Recorded in Hollywood, California, April 1, 1957
[ Personnel ]
Art Pepper (as), Carl Perkins (p), Ben Tucker (b), Chuck Flores (ds)
前回スタン・ゲッツのことを「レスター・ヤングからの影響さえあればビ・バップがなくても個性を確立できたかもしれないテナー奏者」と書きましたが、あれは2/3は誇張で、ビ・バップによるリズム・セクションの革新を経た小編成バンドを持たなければゲッツも本領を発揮できなかったでしょうし、またゲッツ、ポール・デスモンド(アルトサックス)、そしてやはりビ・バップとパーカーが嫌いでレスターの影響のみを自負した白人アルト奏者の天才アート・ペッパーらはいずれもレニー・トリスターノ(ピアノ)門下のリー・コニッツ(アルトサックス)を経由してビ・バップ以降の白人サックスの手法を編み出しています。トリスターノは黒人のビ・バップに対して白人ジャズがどのようなモダン化が可能か徹底的に追究してトリスターノならではのクール・ジャズ・スタイルにたどり着いた最初の白人ジャズマンといえる人で、その一番弟子だったコニッツはレスターやビ・バップを意識しながらビ・バップとはまったく相反した白人ジャズのサックス奏法をトリスターノの指導で実践したアルト奏者でした。トリスターノの厳しい基準からすればよりレスター・ヤング的に余裕を持ったスタイルに進んだ後のコニッツすら弟子としては破門であり、ゲッツ、デスモンド、ペッパーらはクール・ジャズの俗流なのですが、トリスターノから離反した後のコニッツも、またゲッツ、デスモンド、ペッパーらもトリスターノの基準とは別にトリスターノ派クール・ジャズとは異なる優れたジャズマンでした。ジェリー・マリガン(バリトンサックス)を加えてもいいですが、彼らトップクラスの白人サックス奏者が白人同士、また黒人ジャズマンの師表たるチャーリー・パーカーに抱いていた感情は複雑なもので、パーカーを飛び越えてレスター・ヤングには共通して最大の尊敬と影響を認めていたのも面白い現象です。なかんずくもっとも孤高の存在といえるアルト奏者がアート・ペッパーでした。パーカーもゲッツも大嫌いでコニッツやデスモンドは意図的に無視し、10年間を刑務所生活で棒に振ってカムバックした50代になって初めてニューヨーク公演を行った生粋のロサンゼルスのジャズマンだったペッパーは、ビ・バップやクール派のような明確な方法意識を持たない出たとこ任せのアドリブで天才的な演奏をやってのけるとんでもない才能があり、そもそも曲すらろくに知らないで録音現場に臨みうろ覚えで初めて吹く曲をばっちり決めてみせるのが流儀というアドリブ一発の人でした。資質としてはゲッツ、またトランペット奏者ですがチェット・ベイカーと似ているのですが、ペッパーはゲッツには近親憎悪的な憎しみを持ちチェットとは共作アルバム2作を残しています。チェットはゲッツ(やコニッツ、デスモンド)とも機会があるごとに共演しているので、サックス奏者同士はなかなか難しいのでしょう。
話変わってジャズ・ヴォーカルでは、ビリー・ホリデイを尊敬しビ・バップの女性歌手としてディジー・ガレスピーに見出されたサラ・ヴォーンは'43年のデビューから「Body and Soul」を持ち歌にしていましたが、ビリーの晩年近い頃には衰えの見えていたビリーとは対照的に瑞々しさと貫禄を備えた歌手に成長していました。「Body and Soul」の第1回にご紹介した同年、'57年版のビリーのヴァージョンと較べてみてください(ちなみにリンク先の「'54 with Clifford Brown」というクレジットは間違っています。'54年のクリフォード・ブラウンとの録音でサラはこの曲を取り上げていません。正確なクレジットはピアノ・トリオをバックにした以下のデータ通りです)。
Recorded in New York City, February 14, 1957
[ Personnel ]
Sarah Vaughan (vo), Jimmy Jones (p), Richard Davis (b), Roy Haynes (ds)
セロニアス・モンク(ピアノ)はテナー入りカルテット編成のバンドを好んだ人でしたが、ライヴでもアルバムでも1曲はソロ・ピアノを弾くのが名物でした。モンクはビ・バップの開祖ですがソロ・ピアノでは2ビートのストライド・ピアノ風演奏が得意で、その古風なリズムの中に意表を突いたコード解釈とデフォルメされたメロディーが現れるのがモンクのソロ・ピアノの妙味になっています。
Recorded at Columbia Studios, New York City, November 1, 1962
[ Personnel ]
Thelonious Monk - unaccompanied solo piano
モンクの弟分だったバド・パウエルはピアノのチャーリー・パーカーというべき存在でしたが後年奏法が大きく変わり、テクニックの衰えというよりも演奏自体に対する態度からか不安定なリズムとつっかえるようなフレーズで非常にムラのある、成功しているのか失敗か判断の難しい演奏解釈が目立つピアニストになりました。デューク・エリントンのプロデュースでフランク・シナトラのリプリーズ・レコーズから発売された逝去3年前のこの「Body and Soul」は'50年の初録音版より倍も長い演奏ですが、タイム感そのものがバドの中で完全に変わってしまったような異様な生々しさがあります。これは優劣の問題ではないでしょう。
Recorded in Paris, France, February 1963
[ Personnel ]
Bud Powell (p), Gilbert Rovere (b), Carl Donnel "Kansas" Fields (ds)
'60年代ジャズ最高のメンバーによるかっこいい「Body and Soul」というと'62年に録音されレコード番号まで決まりながら発売寸前没アルバムになり、'76年に未発表作2枚のカップリングで陽の目を見て、'85年にようやく当初発売予定のジャケットで単体発売されたこのアルバムのヴァージョンがあります。マイルス・デイヴィスのバンドとジャズ・メッセンジャーズのメンバーの混成グループ、しかも全員もっともやる気に満ちた時期の録音ですから決まりまくっています。当時はこれが没になっていたのですから、昨今のジャズのアルバムで太刀打ちできるものがどれほどあるでしょうか。
[ Personnel ]
Freddie Hubbard (tp), Wayne Shorter (ts), Cedar Walton (p), Reggie Workman (b), Philly Joe Jones (ds)