ、「生活の設計」「恋の手ほどき(1933)」のエドワード・エヴァレット・ホートンが共演するほか、エリック・ローズ、エリック・ブローア、ウィリアム・オースティン等が助演している。舞踏振り付けは「空中レヴュー時代」「レヴュー艦隊」のデーヴ・ゴールドで、撮影は「舗道」「お蝶夫人」のデイヴィット・エーベル、トリック撮影は「コングの復讐」のヴァーノン・ウォーカーが担当。
[ あらすじ ] 米国人のガイ・ホールデン(フレッド・アステア)と言う唄と踊りの名手が親友のエグバート・フィッツジェラルド(エドワード・エヴァレット・ホートン)と一緒にパリからロンドンへ帰る途中、税関である妙令の女と会う。彼女の服の一端が間違ってトランクに挟まれて、困っているのをガイは救ってやり、一目で彼女に惚れてしまう。ところが彼女は名前も告げず立ち去った。ガイは倫教中を捜しまわってある日偶然彼女と会うが、今度も彼女が名をミミ(ジンジャー・ロジャース)という事だけで、住所は知り得ぬうちに逃げられてしまう。ガイが恋にやつれて居るのを知りながら、親友のエグバートは生来の鈍感さで、そのミミこそ彼の法律事務所に離婚の相談に来ている若い婦人であるとは気がつかない。エグバートはミミの伯母ホーテンス(アリス・ブラディ)から、夫ルパート(ウィリアム・オースティン)に虐待されている可愛そうな姪を救ってくれと頼まれたので、精一杯の知恵袋をしぼり、トネッチ(エリック・ローズ)というジゴロを雇って一芝居うち、ルバートを怒らせて離婚を成立させようという苦肉の策を立てたのである。その舞台としてエグバーグは海水浴場を選び、うさを晴らすのに良いから、と口説いてガイを伴って出掛ける。ミミもホーテンス伯母さんと一緒に来て、同じホテルに泊まった。ミミと会ったガイは天にも登る心地で恋を告白すると、どうやら彼女も憎からず思う様子。ところが、ふとした間違いかミミはガイをトネッチと勘違いして悲観してしまう。が本物のトネッチが現れたので、なにもかも理解し合って、ガイとミミは、ミミが離婚の暁には早速婚約しようと約束し、新ダンスのコンチネンタルを踊って陽気に一夜を明かす。翌朝ミミの夫ルバートがやって来るが、エグバートが案出した苦肉の策は見事にはずれ、ルバートは怒らず離婚は出来なくなりかける。ところが給仕(エリック・ブローア)の口からルバートの不品行が暴露したので、ミミの方から離婚する立派な口実が出来て万事めでたく解決したのである。
 ――一見すると軽薄なくらい他愛ないほどのこの離婚・求婚コメディは、実に巧妙に重くなりそうなテーマを交わしているので、軽薄なのも他愛ないのも計算のうちなのが徐々に伝わってきます。本作のロマンス・コメディ場面でのアステアは誇張気味なほど軽薄で、素のアステアに近い『空中レヴュー時代』の自然な明るさどころか一種の躁状態なんじゃないかと思えるほどです。一方ロジャースの方は庶民的で明るいショー・ガールの『空中レヴュー時代』とは打って変わってクール・ビューティー気取りで、これも富裕階級夫人という本作の役柄に由来しますが、要するにロマンス・コメディとしてのドラマ場面ではアステアもロジャースも映画の登場人物を演じています。ロマンス映画やコメディ映画にはキャラクターの誇張があるのは当然ですし、アステアとロジャースの場合は少しやり過ぎなんじゃないかと思うくらいはしゃいでいたりクールだったりしますが、全編がこの調子でもさほど悪い出来ではないでしょう。ただし本作の時点ではまだアステアもロジャースも純粋に主演俳優・ヒロインらしい風格は備わっていないので(のちに二人ともミュージカル場面のないドラマ映画でも活躍するようになりますが)、本作はミュージカル場面とのコントラストで輝かしい映画になっています。つまり演技の面ではキャラクターを「演じている」といった感じの二人が、ミュージカル場面では水中花が水の中でぱっと開くように映画のキャラクターを超えた存在感で迫ってくる。5曲ある歌唱・ダンス場面では有名な「夜も昼も」のデュエット・ダンス、そして映画版の主題曲となった「コンチネンタル」の17分に渡るエキストラ・ダンサーを交えたダンス・シーンが圧巻で、同曲はこの年のアカデミー賞から創設されたアカデミー賞主題歌部門を受賞しています。本作は受賞は逸するもアカデミー賞作品賞、室内装置賞、録音賞、作曲賞と他4部門にノミネートされ、批評も絶賛ならば興行収入もRKO映画社の予想を超えた大ヒットになりました。エドワード・エヴァレット・ホートン演じるそそっかしくて面倒見の良い親友エグバート、アリス・ブラディ演じるヒロインのお目付役のホーテンスおばさん、エリック・ローズ演じる離婚訴訟のための間男役を職業にしているイタリア男トネッティ、エリック・ブローア演じる考古学マニアのホテルマンに去年愛人と来ましたよねと暴露されるヒロインの考古学教授の夫ルパート(ウィリアム・オースティン)と、人物配置から見ればこれはほとんどどたばたコメディなのですが、ミュージカル場面になると超人的なアステアのダンスと見事に合わせるロジャースのダンス(ロジャースの場合は衣装の優雅さがさらにダンスを引き立てている、女優ならではの強みもあります)が俗っぽいコメディ・ドラマを洗い流し、ロマンス・コメディ自体も二人の歌唱とダンスの格調に高まります。アステアもロジャースも1作ごとに映画俳優らしい演技になっていくので、本作からの9作のコンビ主演作もいずれ劣らない好作揃いですし、どの作品がアステア&ロジャースの最高傑作かは票が割れる(9作中サンドリッチ監督作品は5作)のですが、アステア&ロジャース初主演作というだけで本作は本作きりのみずみずしさがあり、それは多少の悪ふざけの上すべりが目立っても十分相殺されています。またダンサーというアスリート的な条件でも初期の主演作は体技で点を稼いでいるのは見逃せません。

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