Recorded at Variety Studios, NYC, October 14th. 1977.
Released by El Saturn Records Saturns 101477, 1977 also Released as "Nature Boy" &"My Favorite Things".
All arranged by Sun Ra.
(Side A)
A1. Some Blues but not the Kind That's Blue (Ra) - 8:14
A2. I'll Get By (Turk-Ahlert) - 7:19
A3. My Favorite Things (Rodgers-Hammerstein) - 10:01
(Side B)
B1. Nature Boy (Ahbez) - 8:51
B2. Tenderly (Morrison-Lawrence-Gross) - 7:29
B3. Black Magic (Mercer-Arlen) - 8:35
Bonus tracks on cd:
Tr. Outer Research Intense Energy (Ra) - 7:14
[ Sun Ra & His Arkestra ]
Sun Ra - piano
Akh Tal Ebah - trumpet
Marshall Allen - alto saxophone, flute, oboe
Danny Davis - alto saxophone, flute
John Gilmore - tenor saxophone, percussion
James Jacson(prob.) - flute, basoon
Eloe Omoe - bass clarinet, flute
Richard Williams - bass
Luqman Ali (Edward Skinner) - drums
Atakatune - conga
1977年のサン・ラは前回ご紹介したソロ・ピアノ作『Solo Piano, Volume 1』(5月20日録音、Improvising Artists Inc.)とその続編『St. Louis Blues (Solo Piano vol.2)』(7月3日録音、Improvising Artists Inc.)からレコーディングを始めました。インプロヴァイジング・アーティスツ社はピアニストのポール・ブレイ(1932年生、2016年1月3日逝去)主宰のインディー・レーベルで、この2作はサン・ラのピアニストとしての実力を知らしめる話題作になりました。アーケストラのバンド作ではなくソロ・ピアノ作から始めたことで1977年はサン・ラのキャリアにとっても仕切り直しの年にもなりましたが、音楽的方向性は1975年のレコーディング・ブランクを挟んだ1976年の『Live at Montreux』『Cosmos』の2作ですでに一新されていたとも言えます。両作ともアーケストラならではのデフォルメの効いたアンサンブルながら、音楽的には明らかに4ビートのコンテンポラリーな復建を指向したものです。
そうした方向が1977年のソロ・ピアノ作ではより明確に現れ、アーケストラのバンド・アンサンブルに還元されたのが1977年7月18日のクラブ出演のライヴ『Somewhere Over the Rainbow』、10月14日のスタジオ録音作『Some Blues but not the Kind That's Blue』 からもうかがえます。『Somewhere~』はトリプル・ドラムス18人編成のパワフルなサウンドでスタンダード曲とオリジナル曲を交互に配した選曲、スタジオ作『Some Blues~』は収録曲から『Nature Boy』『My Favorite Things』と改題発売もされ、両作ともアーケストラ自身のサターン・レーベル作品ですが、夏録音のライヴ作は1978年発売、秋録音のスタジオ作は1977年内に発売されたことからも『Some Blues~』の発売が優先されたことがわかります。
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(Original El Saturn "Some Blues But Not the Kind That's Blue" LP Liner Cover & Side B Label)
アーケストラがここまで選曲面でも演奏でもメインストリームのポスト・バップ・ジャズに近づいたのはこのアルバムが初めてで、以前にもスタンダード曲のアルバムは数作ありましたがバップ的というよりモダン・ビッグバンド的なものでした。小コンボ編成作品も数作ありますがその場合はサン・ラのオリジナル曲によるアルバムでした。特にジャズ・リスナーではなければ他に面白いアーケストラのアルバムはいくらでもあります。ですがジャズの熱心なリスナーの場合これほど選曲面で入りやすいアルバムはなく、それはソロ・ピアノ作がジャズ・ジャーナリズムに関心を呼びオーソドックスなジャズ・リスナーに受けいられたのと同じ理由で、ライヴ作『Somewhere~』ではオルガンを弾き倒していたサン・ラも本作はピアノ1台で勝負しており、アーケストラ作品のサン・ラがピアノのみでアルバム1枚を通したのは1962年以来になるのではないかと思います。これも『Cosmos』でひさびさにロクシコード(エレクトリック・ハープシコード)1台で通したことで音色の統一からタイトなサウンドに絞り込む勘を取り戻した(マルチ・キーボードにやや依存気味だった傾向を改めた)ことからソロ・ピアノ作を経れば、当然アーケストラ作品に戻っての課題になるアプローチでした。ピアノ独奏による意外性のある前奏から始まり、ホーン奏者によるテーマ吹奏までこのピアノで曲になるのか、とハラハラするほど原曲の和声とリズム構成を解体しているのがアーケストラ流のスタンダード解釈で、リスナーがモダン・ジャズの平均的演奏水準を熟知していればいるほど凄みのわかるスリリングかつ渋いアルバムです。逆にアーケストラの本作からジャズを知ったリスナーにも圧倒的な熱量の伝わるアルバムですが、サン・ラからジャズに入るとモダン・ジャズの良さを丼勘定で知った気分になりかねない危険性もあります。ともあれ今月最後にご紹介するサン・ラのアルバムが親しみやすい力作の本作になったのは喜ばしく、来月からもアーケストラ作品のご紹介を続けていきたいと思います。