今回からはアメリカの映画監督、ハワード・ホークス(Howard Hawks, 1896-1977)監督作品から27作を観ていこうと思います。ホークスの全監督作品は46作になるそうで、初監督作品は1926年の『栄光への道』The Road to Glory、遺作は1970年の『リオ・ロボ』Rio Loboと長いキャリアを誇った人です。46作のうちサイレント作品は8作、共同監督2作、オムニバス参加1作、演出協力1作、匿名監督3作になり、今回観る作品はサイレント時代からは1作のみですからトーキー作品では38作中26作になり、全作品からは6割弱ですがトーキー作品からは7割強を観ることになります。初見の作品も数本あって楽しみですがホークスの映画の大半は何度観ても面白く観られるもので、アメリカの映画監督で巨匠を5人上げればジョン・フォード(1895-1973)とともに必ず入る大家でしょう。ホークスは地元の富豪の実業家の長男に生まれ、大学で機械工学を専攻する傍らプロのオート・レーサーとして活躍し、レーサー仲間の友人ヴィクター・フレミング(のち『オズの魔法使』『風とともに去りぬ』の監督)の紹介で映画撮影所のアルバイトで働きました。大学卒業後1年間正式に撮影所に勤めてから一旦2年間の兵役に就き、飛行士訓練を受けて空軍のパイロット養成所教官として働き、映画界に復帰後はプロデューサーとして当時流行の短編喜劇の製作に当たり、映画の長編化の気運にシナリオライターに進出してパラマウント社で2年間に60本ものシナリオとプロデュースを手がけ、メトロ社への移転を経てフォックス社に入社し、念願の監督に進出します。サイレント時代の映画人たちはほとんどが少数民族系移民1世か2世の学歴もなく売れない貧乏なセミ・プロ舞台人か水商売上がり(たびたびその両方)ばかりだったので、ホークスのように実業家の家系の上流中産階級出身で大学卒(ホークスの場合はレーサーや撮影所で過ごした体験の方が大きかったと思われますが)の映画監督は当時珍しい存在だったそうです。ホークスに近い(女好きなのも共通する)実家が裕福で高等教育を受けぶらぶらした後に映画監督になった人には画家ルノワールの息子ジャン・ルノワール(1894-1979)がおり、ルノワールの場合は自主製作で長編映画を作ってデビューしましたが、フランスの映画監督だったからこそそうしたデビューもできたので、アメリカの映画界ではメジャー映画会社で実績を上げ全米、また世界的な配給網に乗せないと映画監督としては認められない事情がありました。今回も作品紹介は「キネマ旬報」の「近着外国映画紹介」から引用させていただきましたが、これらはすべて日本公開予定時に雑誌に掲載されたもので、ホークス作品は(第2次世界大戦中を除いて)ほとんど全米公開から即座に日本公開されているのがわかります。ホークスはサイレント時代からすでにメジャーなヒットメーカーで、遺作までその実績が続いた点でも稀有な成功を収めた監督でした。時代の先を行き過ぎて興行的に失敗した作品もありますが、それらも現在では傑作と認められているのです。
●10月1日(日)
『港々に女あり』A Girl in Every Port (フォックス'28)*78min, B/W, Silent; 日本公開昭和3年8月(1928/08) : https://youtu.be/Iu-Rpe8x3vo (Full Movie)
製作会社 フォックス映画
配給 フォックス支社
[ 解説 ] 「栄光への道」「雲晴れて愛は輝く」等の監督者ハワード・ホークス氏の原案に基づきジェームズ・ケヴィン・マッギネス氏がストーリーを立て、シートン・I・ミラー氏がそれを脚色したものから、ホウクス氏が監督したものである。主役は「栄光」「カルメン(1927)」出演のヴィクター・マクラグレン氏で「オール持つ手に」「狂乱街」等出演ののルイズ・ブルックス嬢が特にパ社よりフォックス社に借りられて相手役を勤め、舞台出のロバート・アームストロング氏がまた重要な役を演ずる。その他、リーラ・ハイアムス嬢、マリア・アルバ嬢、フランシス・マクドナルド氏等、助演。
[ あらすじ ] スパイク・マッデン(ヴィクター・マクラグレン)はある不定期船の一等運転士で、生粋の海の男であった。彼は世界中を股にかけていた。で、彼は世界中の港々に馴染みの女がいた。彼はその女に会うのを楽しみに航海を続けていた。が、近頃、彼には腐りが続いている。オランダの馴染みの女はもう結婚して子供まで成していた。その地で新たに出来た女には「ハートと碇」の印を紀念に残していった情人が既に居た。リオ・デ・ジャネイロでは馴染みの女には無頼漢が付いていたし、その上、この女にも「ハートと碇」の紀念が残されていた。パナマのある怪しい酒場で、彼はひどく何事にも自信のある顔をした水夫が癪にさわった。その男とスパイクは女の事から喧嘩し、揚げ句の果て、乱暴を働いたので2人とも牢にぶち込まれる。が、その中に喧嘩相手が無二の切っても切れぬ親友となって、どこへ行くにも2人連れという事になった。で、このビル(ロバート・アームストロング)という水夫もスパイクと同じ船に乗り組む事となり、この船がマルセイユに着いた時、計らずビル1人は歯痛で船に居残り、スパイク1人が上陸した。スパイクはここで軽業をしている女ゴディヴァ(ルイズ・ブルックス)と知り合いとなった。彼はたちまちこの女に夢中になった。この女と結婚できるならば何を棄ててもいいという気持ちになってしまい、船とも別れてしまった。ビルも友達を見棄てるに忍びず、彼も船を棄てたが、このゴディヴァも元を洗えば、コニィ・アイランドでビルと馴染みだった女なのである。ビルはこの女に友が欺かれて居るのを見て、大事に至らぬ中にと色々と心を碎いていたが、それも仇となりスパイクはビルを誤解し、怒りの雨を降らせた事もあったが、やがてまた誤解もとけ、2人は以前と同じの親友となった。
●10月2日(月)
『暁の偵察』The Dawn Patrol (ファースト・ナショナル'30)*108min, B/W; 日本公開昭和5年10月(1930/10)
製作会社 ファースト・ナショナル映画
配給 W・B・F・N社輸入
[ 解説 ] 「棘の園」「愛の曳綱」と同じくリチャード・バーセルメス氏主演映画で「空中サーカス」「港々に女あり」のハワード・ホークス氏が監督、「愛の曳綱」「棘の園」のアーネスト・ホーラー氏が撮影した。ジョン・モンク・ソーンダース氏の原作をホークス氏がダン・トザロー氏、シートン・I・ミラー氏と共に脚色したものである。助演者は「恋多き女」のダグラス・フェアバンクス・ジュニア氏、「最敬礼」のウィリアム・ジャニー氏、クライド・クック氏等である。
[ あらすじ ] 西部戦線に在る英国陸軍第59飛行中隊司令官ブランド少佐(ニール・ハミルトン)は自分が首斬役人であるような気がして日夜懊悩していた。それは部下の若い士官達が粗悪な飛行機に乗っては片っぱしから射落されて死んでしまうからである。彼が片腕と頼むコートネー(リチャード・バーセルメス)と彼とは親友同士であるが恐怖すべき塹壕生活のために異常な精神的昂奮に驅られて毎日のように争論していた。或日コートネーは親友スコット(ダグラス・フェアバンクス・ジュニア)と共に少佐の命令を無視して獨軍塹壕上に飛行して、九死に一生を得て帰って来た。その時司令官の地位を辞したブランドは憤ってコートネーに司令官たることを命じた。コートネーは責任ある地位に置かれて煩悶し飲酒に耽る。連合車の空車は形勢日に非となり、或日全員出動命令が下った。新たに赴任したスコットの弟ゴードン(ウィリアム・ジャニー)は実戦に経験が無いので兄はコートネーに弟を殺さないで呉れと頼んだ。併し命令は絶対でコートネーは心ならずもゴードンを死地に赴かせた。この為スコットとコートネーとは反目するに至った。帰休していたブランドが獨軍々需品倉庫爆破の命令をもってやって来た時、スコットは弟の弔い戦とばかり此の難事を引受けた。コートネーは自ら行くためにスコットを酔い潰させ、敵地五十基米にある倉庫の爆破に成功した。そして彼は自分の生命をその犠牲として捧げたのである。
●10月3日(火)
『暗黒街の顔役』Scarface (ユナイト'32)*102/93min, B/W; 日本公開昭和8年3月(1933/3/13)・ アメリカ国立フィルム登録簿登録(1994年)
製作会社 ユナイテッド・アーチスツ映画
配給 ユナイテッド・アーチスツ社
[ 解説 ] ニューヨークの劇団に於いて名優の一人として知られているポール・ムニ主演で「タイガー・シャーク」「群集の喚呼」と同じくハワード・ホークスが監督し「暗黒街」「河宿の夜」の作者ベン・ヘクトが、アーミテージ・トレイルの原作を基に脚色。助演は「毎夜来る女」「闇に踊る」のジョージ・ラフト、「群集の喚呼」のアン・ヴォーザーク、「アルセーヌ・ルパン」「インスピレーション」のカレン・モーリー、「心を汚されし女」のオスグッド・パーキンス、「マタ・ハリ」のC・ヘンリー・ゴードン、「フランケンシュタイン」のボリス・カーロフ。撮影には「上海特急」「間諜X27」のリー・ガームスがL・ウィリアム・オコンネルと協力して当たった。ちなみに本映画は「地獄の天使」と同じくハワード・ヒューズ提供によるもので、監督には前記ホークスを助けてリチャード・ロッソンも力を貸している。
[ あらすじ ] トニー・カモンテ(ポール・ムニ)はギャングの大親分ビッグ・ルイ・コスティロ(ハリー・J・ヴェジャー)の用心棒だったが、相手のギャングの親分ロヴォ(オズグット・パーキンス)に買収されてコスティロを暗殺する。そうしてコスティロの縄張りを手にいれたロヴォは、トニーを警察から貰い下げることはもとより、さらにその手柄と腕前を買ってトニーを副親分に引き立てる。しかし野心満々のトニーは副親分の地位では満足せず、やがては親分の地位をも狙う下心を抱いていた。それにトニーは、ロヴォの情婦ポピー(カレン・モーリー)にも心を惹かれていた。まずは腕前を見せるために南側の親分オハラを襲ってこれを射殺し、ビール密売の縄張りを拡張する。トニーの名がギャング仲間で重きを成すようになり始めると、ポピーの気持ちに変化が起こり彼に心が動き始める。トニーはさらに勇んで、ギャフニー(ボリス・カーロフ)を親分とする手ごわい北側へも手を延ばし始める。気の弱いロヴォはこれに反対するが、トニーの気勢はもう命令などは受け付けない。機関銃を手に入れたトニーには、もはや敵はいなかった。トニーの全市に渡る大殺戮が始まり、北側もついには彼の席捲するところとなった。トニーの勢力が親分ロヴォのそれを凌ぎ、ポピーまで彼の方へいよいよ心を動かしたとなると、ロヴォは心中穏やかならず手下にトニーを暗殺させようとする。しかしトニーはそれを逃れ、反対に弟分のリナルド(ジョージ・ラフト)と共にロヴォのもとに押しかけ、泣き叫び哀れみを乞うロヴォを射ち殺す。トニーはポピーを誘い、ほとぼりの冷めるまで高跳びをする。一ヵ月後、再びギャングスターの帝王としてこの地に戻ったときは、あまりのギャングの悪業に目覚めた世論が政界にすでに新統治者を送っていたが、それよりもトニーが憤ったのは、妹のチェスカ(アン・ヴォーザーク)が男と同棲していることだった。かねがね妹だけは堅気に育てたいと思っていたトニーは、アパートに押しかける。相手の男はリナルドだったが、有無も言わせず撃ち殺す。その後二人がすでに正式に結婚していたのだと知った時、トニーに初めて悔いの思いが沸き上がった。夫を殺され狂気のようになったチェスカは、警察にトニーの殺人を密告する。トニーを不倶載天の仇と目していたグアリノ警部(C・ヘンリー・ゴードン)は、多勢の警官を従えトニーが鉄壁の堅牢を誇るアパートを包囲する。チェスカは一時の狂気が去ると、肉親の情が起こりトニーを救うべく彼のアパートに駆けつけ、防戦へ力を貸す。妹の助けを得た上、トニーのアパートは鉄扉備えだ。トニーは警官隊へ応戦するが、チェスカが敵弾に倒されひとり残されると、剛気はたちまち挫けた。銃を失ったトニーは、全くの卑怯者だった。脱出しようとしたトニーは、最期は警官の銃火の下で死んでいった。
●10月1日(日)
『港々に女あり』A Girl in Every Port (フォックス'28)*78min, B/W, Silent; 日本公開昭和3年8月(1928/08) : https://youtu.be/Iu-Rpe8x3vo (Full Movie)
製作会社 フォックス映画
配給 フォックス支社
[ 解説 ] 「栄光への道」「雲晴れて愛は輝く」等の監督者ハワード・ホークス氏の原案に基づきジェームズ・ケヴィン・マッギネス氏がストーリーを立て、シートン・I・ミラー氏がそれを脚色したものから、ホウクス氏が監督したものである。主役は「栄光」「カルメン(1927)」出演のヴィクター・マクラグレン氏で「オール持つ手に」「狂乱街」等出演ののルイズ・ブルックス嬢が特にパ社よりフォックス社に借りられて相手役を勤め、舞台出のロバート・アームストロング氏がまた重要な役を演ずる。その他、リーラ・ハイアムス嬢、マリア・アルバ嬢、フランシス・マクドナルド氏等、助演。
[ あらすじ ] スパイク・マッデン(ヴィクター・マクラグレン)はある不定期船の一等運転士で、生粋の海の男であった。彼は世界中を股にかけていた。で、彼は世界中の港々に馴染みの女がいた。彼はその女に会うのを楽しみに航海を続けていた。が、近頃、彼には腐りが続いている。オランダの馴染みの女はもう結婚して子供まで成していた。その地で新たに出来た女には「ハートと碇」の印を紀念に残していった情人が既に居た。リオ・デ・ジャネイロでは馴染みの女には無頼漢が付いていたし、その上、この女にも「ハートと碇」の紀念が残されていた。パナマのある怪しい酒場で、彼はひどく何事にも自信のある顔をした水夫が癪にさわった。その男とスパイクは女の事から喧嘩し、揚げ句の果て、乱暴を働いたので2人とも牢にぶち込まれる。が、その中に喧嘩相手が無二の切っても切れぬ親友となって、どこへ行くにも2人連れという事になった。で、このビル(ロバート・アームストロング)という水夫もスパイクと同じ船に乗り組む事となり、この船がマルセイユに着いた時、計らずビル1人は歯痛で船に居残り、スパイク1人が上陸した。スパイクはここで軽業をしている女ゴディヴァ(ルイズ・ブルックス)と知り合いとなった。彼はたちまちこの女に夢中になった。この女と結婚できるならば何を棄ててもいいという気持ちになってしまい、船とも別れてしまった。ビルも友達を見棄てるに忍びず、彼も船を棄てたが、このゴディヴァも元を洗えば、コニィ・アイランドでビルと馴染みだった女なのである。ビルはこの女に友が欺かれて居るのを見て、大事に至らぬ中にと色々と心を碎いていたが、それも仇となりスパイクはビルを誤解し、怒りの雨を降らせた事もあったが、やがてまた誤解もとけ、2人は以前と同じの親友となった。
●10月2日(月)
『暁の偵察』The Dawn Patrol (ファースト・ナショナル'30)*108min, B/W; 日本公開昭和5年10月(1930/10)
製作会社 ファースト・ナショナル映画
配給 W・B・F・N社輸入
[ 解説 ] 「棘の園」「愛の曳綱」と同じくリチャード・バーセルメス氏主演映画で「空中サーカス」「港々に女あり」のハワード・ホークス氏が監督、「愛の曳綱」「棘の園」のアーネスト・ホーラー氏が撮影した。ジョン・モンク・ソーンダース氏の原作をホークス氏がダン・トザロー氏、シートン・I・ミラー氏と共に脚色したものである。助演者は「恋多き女」のダグラス・フェアバンクス・ジュニア氏、「最敬礼」のウィリアム・ジャニー氏、クライド・クック氏等である。
[ あらすじ ] 西部戦線に在る英国陸軍第59飛行中隊司令官ブランド少佐(ニール・ハミルトン)は自分が首斬役人であるような気がして日夜懊悩していた。それは部下の若い士官達が粗悪な飛行機に乗っては片っぱしから射落されて死んでしまうからである。彼が片腕と頼むコートネー(リチャード・バーセルメス)と彼とは親友同士であるが恐怖すべき塹壕生活のために異常な精神的昂奮に驅られて毎日のように争論していた。或日コートネーは親友スコット(ダグラス・フェアバンクス・ジュニア)と共に少佐の命令を無視して獨軍塹壕上に飛行して、九死に一生を得て帰って来た。その時司令官の地位を辞したブランドは憤ってコートネーに司令官たることを命じた。コートネーは責任ある地位に置かれて煩悶し飲酒に耽る。連合車の空車は形勢日に非となり、或日全員出動命令が下った。新たに赴任したスコットの弟ゴードン(ウィリアム・ジャニー)は実戦に経験が無いので兄はコートネーに弟を殺さないで呉れと頼んだ。併し命令は絶対でコートネーは心ならずもゴードンを死地に赴かせた。この為スコットとコートネーとは反目するに至った。帰休していたブランドが獨軍々需品倉庫爆破の命令をもってやって来た時、スコットは弟の弔い戦とばかり此の難事を引受けた。コートネーは自ら行くためにスコットを酔い潰させ、敵地五十基米にある倉庫の爆破に成功した。そして彼は自分の生命をその犠牲として捧げたのである。
●10月3日(火)
『暗黒街の顔役』Scarface (ユナイト'32)*102/93min, B/W; 日本公開昭和8年3月(1933/3/13)・ アメリカ国立フィルム登録簿登録(1994年)
製作会社 ユナイテッド・アーチスツ映画
配給 ユナイテッド・アーチスツ社
[ 解説 ] ニューヨークの劇団に於いて名優の一人として知られているポール・ムニ主演で「タイガー・シャーク」「群集の喚呼」と同じくハワード・ホークスが監督し「暗黒街」「河宿の夜」の作者ベン・ヘクトが、アーミテージ・トレイルの原作を基に脚色。助演は「毎夜来る女」「闇に踊る」のジョージ・ラフト、「群集の喚呼」のアン・ヴォーザーク、「アルセーヌ・ルパン」「インスピレーション」のカレン・モーリー、「心を汚されし女」のオスグッド・パーキンス、「マタ・ハリ」のC・ヘンリー・ゴードン、「フランケンシュタイン」のボリス・カーロフ。撮影には「上海特急」「間諜X27」のリー・ガームスがL・ウィリアム・オコンネルと協力して当たった。ちなみに本映画は「地獄の天使」と同じくハワード・ヒューズ提供によるもので、監督には前記ホークスを助けてリチャード・ロッソンも力を貸している。
[ あらすじ ] トニー・カモンテ(ポール・ムニ)はギャングの大親分ビッグ・ルイ・コスティロ(ハリー・J・ヴェジャー)の用心棒だったが、相手のギャングの親分ロヴォ(オズグット・パーキンス)に買収されてコスティロを暗殺する。そうしてコスティロの縄張りを手にいれたロヴォは、トニーを警察から貰い下げることはもとより、さらにその手柄と腕前を買ってトニーを副親分に引き立てる。しかし野心満々のトニーは副親分の地位では満足せず、やがては親分の地位をも狙う下心を抱いていた。それにトニーは、ロヴォの情婦ポピー(カレン・モーリー)にも心を惹かれていた。まずは腕前を見せるために南側の親分オハラを襲ってこれを射殺し、ビール密売の縄張りを拡張する。トニーの名がギャング仲間で重きを成すようになり始めると、ポピーの気持ちに変化が起こり彼に心が動き始める。トニーはさらに勇んで、ギャフニー(ボリス・カーロフ)を親分とする手ごわい北側へも手を延ばし始める。気の弱いロヴォはこれに反対するが、トニーの気勢はもう命令などは受け付けない。機関銃を手に入れたトニーには、もはや敵はいなかった。トニーの全市に渡る大殺戮が始まり、北側もついには彼の席捲するところとなった。トニーの勢力が親分ロヴォのそれを凌ぎ、ポピーまで彼の方へいよいよ心を動かしたとなると、ロヴォは心中穏やかならず手下にトニーを暗殺させようとする。しかしトニーはそれを逃れ、反対に弟分のリナルド(ジョージ・ラフト)と共にロヴォのもとに押しかけ、泣き叫び哀れみを乞うロヴォを射ち殺す。トニーはポピーを誘い、ほとぼりの冷めるまで高跳びをする。一ヵ月後、再びギャングスターの帝王としてこの地に戻ったときは、あまりのギャングの悪業に目覚めた世論が政界にすでに新統治者を送っていたが、それよりもトニーが憤ったのは、妹のチェスカ(アン・ヴォーザーク)が男と同棲していることだった。かねがね妹だけは堅気に育てたいと思っていたトニーは、アパートに押しかける。相手の男はリナルドだったが、有無も言わせず撃ち殺す。その後二人がすでに正式に結婚していたのだと知った時、トニーに初めて悔いの思いが沸き上がった。夫を殺され狂気のようになったチェスカは、警察にトニーの殺人を密告する。トニーを不倶載天の仇と目していたグアリノ警部(C・ヘンリー・ゴードン)は、多勢の警官を従えトニーが鉄壁の堅牢を誇るアパートを包囲する。チェスカは一時の狂気が去ると、肉親の情が起こりトニーを救うべく彼のアパートに駆けつけ、防戦へ力を貸す。妹の助けを得た上、トニーのアパートは鉄扉備えだ。トニーは警官隊へ応戦するが、チェスカが敵弾に倒されひとり残されると、剛気はたちまち挫けた。銃を失ったトニーは、全くの卑怯者だった。脱出しようとしたトニーは、最期は警官の銃火の下で死んでいった。