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サン・ラ・トリオ Sun Ra - God Is More Than Love Can Ever Be (Saturn, 1979)

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サン・ラ・トリオ Sun Ra - God Is More Than Love Can Ever Be (Saturn, 1979) Full Album: http://youtu.be/RJbGQ2wWSR8
Recorded at Variety Studios, NYC, July 25, 1979
Released by El Saturn Records 72579, 1979
All composed and arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. Days Of Happiness - 7:29
A2. Magic City Blues - 4:50
A3. Tenderness - 8:36
(Side B)
B1. Blithe Spirit Dance - 10:37
B2. God Is More Than Love Can Ever Be! - 6:52
[ Sun Ra Trio ]
Sun Ra - piano
Hayes Burnett - bass
Samarai Celestial - drums

 これは素晴らしい!全国に今どのくらいジャズ喫茶が残っているかはわかりませんが『Live at Montreux』と『Cosmos』、『Solo Piano Vol.1』にも増してこれこそは、と常備していただきたいのが全然知名度のない本作です。なんとサン・ラが、1933年レコード・デビューのサン・ラが、アーケストラのデビューからも24年目で御年65歳のサン・ラが、前年初のソロ・ピアノ作品(『Solo Piano Vol.1』)に続いて初の完全ピアノ・トリオ作品を製作したのです。ドラムスとのデュオ、テナーとドラムスとのトリオ曲は以前のアルバムにもたまにアクセント的に入っていましたが、これまでデュオもしくはトリオの場合サン・ラはオルガンや電子キーボード(シンセサイザー含む)を使っており、アコースティック・ピアノにアコースティック・ベース(しかも音色からしてガット弦)、ドラムスと、まるでジャズ・ピアニストのようなピアノ・トリオ作品を作ってしまいました。これでスタンダード曲も混ぜていればなおキャッチーですが、オリジナル曲ばかりと言ってもブルースとどこかで聴いたことのあるような曲ばかりなので心配いりません。
 デューク・エリントンの人気アルバムに唯一のピアノ・トリオ作品『Money Jungle』1962があり、チャールズ・ミンガスがベース、マックス・ローチがドラムスという悶絶盤でしたが、本作はエリントンの同作を連想させます。エリントンの系譜はセロニアス・モンクやセシル・テイラーに発展的に継承されたと言えるものですが、モンクやテイラー以降のピアニストはモンクとテイラーを意識せずにエリントンから学ぶのが難しくなってしまったのも事実でしょう。しかしサン・ラはモンクより4歳年上であるばかりか、レコード・デビューは11年早いという人です。本来ならビッグバンドのリーダーがピアノ・トリオのアルバムを作る必要などないはずですが、ジャズ・ピアニストならピアノ・トリオ作品を聴かせてほしい、というリクエストにホホイと応えたのがエリントンの『Money Jungle』でした。CD化されたら未発表テイク(曲)がLPもう1枚分あったことでも呆れる痛快作でした。サン・ラの本作もそんな感じです。これがターンテーブルから流れたら、あまりの凄さに会話禁止のジャズ喫茶でも騒然となり失禁者続出かもしれません。

(Original El Saturn "God Is More Than Love Can Ever Be" LP Alternate Cover)

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 エリントンの『Money Jungle』と違って本作のベースとドラムスはまったく無名のプレイヤーで、これまでのアーケストラにも参加していない新顔です。アーケストラのような特殊なバンドではテクニック以上の適性が必要ですが、このトリオはベーシストとドラマーの貢献度も高く、新曲ばかりにもかかわらずおそらくリハーサルも楽譜もなく一発録りしたと思われるセッションで見事にトリオで一体化した演奏を聴かせてくれます。サン・ラのピアノは20年代ジャズのストライド奏法から30年代のブギウギ奏法、40~50年代のバップ奏法、60年代のモード/フリー奏法まで何でもござれで、ジャズ・ピアノ60年の歴史をまるごとぶちこんだものです。1979年というとサン・ラより30歳年下のキース・ジャレットがスタンダード曲を演奏するレギュラー・トリオで話題を呼び、キース・ジャレット・トリオは来日のたび今上皇太子ご夫妻の御前公演になるそうですが、サン・ラの場合はジャズ・ピアノの歴史を生きてきた、作ってきた人ならではの強烈な統一性があるわけです。それなしで多彩な技法のみのパッチワークではフランケンシュタインまがいのジャズにしかなりません。
 本作は一見ノリノリのオーソドックスなピアノ・トリオに見えて実は相当な代物で、前記の通りあらかじめ準備してあった曲などなかったと推定されます。たぶん曲ごとにサン・ラが8小節か12小節弾いて調性、モチーフとテンポ、リズム・パターンをベースとドラムスに指示し、一気呵成に録音したものでしょう。ピアノ・トリオとしてはピアノによるベース・ノートやコードがやや過剰で、ベースとドラムスともに優秀ですがベースのオクターヴやルート/5度の多用、ドラムスの手数過剰に1テイク録音の性急さが見られます。しかしそれも本作の勢いと見れば魅力の一部であり、ジャズはピアノ・トリオが好きというような一部の偏向したジャズ・リスナーにもアピールできる作品です。ここでのサン・ラはチック・コリアやハービー・ハンコックそこのけの超モダーンな技法を軽々こなしながら音楽性は明快そのもので、モンクやセシル・テイラーばりのトーン・クラスターが炸裂してもビル・エヴァンスやポール・ブレイさながらの変則ヴォイシングがとろけても心地よくポップにすら聴こえます。ベースを太く、ドラムスを分離と歯切れ良く、ピアノの全音域とペダル効果をしっかり捉えた録音も優秀です。知られざるピアノ・トリオ・アルバムの名盤と言っても過大評価ではないでしょう。

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