『ホラー映画傑作集~フランケンシュタインvs狼男』2014年8月12日刊(9枚組)収録作品・1. フランケンシュタイン('31)、2. フランケンシュタインの花嫁('35)、3. フランケンシュタインの復活('39)、4. フランケンシュタインの幽霊('42)、5. フランケンシュタインと狼男('43)、6. フランケンシュタインの館('44)、7. 倫敦の人狼('35)、8. 狼男('41)、9. 謎の狼女('46)
『ホラー映画傑作集~ドラキュラvsミイラ男』2015年3月2日刊(10枚組)収録作品・1. 魔人ドラキュラ('31)、2. 女ドラキュラ('36)、3. 夜の悪魔('43)、4. ドラキュラとせむし女('45)、5. 吸血鬼蘇る('43)、6. ミイラ再生('32)、7. ミイラの復活('40)、8. ミイラの墓場('42)、9. 執念のミイラ('44)、10. ミイラの呪い('44)
『ホラー映画パーフェクトコレクション~ゾンビの世界』2017年6月23日刊(10枚組)収録作品・1. ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド('68)、2. 私はゾンビと歩いた!('43)、3. ゴースト・ブレーカーズ('40)、4. 歩く死骸('36)、5. 恐怖城('32)、6. 月光石('33)、7. ブードゥーマン('44)、8. 死霊が漂う孤島('41)、9. ブロードウェイのゾンビ('45)、10. ゾンビの反乱('36)
ここではリリース順に『フランケンシュタインvs狼男』『ドラキュラ対ミイラ男』『ゾンビの世界』を観ていきますが、作品の成立背景、製作プロダクションからボックスセットの収録順とは多少順番を組み替えて観直すことにしました。――なお今回も作品解説文はボックス・セットのケース裏面の簡略な作品紹介を引き、映画原題と製作会社、アメリカ本国公開年月日を添えました。
『フランケンシュタイン』Frankenstein (Universal Pictures'31)*70min, B/W; アメリカ公開'31年11月21日
監督 : ジェームズ・ホエール
主演 : コリン・クライヴ、メイ・クラーク、ボリス・カーロフ
・永遠の命を探求する科学者フランケンシュタイン。博士は取り寄せた死体を組み合わせ、ひとりの怪人を作り上げ、ある晩雷の力で命を与えることに成功するが……。ホラー映画の原点ともいうべき名作。
本作くらいの著名作ともなるとあらすじを記すまでもなく、詳しい紹介がすぐサイト上で読むことができますが、製作費26万2,000ドル、興行収入1,200万ドルというのはとんでもない超特大ヒットで、前年'30年の時点でアメリカ映画歴代ヒット作の第1位がトーキー初期のミュージカル映画の趣向でヒットした興行収入500万ドルの『シンギング・フール』'28で、のち製作費400万ドルの『風と共に去りぬ』'39がロング・ヒットして戦後の'46年の時点で興行収入2,000万ドルですから、通常プロダクション規模で製作された本作がいかに異例の大ヒットだったかがうかがえます。ユニヴァーサル社はかつてロン・チェイニー主演の製作費125万ドルの大作『ノートルダムの傴僂男』'23で興行収入350万ドルの特大ヒットを出し、同作のヒットがユニヴァーサル社の怪奇映画路線を開くことになり、トーキー時代に入ってチェイニー映画の監督トッド・ブラウニングによる『魔人ドラキュラ』の企画を立ちましたが主演予定だったチェイニーの急逝のため舞台劇でドラキュラを演じていたベラ・ルゴシを起用し、'31年2月公開の同作は大ヒット作品になりました。トーキー時代の本格的なユニヴァーサル社のホラー映画は同作が始まりで、本作はその2弾企画にして『魔人ドラキュラ』をしのぐヒット作となったのです。本作はブラム・ストーカー原作の『ドラキュラ』1897による『魔人ドラキュラ』同様ロマン派詩人シェリーの夫人メアリー・シェリー(1897-1951)のゴシック小説の古典(1818年刊)の映画化という文芸映画的側面もあり、時代設定は少し前の現代ですが舞台設定はイギリス貴族を主要人物にした東欧某国の田舎の村ヴァサリアで、アメリカ映画では外国を舞台にするのはよくある設定ですが、その加減もリアリズム映画からうまく距離をとっています。映画はつい2、3年前までサイレントでしたから'30年代初頭のサウンド・トーキー映画は音の処理が不自然なものが多いのですが、本作はその点でも成功していて、とってつけたような歌の場面がないのはもちろん音楽もSEも最小限に抑えているのが映画を古びさせておらず、構図やカット割りも安定してむしろ静謐なほどで、室内セットではゆったりした左右のパン(柱や台をまたぎます)、屋外セットではゆったりしたドリー撮影がありますが、実験室内の長いショット、村祭りや村の群集を分けて娘の遺体を抱いて歩いてくる父親をとらえた長いショットなど映像はドキュメンタリー的なリアリティがあるのが見所です。夜景に怪物が逃げ込んだ風車小屋が、殺到した暴徒たちが放ったたいまつが投げ込まれて炎上するクライマックスも、実物大セットと遠景のミニチュア撮影の切り替えの区別がつかない巧妙なモンタージュで、風車小屋内で炎に包まれる怪物の側と暴徒化した村人側の両方から描いており、夜景に燃え上がり崩れ落ちる丘の上の風車小屋のショットもサイレント時代には似た前例がありますが(ラオール・ウォルシュの『リゼネレーション』'16の夜の船上パーティー中に燃え上がる遊覧船など)、トーキー映画のリアリティの質感ではこの映像のインパクトはより強烈なので、怪物の造型始め本作は一見しただけで忘れられないイメージに満ちた映画です。本作へのオマージュになっているスペイン映画『ミツバチのささやき』'73という名作もありました。怪物の登場は映画開始からちょうど30分なのもこの時代の映画ならではのペース配分で、意味ありげな映画の下げは本作で物語は完結したとも、そうではないとも取れるようになっており、後者の解釈を取って続編が製作されますが、第1作だけあって本作は単独作品としての完成度が非常に高く完璧な仕上がりと言っていい映画です。続編製作まで4年を置いたのはさすがに本作ほどの作品には納得のいく続編のアイディアがすぐには出なかったということでしょう。
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(Front Cover of LP "AREA/Event '76", Cramps CRSLP 5107, 1977)
『フランケンシュタインの花嫁』Bride of Frankenstein (Universal Pictures'35)*75min, B/W; アメリカ公開'35年4月19日
監督 : ジェームズ・ホエール
主演 : コリン・クライヴ、ボリス・カーロフ、アーネスト・セジガー
・前作「フランケンシュタイン」で風車小屋で焼死したはずの怪人は、地下道で生きていた。科学者プレトリウスは、怪人に花嫁を与えるために、ふたたびフランケンシュタイン博士を巻き込んでいく……。
――アイディアは面白く、前作の直後から始まるのも大胆で良いのですが、さすがに全編が緊密な仕上がりだった前作と較べると構成の緩み、展開の中弛みや不均衡が散見するのは、本来のテーマ(禁断の実験、怪物の悲哀)にさらに新たなテーマを加えて複雑化した以上仕方ない破綻でしょう。面白いのはヒッチコックがセルズニック・プロ時代にユニヴァーサル社に貸し出されて作った『逃走迷路』'42に、冤罪で指名手配中の主人公が山奥の一軒家でひとり暮らしの盲目の老紳士に匿われる場面が本作に由来すると思われることで、それを言えば実験中・手術中の研究室や手術室は意図的に斜めに傾いた構図で映され、研究一段落や手術終了後は構図が水平に戻るのも同じ監督ながら前作にはなかった趣向で、カメラマンは前作と本作は別ですがこの構図はカメラマンの交替によるものよりも演出による指定でしょう。この斜めの構図もヒッチコックより先とも、サイレント時代にはOKだったのがトーキーでは一旦NG(不自然)だったのがまた蘇ってきたとも言えるものです。結末はまた派手にやってくれるもので、本作はフランケンシュタイン博士どころではないマッド・サイエンティストのプレトリウス博士(このマッドな博士が「種から作った」人造人間たちをフランケンシュタイン博士に披露するのも見せ場になっています)の方が話の主役になっているのも面白さとテーマの分裂の両方を招いていますが、この奇天烈度(ついに姿を現した「フランケンシュタインの花嫁」の容姿もお笑い一歩手前です)からすれば結末もこのくらい派手で釣り合いがとれた具合でしょう。芸術性の高い前作からぐっと大衆的怪奇映画に近づいた本作も第10回('98年度)のアメリカ国立フィルム登録簿登録作品になりました。第10回までで同登録簿の登録作品は250本ですから、'88年までの膨大なアメリカ映画中『フランケンシュタイン』と『フランケンシュタインの花嫁』の2作がアメリカ映画ベスト250入りしたのはちょっとしたものです。『~の花嫁』の方も良いところがあるとはいえ映画としての品格は比較にならないのですが、明快なモンスター映画らしさの好作ではありますし、先に「派手」とだけ触れた結末はB級ギャング映画またはフィルム・ノワール的に派手かつ科学的に派手なのでモンスター映画に科学的に派手さがあるのは泥くさい土着的モンスターの映画が多かった中、先駆的でもあり、盲目の老人から言葉を教わった伏線が結末で生かされているあたりもなかなかです。初見ならもちろん観直しても思い切ったエンディングだなと観客の気分を呆気に取らせる爆発力があり、怪物が鎖を引きちぎって脱獄してくるのはいいが手錠はどうやって外したなどと細かい疑問も野暮だという気がします。本作を観るとやれやれこれで本当の終わりか、『フランケンシュタイン』前後編観たなあ、という気分がするのですが、続編も好評なら当然次作も作られるのでした。
●10月3日(水)
『フランケンシュタインの復活』Son of Frankenstein (Universal Pictures'39)*99min, B/W; アメリカ公開'39年1月13日
監督 : ローランド・V・リー
主演 : ベイジル・ラズボーン、ボリス・カーロフ、ベラ・ルゴシ
・フランケンシュタイン博士の息子が亡き父の城に戻る。彼は父親の手紙を発見し、廃墟に眠っていた怪人を再生してしまうが……。怪奇映画には欠かせないB・ルゴシも競演した「フランケンシュタインの花嫁」の続編。
――ユニヴァーサル社のフランケンシュタイン映画は8作が作られましたが、後半4作は『~と狼男』'43、その続編で狼男ばかりかドラキュラ、せむし男も加わる『フランケンシュタインの墓場』'44、ドラキュラがメインの『ドラキュラとせむし女』'、喜劇コンビのアボット&コステロ主演のパロディ作『凸凹フランケンシュタインの巻』'48ですし、本作の続編でベラ・ルゴシのイーゴリが主人公といえる『フランケンシュタインの幽霊』'42では本作で死んだはずの怪物(人間の100倍寿命があり、血圧が上300に下が200、脈拍毎分150だそうです)がまたまた実は、という話ですが怪物役はボリス・カーロフではなくなります。イーゴリと怪物の連作としては『~の復活(~の息子)』と『~の幽霊』はつながっていますが、本作の終わり方は第1作、『~の花嫁』、『~の復活(~の息子)』の三部作の方がすっきりしたのではないかとも思え(今回こそは絶対死んだだろうという最期ですし)、それでカーロフも次作は出演しなかったのではないかと推察されます。次作『フランケンシュタインの幽霊』もルゴシの怪演と、今度は怪物を蘇生させに初代フランケンシュタイン博士の次男、つまり本作の主人公の弟(やはり科学者)を訪ねる話で初代フランケンシュタイン博士の幽霊が出てくる(!)けっこう面白い作品で、『~の復活』『~の幽霊』はイーゴリ連作でもあれば2作まとめて「(初代)フランケンシュタイン(博士)の息子たち」でもあるので、プレトリウス博士も『フランケンシュタインの花嫁』1作きりの強烈キャラクターだったのに怪人イーゴリで2作とは少々くどい気がしますが、この頃にはベラ・ルゴシの主演企画が減ってきたので『魔人ドラキュラ』の功労者ルゴシにフランケンシュタインものの狂言回し役でも主演作品を振ろう、ということだったのでしょう。『~の復活』『~の幽霊』のイーゴリ連作、『フランケンシュタインと狼男』『フランケンシュタインの墓場』の怪物対狼男連作は観てしばらくするとイーゴリもの2作、狼男もの2作の区別がつかなくなるのに難がありますが、一旦『フランケンシュタインの復活』までを三部作とすればまず上乗で、本作冒頭でも主人公がぼやいている通りこの辺りから作中でも怪物自体を指してフランケンシュタインと呼ぶようになってきたのです。