エルンスト・フックス、クラウス・シュルツェ、ライナー・ブロス Ernst Fuchs, Klaus Schulze, Rainer Bloss - アフリーカ Aphrica (Inteam, 1984) Full Album
Recorded at INTEAM Studio, Hambuhren, September 1983
Released by Metronome Musik GmbH/Inteam GmbH, ID 20.001, March 1983
Composed and Performed by Klaus Schulze and Rainer Bloss
Words, Vocals and Artwork by Ernst Fuchs
(Seite 1)
A1. Aphrodite : https://youtu.be/GS5owKKx1Nw - 19:40
(Seite 2)
B1. Brothers And Sisters : https://youtu.be/LZhTppVZfiI - 12:20
B2. Africa : https://youtu.be/aNqRXpt_KsA - 6:50
[ Personnel ]
Klaus Schulze - electronics
Rainer Bloss - piano, keyboards
Ernst Fuchs - vocals
*
(Original Inteam "Aphrica" LP Liner Cover & Seite 1/2 Label)
クラウス・シュルツェの公式サイトのディスコグラフィーにはシュルツェ自身による自註があちこちに注記されていますが、本作はデータとアルバム・ジャケットを掲したページの下註に、英文で「genant/peinlich/ridiculous. Was immediately taken off the market and off the catalogue. Will never be released again. Occasionally appearing CDs are illegal stuff from Far East.」と記されています。簡単に訳すと「不気味で/恥ずべき/馬鹿げた代物。すぐに市場とカタログから抹消した。今後再発売することは絶対ない。時々出回るCDはアジア圏での海賊盤である」とにべもありません。しかし本作はLPからそっくり紙ジャケットに起こした韓国盤CDが法律上では著作権法に触れないため堂々と輸入盤店でロングセラーになっている'80年代シュルツェの関連アルバムでも隠れた名作とマニア間では名高い作品で、実は筆者も海賊盤CDで愛聴していたアルバムだったので、シュルツェ自身がそういうコメントを公式サイトにつけて本作を事実上の抹殺作品にしていたとは知りませんでした。ライナー・ブロス(1946-2015)は名盤『オーデンティティ』'83の立役者であり『ポーランド・ライヴ』'83で凄まじいキーボード・デュオのバトルをシュルツェとくり広げていたピアニストであり、また本作は画家がアートワークとコンセプト、歌詞を書きヴォーカルをとる作品という点でコズミック・ジョーカーズ・セッションの傑作、ヴァルター・ヴェグミュラーの『タロット』'73、セルギウス・ゴロヴィンの『ロード・クリシュナ・フォン・ゴロカ』'73の'80年代版の観があり、エルンスト・フックス(1930-2015)は戦後ドイツのウィーン幻想リアリズム派の画家としてタロット作家・研究家のヴェグミュラー、東洋思想研究家のゴロヴィンより高名で国際的名声も高く、'88年にはエルンスト・フックス美術館まで建てられている人物です。英語版ウィキペディアによると'70年代以降はモーツァルトを始めにワーグナーのオペラの舞台美術をほとんどの代表作の上演のたびに手がけており、シュルツェはワーグナーの熱烈な崇拝者ですからそのあたりで接点を持ったと思われます。アルバム・タイトルの『アフリーカ(Aphrica)』は収録曲通りアフロディーテ(Aphrodite)とアフリカ(Africa)の合成語であり、LPでA面に20分の大曲1曲、B面に12分半の曲と7分の曲の2曲、というのも'74年のシュルツェの『ブラックダンス』『ピクチャー・ミュージック』あたりの構成を思わせ、シュルツェがアルバムにヴォーカル(ヴォイス)を導入する時は呪術的な声質が常だったのを思えばフックスのおどろおどろしいヴォーカルはこれまでのシュルツェの好みに合ったもののように思われ、サウンドは'70年代よりよりエレクトロニクス色が強まっていますがオーガニックな側面はシュルツェより正統的なインプロヴァイザーであるプレイヤーのブロスのプレイが担っています。隠れた名作とされてきたのはそうした事情ですし、現に韓国盤でCDがロングセラーになっているのはシュルツェ自身が再リリースしないからですが、韓国盤CDは紙ジャケット盤なのでレコード番号もオリジナルLP通りであり、筆者も公式リリースなのか半信半疑でした。しかしシュルツェ自身のコメントは上記の通りで、すぐ回収してカタログからも抹消したというくらいですから出回っている中古LPも少ないでしょう。
シュルツェがそれほど本作を嫌い恥じているとすら言うのは、考えられるとしたらフックスという画家自身によほどシュルツェが嫌な思いをしたか、フックスの書いた歌詞と歌い方がドイツ語圏のリスナーには「不気味で/恥ずべき/馬鹿げた代物」に聞こえる、ということなのでしょう。そうなるとドイツ語がわからなければニュアンスもくみ取れない外国人のリスナーには判断のしようがありません。割を食ったのはライナー・ブロスですが、シュルツェ自身がそう判断しているのであればブロスも同感だったろうと思われます。どれだけこけおどしのひどい歌詞をうんざりして恥ずかしくなるような歌い方をしているのかドイツ語ネイティヴやドイツ語に堪能な方に教えを請いたいくらいですが、ヴェグミュラーの『タロット』やゴロヴィンの『ロード・クリシュナ』、シュルツェの『ブラックダンス』のエルンスト・ヴァルター・シーモン、『デューン』や『...ライヴ...』『タイム・アクター』のアーサー・ブラウンのヴォーカルだって相当なものだったのを思えば、本作のエルンスト・フックスの歌詞とヴォーカルはドイツ語をわかればよっぽど品性に欠けた厭らしいものに聞こえるようです。シュルツェをして絶対再発売しない、と抹殺宣言させたほどのものとなるとなおさらでしょう。シュルツェの意をくんだか、YouTubeには本作から全編39分をヴォーカル・パートをすべてカットしてアルバム全編を13分半にまとめたインストルメンタル・ヴァージョンすらアップされているくらいですから、実際ドイツ語圏のリスナーにはシュルツェの意向はもっともだと首肯できるものなのでしょう。またシュルツェらドイツのヒッピー世代に支持されていて相互理解があったヴァルター・ヴェグミュラー(1937-)やセルギウス・ゴロヴィン(1930-2006)とは違って、エルンスト・フックスは一緒にアルバムを作ってみたらすごく嫌な奴だった、聴き直しても嫌になる、あんな厭らしい奴と作ったアルバムは一応出すが即廃盤にしてやる(Inteamはシュルツェの自主レーベルです)、というような身も蓋もない理由があってもアーティスト同士のコラボレーションでは十分起こり得る事情だと思います。それでもドイツ語を解さないリスナーにはなかなかの名作に聴こえる、という皮肉があり、本作は韓国盤がロングセラーを続けている事態が続いているのです。
*
Klaus Schulze and Rainer Bloss - Aphrica (Instrumental) : https://youtu.be/tCHQVA8qwro - 13:31
Recorded at INTEAM Studio, Hambuhren, September 1983
Released by Metronome Musik GmbH/Inteam GmbH, ID 20.001, March 1983
Composed and Performed by Klaus Schulze and Rainer Bloss
Words, Vocals and Artwork by Ernst Fuchs
(Seite 1)
A1. Aphrodite : https://youtu.be/GS5owKKx1Nw - 19:40
(Seite 2)
B1. Brothers And Sisters : https://youtu.be/LZhTppVZfiI - 12:20
B2. Africa : https://youtu.be/aNqRXpt_KsA - 6:50
[ Personnel ]
Klaus Schulze - electronics
Rainer Bloss - piano, keyboards
Ernst Fuchs - vocals
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(Original Inteam "Aphrica" LP Liner Cover & Seite 1/2 Label)
クラウス・シュルツェの公式サイトのディスコグラフィーにはシュルツェ自身による自註があちこちに注記されていますが、本作はデータとアルバム・ジャケットを掲したページの下註に、英文で「genant/peinlich/ridiculous. Was immediately taken off the market and off the catalogue. Will never be released again. Occasionally appearing CDs are illegal stuff from Far East.」と記されています。簡単に訳すと「不気味で/恥ずべき/馬鹿げた代物。すぐに市場とカタログから抹消した。今後再発売することは絶対ない。時々出回るCDはアジア圏での海賊盤である」とにべもありません。しかし本作はLPからそっくり紙ジャケットに起こした韓国盤CDが法律上では著作権法に触れないため堂々と輸入盤店でロングセラーになっている'80年代シュルツェの関連アルバムでも隠れた名作とマニア間では名高い作品で、実は筆者も海賊盤CDで愛聴していたアルバムだったので、シュルツェ自身がそういうコメントを公式サイトにつけて本作を事実上の抹殺作品にしていたとは知りませんでした。ライナー・ブロス(1946-2015)は名盤『オーデンティティ』'83の立役者であり『ポーランド・ライヴ』'83で凄まじいキーボード・デュオのバトルをシュルツェとくり広げていたピアニストであり、また本作は画家がアートワークとコンセプト、歌詞を書きヴォーカルをとる作品という点でコズミック・ジョーカーズ・セッションの傑作、ヴァルター・ヴェグミュラーの『タロット』'73、セルギウス・ゴロヴィンの『ロード・クリシュナ・フォン・ゴロカ』'73の'80年代版の観があり、エルンスト・フックス(1930-2015)は戦後ドイツのウィーン幻想リアリズム派の画家としてタロット作家・研究家のヴェグミュラー、東洋思想研究家のゴロヴィンより高名で国際的名声も高く、'88年にはエルンスト・フックス美術館まで建てられている人物です。英語版ウィキペディアによると'70年代以降はモーツァルトを始めにワーグナーのオペラの舞台美術をほとんどの代表作の上演のたびに手がけており、シュルツェはワーグナーの熱烈な崇拝者ですからそのあたりで接点を持ったと思われます。アルバム・タイトルの『アフリーカ(Aphrica)』は収録曲通りアフロディーテ(Aphrodite)とアフリカ(Africa)の合成語であり、LPでA面に20分の大曲1曲、B面に12分半の曲と7分の曲の2曲、というのも'74年のシュルツェの『ブラックダンス』『ピクチャー・ミュージック』あたりの構成を思わせ、シュルツェがアルバムにヴォーカル(ヴォイス)を導入する時は呪術的な声質が常だったのを思えばフックスのおどろおどろしいヴォーカルはこれまでのシュルツェの好みに合ったもののように思われ、サウンドは'70年代よりよりエレクトロニクス色が強まっていますがオーガニックな側面はシュルツェより正統的なインプロヴァイザーであるプレイヤーのブロスのプレイが担っています。隠れた名作とされてきたのはそうした事情ですし、現に韓国盤でCDがロングセラーになっているのはシュルツェ自身が再リリースしないからですが、韓国盤CDは紙ジャケット盤なのでレコード番号もオリジナルLP通りであり、筆者も公式リリースなのか半信半疑でした。しかしシュルツェ自身のコメントは上記の通りで、すぐ回収してカタログからも抹消したというくらいですから出回っている中古LPも少ないでしょう。
シュルツェがそれほど本作を嫌い恥じているとすら言うのは、考えられるとしたらフックスという画家自身によほどシュルツェが嫌な思いをしたか、フックスの書いた歌詞と歌い方がドイツ語圏のリスナーには「不気味で/恥ずべき/馬鹿げた代物」に聞こえる、ということなのでしょう。そうなるとドイツ語がわからなければニュアンスもくみ取れない外国人のリスナーには判断のしようがありません。割を食ったのはライナー・ブロスですが、シュルツェ自身がそう判断しているのであればブロスも同感だったろうと思われます。どれだけこけおどしのひどい歌詞をうんざりして恥ずかしくなるような歌い方をしているのかドイツ語ネイティヴやドイツ語に堪能な方に教えを請いたいくらいですが、ヴェグミュラーの『タロット』やゴロヴィンの『ロード・クリシュナ』、シュルツェの『ブラックダンス』のエルンスト・ヴァルター・シーモン、『デューン』や『...ライヴ...』『タイム・アクター』のアーサー・ブラウンのヴォーカルだって相当なものだったのを思えば、本作のエルンスト・フックスの歌詞とヴォーカルはドイツ語をわかればよっぽど品性に欠けた厭らしいものに聞こえるようです。シュルツェをして絶対再発売しない、と抹殺宣言させたほどのものとなるとなおさらでしょう。シュルツェの意をくんだか、YouTubeには本作から全編39分をヴォーカル・パートをすべてカットしてアルバム全編を13分半にまとめたインストルメンタル・ヴァージョンすらアップされているくらいですから、実際ドイツ語圏のリスナーにはシュルツェの意向はもっともだと首肯できるものなのでしょう。またシュルツェらドイツのヒッピー世代に支持されていて相互理解があったヴァルター・ヴェグミュラー(1937-)やセルギウス・ゴロヴィン(1930-2006)とは違って、エルンスト・フックスは一緒にアルバムを作ってみたらすごく嫌な奴だった、聴き直しても嫌になる、あんな厭らしい奴と作ったアルバムは一応出すが即廃盤にしてやる(Inteamはシュルツェの自主レーベルです)、というような身も蓋もない理由があってもアーティスト同士のコラボレーションでは十分起こり得る事情だと思います。それでもドイツ語を解さないリスナーにはなかなかの名作に聴こえる、という皮肉があり、本作は韓国盤がロングセラーを続けている事態が続いているのです。
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Klaus Schulze and Rainer Bloss - Aphrica (Instrumental) : https://youtu.be/tCHQVA8qwro - 13:31