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闇文書『偽ムーミン谷のレストラン』五部作

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 このブログに書き下ろし公開してきた中で、映画日記を除けば分量では最大の作文になるのが創作体の連作『偽ムーミン谷のレストラン』五部作です。全五部は第一部『偽ムーミン谷のレストラン』、第二部『ピーナッツ畑でつかまえて』、第三部『戦場のミッフィーちゃんと仲間たち』、第四部『新☆NAGISAの国のアリス』、第五部『魍魎綺譚・夜ノアンパンマン』からなり、各部は毎回1,000文字、一章10回で八章80回で均等な分量に統一してあります。全五部で400字詰め原稿用紙1,000枚におよび、題材・内容ともに商標権・著作権侵害その他の事情で決して公刊される見込みのない闇文書としてブログの過去記事に眠っています。ご興味いただけた方は過去記事から簡単に検索できますので、恥も掻き捨てとも言いますから五部作のそれぞれ第一回を再録・ご紹介しておきます。これが全編では全400回、1,000枚(200枚×五部)の、いわばサンプラーです。

 簡単に概要を記すと、第一部『偽ムーミン谷のレストラン』は偽ムーミンの暗躍とよそ者スナフキンの流浪を鏡像関係として、時間の止まったトロール特区ムーミン谷の危機を描いた支離滅裂なユーモア童話。第二部『ピーナッツ畑でつかまえて』はへたれ少年チャーリー・ブラウンと誇大妄想犬スヌーピーを描いたアメリカン・コミック『ピーナッツ』をヌケサク鳥ウッドストックの観点から逃亡西部劇映画の世界に無理矢理転移させたどたばたコメディ童話。第三部『戦場のミッフィーちゃんと仲間たち』は従軍慰安部隊のミッフィーちゃん(と仲間たち)と、ライヴァル部隊のやはり従軍慰安部隊のハローキティー(と仲間たちの)部隊との女の闘いをブレヒトの古典『肝っ玉おっ母さんと息子たち』を全然下敷きにせず描いたハートウォーミングな戦場の天使もの童話。第四部『新☆NAGISAの国のアリス』はそろそろ惰性の産物で、『不思議の国』『鏡の国』のアリス連作を原文から直接リライトしてシャッフルし、それをルイス・キャロル=チャールズ・ドジソン自身が語るのと平行してフォーク・クルセダーズ主演の大島渚の映画『帰ってきたヨッパライ』'68を動物擬人化童話にして挿入した、フィクション内の登場人物のアイデンティティの不確定性だけをもて遊んだおふざけコラージュ童話。第五部『魍魎綺譚・夜ノアンパンマン』は深夜アニメ『夜ノヤッターマン』のタイトルだけお借りして内容は全然関係なく、「食」をキーワードにしたアンパンマンの世界を「色」に置き換えたらとアンパンマン世界の住人たちを徐々に色情狂化させ、終盤は世にもくだらない通俗ポルノ小説のキャラクターと化すという完全に惰性で書いた官能低俗童話です。

 このご紹介だけで十分げんなりされたと思いますが、こうしたものを各部1,000文字×80回(400字詰め原稿用紙換算200枚)、全五部通算400回・400字詰め原稿用紙換算1,000枚辛抱強く書いたというのは一種の課題作文みたいなもので、筆者は文学は古典しか読まず現代の青少年向け娯楽小説など知性に自信のない俗人の読み物としか考えていませんが、だとしたらくだらなさだけは徹底してくだらないものにするしかない、もはやフィクションという完結した世界も成立しない次元で歪んだ鏡に映ったような偽フィクションを書く、というのが基本姿勢だったように思います。ですからこれはパロディですらなく、創作家ではない人間が書いたリライトなので、書いた本人にすら属さないような代物なのだと開き直らせていただきたい。お読みくださった方に生じたご感想だけが実体なので、それぞれの本文に書いてあることは何ひとつ確かなものはないのです。

 では、全五部のそれぞれ第一回を再録いたします。


第一部『偽ムーミン谷のレストラン』

 第一章。
 ムーミン谷にレストランができたそうだよ、とムーミンパパが新聞から顔を上げると、言いました。今朝のムーミン家の居間には、
・今ここにいる人
・ここにいない人
 ……のどちらも集まっています。それほど広くもない居間に全員が収まるのは、ムーミン谷の住民は人ではなくトロールで融通が利くからです。
 そうだ、わが家は食事のふりならずっとしてきたが、それは家庭という雰囲気の演出のためであって実際に食事をしたことはない。そうだねママ?
 そうですよ、とママはおっとりと答えます。
 私がパイプをくゆらせ安楽椅子で新聞を読んでいるのもそうだ。読売新聞ムーミン谷版は半年に一度しか出ない。半年に一度の紙面を年中読むのを新聞と呼べるだろうか。ムーミン谷にはタウン誌というものもないのだ。
 それで、ねえパパ、新聞にレストランができたって載っていたの?と偽ムーミンが無邪気を装って尋ねます。その頃ムーミンは全身を拘束され地下の穴蔵に幽閉されていました。
 かなり冷え込み、また拘束のストレスもあり恒温動物なら風邪をひくような環境ですが、トロールなのでただ動けないだけです。容貌は瓜二つなので、なにか弱みを握るたびに偽ムーミンはムーミンを脅して入れ違い遊びをしてきましたが、弱みを握られる側にも落ち度があると考えて現状を肯定してしまう卑屈さがムーミンにはありました。
 ねえレストラン行くの?とふたたび偽ムーミン。よく見ると頭部のつむじにあたる部分からアホ毛が三本生えていることでも偽物だと気づくはずですが、ムーミン谷の人びとは細かいことは気にしません。
 そこだよ問題は、とムーミンパパ。レストランに行くには、あらかじめいくつかの条件がある。まず正当な連れがいること、これは問題はない。ムーミン一家だからな。正当な連れ?おかしな組み合わせでレストランに入ったら変だということだよ。たとえばママがスナフキンとミーの三人でレストランに行ったらミーをアリバイにした不倫のように見えるだろう?
 あなた止めてくださいよ、とムーミンママがおっとりたしなめます。
 なら簡単に言おう。ムーミン、きみはお腹が空いたことがあるか?
 うん。そうか。でも一家で食卓につくともう空腹ではなくなるだろ?私たちムーミントロールは食事のふりをするだけでいいのだ。だがレストランでは実際に料理を食べなければならないのだぞ。
 偽ムーミンは驚いたふりをしてみせました。わお。

(以下略・全80回)


第二部『ピーナッツ畑でつかまえて』

 第一章。
 ある暗い嵐の夜でした。
水皿の水にぼくのかおがうつっている。ぼくはのどが渇いているけど、この水をのみほせばぼくのかおは見られなくなる。ならぼくを見ているほうがいいや。そうナルシシストの小型ビーグル犬は考えると、そろそろおやすみの時刻かな、と犬小屋の屋根に億劫そうに上りました。彼は閉所恐怖症なのです。
 空模様はまずまずで、犬小屋には実は広大で快適な地下室もあり、タイプライター(執筆に関しては、彼はアンチ・パソコン派でした)を据えたデスクの正面には不運な火災で焼失するまではゴッホの小品が飾ってあり、やむなくビュッフェに変えてからは自分の創作力も低下しているように思えるのでした。「ある暗い嵐の夜でした……」
 彼は脊柱ががっちり犬小屋の屋根の峰を押さえこんでいるのを背筋の感触で確かめると、この小屋を彼に与えたくりくり坊主の少年のことを思い出し、自分ほどの知性ある犬、なにしろ少年の知人の少女には人間だと思われていたことすらあり、かつての戦線では撃墜王として勇名を轟かせ、探偵経験も弁護士資格も持ち、絶版ながら小説の著作も一冊ある(「ある暗い嵐の夜でした……」)。なのになぜあの少年はくりくり坊主としか覚えられないのだろう、と小首を傾げました。
 まあそれは自分のせいではないのだろう、とこの自惚れの強い小型ビーグル犬は気持よさそうに伸びをし、自分が彼らにどう呼ばれているかを、心地良い優越感とともに思い巡らしました。くりくり坊主とその仲間たち、その誰を取っても彼の名前と結びつけずには人物像が浮かばないほど、世界は彼を中心に形成されていたのです。
 ではもしあの少年の名がシルヴァーまたはゴールドだったら?あるいは陰影の深いアジュールやグレイやブラックだった?色鉛筆や草花のようにレッド、ローズ、パイン、ミント、グリーン、ヒース、プラム、ガーネットだったら?
 ……ですがそれはあり得ないことでした。 少年の名前はチャールズ、愛称チャーリー。そして名前はブラウン、変哲もないブラウンだったからです。彼は何の役目も持たずにこの世界に生まれ、たまたま知らないうちにチャーリー・ブラウンという個性になったのでした。それでもスヌーピーにとってはただのくりくり坊主でしかなかったのです。

(以下略・全80回)


第三部『戦場のミッフィーちゃんと仲間たち』

 第一章。
 まったくあの女ったら!とミッフィーちゃんはアイスピックをふるいながらバーバラにこぼしました。あいつらなんかみんな私たちの商売を真似てるだけじゃないの。おかげでうちの店も閑古鳥つづきじゃ、上がったりもいいところだわ。ねえアギー?とミッフィーは親友にふりました。そうねナインチェ、とアギーはおろおろして答えました。ミッフィーはナインチェと呼ばないと怒るのですが、アギーをアーヒェとは呼ばないのです。もっとも仕事場では別で、ナインチェはミッフィーですしアーヒェはアギー、バーバラも本名はバルバラと言いました。これをいわゆる源氏名と言います。
 いや、より正しくはコードネームと言うべきでしょう。以前はともかく、現在の彼女たちは公務員、さらに言えば軍務に服しているのですから。そこにのれんをかき分けて、ウインとメラニーもやってきました。やれやれ、安月給でもお給料が安定しているのはいいけれど、タイムカードにはどうも慣れないわね。順番に決めて誰かが全員分を押すことにしない?だめよ、掌紋認証つきカードなのよ。あ、そうか、と5人の少女たちは笑いました。実はこの話題は毎日誰かが口にするのですが、うさぎなのですぐ忘れてしまうのです。バーバラだけはくまでしたが、友だちが全員うさぎなので本人もくまなのを忘れていました。ちなみにウインの本名はウィレマインといいましたが、これでは誰でも縮めて呼びたくなります。
 男なんて少しでも若い子になびきやがって、とまだミッフィーちゃんは愚痴っていました。そお?あの子いくつだっけ?とメラニーはさっさと着替えながら訊きました。さあ、1974年生まれっていうけど、と代わりにアギーが答えました。てことはアラフォーね、それであんたは?1955年生まれの5歳、とミッフィー。そのわりには老けてるわね、とメラニーがからかうと(ナインチェをからかえるのはペンフレンドだった頃の恥ずかしい手紙を握っているメラニーことニナだけなのです)、ミッフィーの×の口が*になりました。
 しかし怒りを親友にぶつけるのは八つ当たりと自制するくらいの理性はミッフィーちゃんにもありました。あのメスねこ!どうにかできないかしらねえ!萌えの元祖はこっちじゃない?とミッフィーちゃんは殴り込みにでも行きかねない様子です。まあ戦争は兵隊さんたちに任せて、とメラニーがなだめました、ほっとこうよ、ハローキティたちなんかさ。

(以下略・全80回)


第四部『新☆NAGISAの国のアリス』

 第一章。
 10歳のアリスはお姉さんのロリーナ(13歳)と妹のエディス(8歳)といっしょに川のほとりに座り、ドジソン先生のお話を聞くのが好きでした。ドジソン先生は当年とって30歳、男ざかりの数学の先生で、年ごろの男性にはよくあることですが同年輩の男も苦手なら女ざかりの女性はなお苦手で、くつろげるのは第2次性徴期前の少女を相手にしている時だけ、というタイプでしたが、そんなことはアリスたちにはわかりません。ドジソン先生にとってこの三姉妹は、13歳のロリーナはぎりぎり相手にできる年ごろで、8歳のエディスは姉たちと並ぶと幼なすぎる。ですからちょうど真ん中の歳の、10歳のアリスが先生にはいちばんのお気に入りでした。さすがにそれは少女たちにも感づかれていて、アリスは靴の中に画鋲を入れられたり、砒素を盛られて髪がごっそり抜けたりしましたが、ドジソン先生が姉妹どうしの嫉妬に気づいていたかどうかはわかりません。
 「学生時代最後の夏休みに」と先生は話し始めました、「大ノッポ、中ノッポ、チビの3人は田舎の海に遊びに行きました。暖い陽気に誘われて3人は泳ぎましたが、その隙に服を盗まれ、かわりに軍服がありました。3人はそのため先々で密入国者扱いされ、パトカーに追われる破目になったのです」。
 そして、たまたまセクシーなおねいさんから温泉で服を盗んだらいいわ、とアドヴァイスされましたが、謎の青年たちに拳銃を突きつけられ、元の服に戻されてしまいます。彼らには何か事情があるらしいものの、3人には何が何だかさっぱりわかりません。ただただパトカーと青年たちを逃れて走り回らねばなりませんでした。追われているうちに3人は次第に逃げ方も隠れ方も上手になりましたが、今は都会が平和で天国のようなところに思えるのでした。三人の逃走に協力してくれたおねいさんは毒虫のような悪者の情婦でしたが、3人には天使のように親切でした。そんなうちに中ノッポがおねいさんに恋してしまいました。ですが3人はパトカーと、消えてはまた現われる謎の青年たちの拳銃におびえながら首都に向って逃亡を続けていかなければならなかったのです。
 先生、とロリーナは首をかしげました。そのお話にはどういう教訓があるのですか?
 いや、これは正確にはお話ではなく、と先生、動物ならば骨に相当する、プロットと言うものです。そして骨はそれだけでは動物にはならず、教訓もありません。

(以下略・全80回)


第五部『魍魎綺譚・夜ノアンパンマン』

 第一章。
 あんパンが初めて製菓店の店頭に並んだのは1874年とされており、翌1875年(明治8年)4月4日には花見のために向島の水戸藩下屋敷へ行幸した明治天皇に山岡鉄舟が献上し、お気に召された天皇によりあんパンは宮内省御用達となりました。以降、4月4日は「あんぱんの日」となりました。
 創世当時のあんパンはホップを用いたパン酵母の代わりに、酒まんじゅうの製法にならって日本酒酵母を含む酒種(酒母、こうじに酵母を繁殖させたもの)を使っていました。中心のくぼみは桜の花の塩漬けで飾られます。パンでありながらも和菓子に近い製法を取り入れ、パンに馴染みのなかった当時の日本人にも親しみやすいように工夫して作られていたのが成功につながり、1897年(明治30年)前後には全国的に大ブレークして、製菓店の本店では1日10万個以上売れ、長蛇の列で30分以上待たさせることもあったといいます。
 現代では中の餡はつぶあん、こしあんの小豆餡が一般的です。いんげんまめを使った白あんパンや、イモあんパン、栗あんパンなどの豆以外の餡を使ったもの、桜あんやうぐいすあんを使った季節のあんパンもあります。
 典型的な形状、つまり顔に当たる部分は平たい円盤で、ケシの実(ケシの種)、塩漬けの桜の花(ヤエザクラ)、ゴマの実が飾りに乗せられます。ただし必ずしもそれがあんパンの必須条件とは限りません。
 いつ彼が人格を持ち、人びとを飢えから救うのを自分の使命とするようになったかは、本当のところよくわかっていません。バットマンがジョーカーを必要とするように、ばいきんまんが現れるまでは彼はパッとしない絵本のヒーローでした。取り柄といえば空腹な人に、あんパンでできた頭をちぎって差し出すだけ。ちぎられた頭は完全になくなっても替えの頭を乗せればいいだけのようですが、ではアンパンマンの魂のありかとはいったいどこにあるのでしょうか?というのは、人間に限らず哺乳動物の身体構造からすればアンパンマンにとってあんパンには目鼻がついた頭部をなしているように見えますし、頭部が欠損して餡が露出すると脳漿以外の何物にも見えず、そのような状態で生命に支障がないとは擬似ヒューマノイドとしか考えられないからです。
 今夜はそんな謎に包まれたアンパンマンの、あまり面白くもない真相に肉迫してみたいと思います。ではばいきんまんさんからお話をうかがってみましょう。

(以下略・全80回)

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