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『あなた買います』(松竹大船'56)*112min, B/W・昭和31年11月21日公開
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[ スタッフ ] 監督 : 小林正樹 / 脚色 : 松山善三 / 原作 : 小野稔 / 企画 : 小梶正治 / 撮影 : 厚田雄春 / 美術 : 平高主計 / 音楽 : 木下忠司 / 録音 : 大村三郎 / 照明 : 須藤清治
[ 解説 ] ストーブ・リーグと呼ばれる野球界の裏話――小野稔の原作を「忘れえぬ慕情 Printemps_a_Nagasaki」の松山善三が脚色、「壁あつき部屋」の小林正樹が監督する。撮影は「晴れた日に」の厚田雄春。主な出演者は「涙」の佐田啓二、「壁あつき部屋」の岸恵子、「ここは静かなり」の大木実、「壁あつき部屋」の伊藤雄之助、「午後8時13分」の水戸光子、他に三井弘次、東野英治郎、山茶花究、多々良純、須賀不二夫、十朱久雄、石黒達也、花澤徳衛、織本順吉のヴェテラン陣。
[ 配役 ] 佐田啓二 : 岸本大介 / 伊藤雄之助 : 球気一平 / 水戸光子 : 谷口凉子 / 岸恵子 : 谷口笛子 / 大木実 : 栗田五郎 / 谷崎純 : 父 / 三井弘次 : 栗田為吉 / 花澤徳衛 : 栗田米次 / 磯野秋雄 : 栗田三郎 / 水上令子 : 嫁里子 / 織本順吉 : 四郎 / 泉京子 : 誕生祝の令嬢 / 佐々木孝丸 : 白石梅之助 / 須賀不二夫 : 宮沢監督 / 十朱久雄 : 坂田豪助 / 山茶花究 : 古川太郎 / 石黒達也 : 六甲忠助 / 多々良純 : 島悠助 / 小林十九二 : 夏目詮三 / 長島豊次郎 : 川尻監督 / 東野英治郎 : 大串 / 内田良平 : 新聞記者A / 末永功 : 新聞記者B / 大杉莞児 : 運転手 / 稲川善一 : 事務員 / 草香田鶴子 : 高山の母親 / 春日千里 : 待合の女将
[ あらすじ ] 東洋フラワーズのスカウト岸本は、重役から、大学選手の強打者栗田五郎をスカウトしろと命じられていた。だが栗田には、彼を大学へあげ優秀な野球選手に迄育て上げた球気一平という得体の知れぬ男がついていた。球気は岡山に妻子がいるのに東京で旅館を経営する谷口涼子と関係し、貿易会社に勤めつつも、栗田で一儲けを狙っていた。栗田を引抜くには先ず球気を落すのが必要と知った岸本は、早速、工作を開始。無口な栗田は球気には従順だった。そして涼子の旅館に出入りする中彼女の妹笛子と愛し合うようになった。栗田を二重に縛ったとホクソ笑む球気に比べ、笛子は世間にチヤホヤされ栗田の性格が変って行くのを心配し、プロ入りには反対だった。岸本が動き出すと、他の球団も策動を開始。とくに大阪ソックスの古川や阪電リリーズの島が目立った。球気は各球団を操り、栗田の値と同時に自分の報酬も上げようとの魂胆で、契約を迫られると、いつも秋のリーグ戦までと逃げていた。リーグ戦は栗田の活躍裡に終了。かつて栗田を大学へあげ得ず、誓約書を入れて球気に一身を任した高知の実家も、欲につかれて球気に絶縁状を送って来た。栗田はリーグ戦終幕と共に帰郷し、球気は岸本の条件に大体の腹を決めていた。大金を持った岸本始め、スカウト達は争って高知へ。家族と各球団のかけ引の末には兄弟の間で刃傷沙汰まで起きた。栗田は、胆石で死の床にある球気を尻目に、笛子とも縁を切り大阪ソックスに入った。球気の亡骸を前に、岸本は「今度は栗田をデッド・ボールで殺すようなピッチャーを探し出す」と、決意をこめて誓うのだった。
――このあらすじはちょっと違っていて、球気(伊藤雄之助)の死期を看取ったのは最後まで恩師・球気による有望選手(大木実)の説得に賭けていた岸本(佐田啓二)ですが、球気の死を看取ったあと岸本が有望選手の実家に押しかけたスカウトたちのところに駆けつけると、有望選手は逆指名ですでに大阪ソックスと契約してしまっている。有望選手は農家の五男なので上の四人の兄たちは別々の球団から買収され、刃傷沙汰まで起きている。実は周囲を手玉に取っていたのは純粋な野球青年のように振る舞っていた大学野球の有望選手自身だった、というのがわかり、恋人の岸恵子も失望して有望選手に別れを告げる(野心家の大木実も未練はまったくない)のですが、そうしたところに遅れて到着した岸本は長男が三男を刺して逮捕されたニュースを持ってきて、農家の庭先で憮然とするスカウトたちの中で「俺たちは仕事で負けたんだ。来年は栗田をデッド・ボールで殺すようなピッチャーを探し出してやる」と吐き捨てるように言うのは岸本ではなく阪電リリーズのスカウトマンの島(多々良純)です。岸本の球団に大木を、と決めたあとの球気(このネーミングや、各球団名を実在球団とダブらないようにとはいえ花で統一するセンスにも風刺映画として見せようとする狙いが見えます)が愛人(水戸光子)に「あの人は仮病よ」と言われながら実は余命いくばくもなく、大学進学に尽力した際の誓約書を持って絶縁状を送りつけてきた高知の大木の実家に岸本ともども乗りこもうとするも、高知まで来た無理がたたって急激に病状が悪化する。そこで初めて球気という人を食ってぬけぬけとした強欲な俗人の中にある希望や純粋さ、悲惨や尊厳、悲哀と岸本および観客は初めて直視することになるので、死という絶対的な運命に直面した人間が矛盾しあっていても絶体絶命にあっては一切虚飾がなくなるさまを描いていて意外な展開です。しかし映画としては社会世相問題劇と人間ドラマにテーマが割れているのではないか。水戸光子の愛人役が、これは球気が妻子と正式に離縁しない伏線にもなっているのでしょうが、離婚しないで愛人関係を持っているのは双方とも打算としても女性像としてはっきりしなければ、岸恵子の性格も映画に描かれている限りではドラマの進行上設けられた役柄にとどまる気味がある。それで映画後半に佐田啓二とデートするシークエンスに情感を凝らしていても映画の焦点とは結びあわないのです。意欲作である本作が問題作として好評だったとしても、映画の成り立ちや仕上がり自体はずいぶん微妙な感じがします。
●2月10日(日)
『黒い河』(にんじんくらぶ=松竹大船'57)*110min, B/W・昭和32年10月23日公開
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[ スタッフ ] 監督 : 小林正樹 / 脚色 : 松山善三 / 原作 : 富島健夫 / 企画 : にんじんくらぶ / 製作 : 桑田良太郎 / 撮影 : 厚田雄春 / 美術 : 平高主計 / 音楽 : 木下忠司 / 録音 : 西崎英雄 / 照明 : 須藤清治 / 編集 : 浜村義康
[ 解説 ] 新進作家富島健夫の同名小説(角川新書版)を「悪魔の顔」の共同脚色者の一人、松山善三が脚色、「あなた買います」以来久々に小林正樹が監督した異色作。撮影は「東京暮色」の厚田雄春。主演は「大忠臣蔵」の有馬稲子、山田五十鈴、「挽歌(1957)」の渡辺文雄、「喜びも悲しみも幾歳月」の桂木洋子、「月と接吻」の淡路恵子、「続大番 (風雲篇)」の仲代達矢。
[ 出演 ] 渡辺文雄 : 西田 / 有馬稲子 : 静子 / 仲代達矢 : 人斬りジョー / 永井智雄 : 岡田 / 淡路恵子 : 妻康子 / 佐野浅夫 : 坂崎 / 宮口精二 : 金賢順 / 三戸部スエ : 妻美秀 / 東野英治郎 : 栗原 / 高橋とよ : 妻 / 山田五十鈴 : 家主幹子 / 桂木洋子 : 幸子 / 富田仲次郎 : 山口 / 春日千里 : 妻綾子 / 小笠原章二郎 : パアの夫 / 菅井きん : パアのかあちゃん / 大杉莞児 : 安井 / 賀原夏子 : 安井の女房 / 清水将夫 : 黒木 / 織田正雄 : 課長 / 中村是好 : 肥料汲取りの老爺 / 永田靖 : 医者 / 三好栄子 : 遣手婆さん / 水上令子 : 看護婦 / 田村保 : ジョーの乾分A / 北里治一 : ジョーの乾分B / 藤田貢 : ジョーの乾分C / 桜井研一 : ジョーの乾分D / 小林和雄 : ジョーの乾分E / 池月秋雄 : ジョーの乾分F / 浅川真 : ジョーの乾分G / 南進一郎 : ポン引A / 南大治郎 : ポン引B / 大友純 : ポン引C / 千村洋子 : プルニエのウェイトレスA / 伊久美愛子 : プルニエのウェイトレスB / 秩父晴子 : キャバレーの女A / 戸川美子 : キャバレーの女B / ポール聖名子 : キャバレーの女C / 佐々木恒子 : バアの女
[ あらすじ ] アパートとは名ばかりの朽ちはてた長屋「月光荘」――内妻をパーマネント屋に勤めさせているグウタラ者の岡田、愚連隊の親分・人斬りジョーの手下の坂崎と山口、朝鮮人で共産党員の金、ポン引の栗原など余り柄がよくない連中が住んでいる。ある日、ここへ大学生の西田が引越してきた。彼は引越すときに道を訊ねた静子というレストランのウェイトレスと親しくなった。その頃、月光荘の家主幹子は、人斬りジョーを通じて二百四十万円でアパートを買取りたいとの相談をうけていた。買手は黒木という男で、近くの米軍基地を目当てにキャバレーを開くらしい。ジョーは坂崎らを使って三千円を餌に住人たちに立退きを迫った。西田や金は頑としてはねつけた。坂崎らは住人の個個に買収を始めたが、その手始めに一夜アパートで酒盛りをした。その翌朝、、西田は静子がジョーと一緒に泊っていたのを知ってギクリとした。翌日、彼は静子に会い、その告白を聞いた。あの夜、静子は西田のもとへ行く筈だったが途中でジョーの奸計にあって体を自由にされたというのだ。語り終えた静子は西田への愛情に、ジョーを殺して自分を取戻すのだと誓った。翌日、新川組という土建屋の若い衆が突然アパートを取壊しにきた。西田が村役場へ訴えに行くと意外にも自分の印鑑が立退同意書に押されてあった。ジョーのインチキと知って戻るがアパートは半分近く壊されていた。しかもジョーは、あくまで立退きに応ぜぬ西田に、今日は自分の誕生日だから祝いに来てくれと呼出しをかけた。その使いに来た坂崎を締上げて西田は、アパート跡に温泉マークが建つことを白状させた後、ジョーのいる新川組の一家を訪れた。酒盛りの最中、果して立退きのことで不穏な空気が流れたが、同席した静子の取りなしで収まった。その後、ジョーと彼の情婦幸子、それに静子と四人連立って西田は表へ出た。折からの雨。そのとき静子は、ジョーに接吻すると見せかけ、彼を走ってきたトラックめがけて突きとばした。ジョーは轢かれて死んだ。西田の胸に静子は涙の顔を埋めた。
――本作も前作同様、小津安二郎作品のレギュラー・カメラマンの厚田雄春が撮影しているのが不思議に思えるようなダイナミックなショットも多く、小津作品の厳格なカット割りを澄明に撮る一方こうした作品も担当するのは会社専属カメラマンだからこその仕事とは言え変化があって面白い現場だったのではないかと思われます。本作は長家の住人たちの多彩な人間模様もブラック・コメディ的と言ってもいい描かれ方で、意地の悪い世相ドラマとしての面白さで観客を引きこむ面白さがあり、家主の婆さんを演じる山田五十鈴などは金歯までつけて調子の良い強欲婆さんを嬉々として怪演しており、『七人の侍』の無口でかっこいい達人役だった宮口精二が真面目な共産党員の子だくさんの在日朝鮮人で唯一長家の住環境の改善を住人たちに熱心に呼びかけるもまるで実を結ばない情けない役なのには泣けてきます。妻(淡路恵子)を美容院勤めに出して髪結いの亭主の座に満足しながら浮気症ばかりか隠れて売春していても気づかないお人好しの夫(永井智雄)始め長家の人間模様はよく描けており、それがアパートをつぶして当初キャバレー、のち連れこみ旅館を建てようとする清水将夫が山田五十鈴から気前良く土地を買収し、アパートの住人追い出しに町の愚連隊の親分の人斬りジョーを雇い、ジョーは仕事料に30万円で請け負って、子分たちに所帯ごとに3,000円を立ち退き料に受け取らせて、拒否する渡辺文雄や宮口精二らの分は同意書に三文判を買ってきて同意書を揃え、それまでもジョーの立ち会いで「水道管を引くための測量」(つまりこの長家には水道もありません)が来たりもしていましたが突然ブルドーザーが長家をぶち壊しにやって来て住人たちがおろおろする前であっという間に問答無用で長家をぶちこわしてしまう。一方このブラック・コメディのプロットと冒頭引っ越してきた大学生の渡辺文雄が第八車から落ちた本を拾ってくれた近所のレストランの女給の有馬稲子と知りあい親しくなるが、有馬稲子はかねてから目をつけられていたジョーの子分たちに夜道で拘束されて、助けに入ったふりをしたジョーに強姦され、それ以来関係を強要されてしまう。映画後半夜道で襲ってきた男たちもジョーの子分で助けたように見せたのは自作自演だったとジョーに嘲られて、ようやく有馬稲子は渡辺文雄にジョーを殺して自由になる、と決意をのべますが、有馬稲子が強姦された翌日仲代達矢に「責任を取って結婚して頂戴!」と言うのも現在でもレイプ被害者が被害届けをするのは大変でしょうが、時代が時代とは言え強姦した男、それも明らかに裏家業の男に結婚してくれと請うのは錯乱しているとしか思えず、長家の住人たちは細かいエピソードに散りばめて一筆描きながら十分に人間像が描けているのに全編を通して渡辺文雄、有馬稲子、仲代達矢のキャラクターに深みがなく、ドラマに連れて進展していくはずの性格の変化も思わせぶりなまま何ら映画の当初と変わらないまま進むので、結末のカタストロフのあと有馬稲子が夜道を駆け足でスクリーン奥底へ去って行くエンドシーンまで強姦暴力メロドラマとしてはまるで成功していない、と言わざるを得ません。最初大学生役にキャスティングしていた仲代達矢を人斬りジョーに替え、渡辺文雄を大学生に据えた時点で小林正樹は太陽族映画より『醉ひどれ天使』の三船敏郎を仲代達矢にイメージしていたに違いなく、脚本や演出次第ではそうした作品になった可能性もあり得る。小林正樹が一見類型的な悪党に見えた人物が意外な人間的真実を持って浮き上がってくる、という描き方ができる監督なのは前作『あなた買います』で確かめることができました。しかし本作の人斬りジョーはニヤニヤ笑いの類型的な悪党として出てきてそのまま最期を迎えるだけで、主人公たる渡辺文雄もヒロインである有馬稲子もまったく説得力のない、魅力のないキャラクターのままです。有馬稲子は本作の前に小津安二郎の『東京暮色』'57でやはり陰気なヒロイン役を演じていましたが、どうも『泉』(こちらは美貌で世渡りする傲慢な美女役で、まだしも嫌な女の役にドラマ性がありましたが)にしても『黒い河』にしても有馬稲子が良くない、という印象があり、長家の立ち退き話に人斬りジョーというキャラクターが必要だったとしても渡辺文雄と有馬稲子のロマンスは不要、または人斬りジョーと有馬稲子の強姦強制愛人関係が不要と思われてくるのです。明らかにそのあたりに計算違いのある映画と思わずにはいられず、それが意欲的な作風拡張の意図がうかがえるだけに、単に失敗作というよりさらに困った感じがしてくるのです。