『革命児ファレス』Juarez (1939)
『偉人エーリッヒ博士』Dr. Ehrlich's Magic Bullet (1940)
『悪魔の金』The Devil and Daniel Webster (1941)
『恋の十日間』I'll Be Seeing You (1944)
『ラヴレター』Love Letters (1945)
等があります。ヴィデオソフト普及前には戦後作品『欲望の砂漠』Rope of Sand (1949)、『黒い街』The Turning Point (1952)などとともにくり返しテレビ放映されていたものです。そこで今回のジョセフ・コットン(1905-1994)主演のラヴ・ロマンス映画2作は、アメリカ本国でのヒットを受けた話題作として日本公開されたタイミング、甘美な内容と合わせておそらく日本でもっとも愛されてきたディターレ作品になりました。同様のことは諸外国でも言えるようで、映画史上の名作というと『真夏の夜の夢』『科学者の道』『ゾラの生涯』で特筆されるディターレですが真に愛されているのは珠玉の小品『ジェニイの肖像』『旅愁』なのは膨大な諸外国版ポスターが存在すること(あまりに多いので本国版ポスター3点ずつに絞りましたが)、映像ソフトのロングセラー作品になっていること、原作小説のある『ジェニイの肖像』の原作がくり返し翻訳され日本でも版を重ねていることの他にも、『ジェニイの肖像』と『旅愁』を焼き直したような作品が今でも多く製作されているのが何よりこの2作の人気を物語っているようです。この2作の基本アイディアはよほどアメリカ人好みなのか同時期にも類似作があり、必ずしもディターレ作品の影響ばかりとは言えませんが、アメリカ人のみならず日本人やヨーロッパ人好みでもあるのは『ジェニイの肖像』と『旅愁』の直接の影響が大きいのではないかと思われます。今回もキネマ旬報の近着外国映画紹介から解説文を引用させていただきましたが、キネマ旬報は資料性から映画の結末までを記載しているので、未見の方はあらすじの最後の数行は読まないほうが楽しめるかもしれません。結末を知っていても作品鑑賞の本質には変わりはありませんが、この2作はサスペンス/スリラー的要素で引っ張っていく面も強い作品です。感想文では結末については直接触れない書き方に留意しました。
●9月27日(水)
『ジェニイの肖像』Portrait of Jennie (セルズニック/MGM'48)*86min, B/W, Color Tinted & Technicolor; アカデミー賞撮影賞白黒部門(ジョセフ・オーガスト)ノミネート・特殊効果賞受賞、ヴェネチア国際映画祭男優賞受賞(ジョセフ・コットン)/日本公開昭和26年7月3日(1951/7/3)
ジャンル ドラマ
製作会社 セルズニック映画
配給 東宝洋画部
[ 解説 ] 「レベッカ」のデイヴィッド・O・セルズニック製作になる1947年度作品で、ロバート・ネイザン(「気まぐれ天使」)の同名の小説からレオナルド・バーコヴィッチ(気まぐれ天使)が潤色、「仔鹿物語」のポール・オスボーンがピーター・バーニースと協同で脚色し、「欲望の砂漠」のウィリアム・ディーターレが監督した。撮影は「悪魔の金」のジョセフ・オーガスト、音楽は「西部の男」のディミトリ・ティオムキンで、ドビュッシイの曲を使用している。「ガス燈」のジョセフ・コットン、「聖処女」のジェニファー・ジョーンズをめぐって、「ミネソタの娘」のエセル・バリモア「奥様は魔女」のセシル・ケラウェイ、往年のスター、リリアン・ギッシュが出演する。なお本作品は幻想的雰囲気を強調するため、さまざまな特殊技巧を使用しているので評判となっている。
[ あらすじ ] 1938年の冬、貧しい画家のイーベン・アダムス(ジョセフ・コットン)はセントラル・パークでジェニーと名乗る可愛い少女(ジェニファー・ジョーンズ)と出合った。彼の描いた少女のスケッチは画商のマシューズ(セシル・ケラウェイ)やスピニー嬢(エセル・バリモア)の気に入り、彼もようやく芽が出かけた。公園のスケートリンクで再びジェニーに出合ったアダムスは、彼女が暫くの間ににわかに美しく成長したのにうたれ、早速その肖像画を描く事を約した。約束の日彼女は来ず、彼女の両親がいるという劇場を訪ねたアダムスは、その劇場が既に数年前に潰れて当時からジェニーは尼僧院に入れられていることを発見した。数ケ月後、消息不明だったジェニーは成熟した女性になって突然アダムスの画室に現れた。彼は直ちに肖像画制作にかかるが、未完成のまま彼女は姿を消してしまった。しかしモデル不在のまま完成したその画は非常な評判となり、アダムスは一躍画壇の寵児となった。ジェニーを求めて尼僧院を訪れたアダムスは、彼女が1920年ニュー・イングランドを襲った津波で溺死したことを聞いた。彼はすぐさま現場の岬へかけつけてボートを漕ぎ出したが、とたん、彼のボートも猛烈な暴風で叩き潰された。命からがら崖にはい上った彼はジェニーのボートが近づいて来るのを見、夢中で救い上げたが、襲いかかった波は二人を呑んでしまった。アダムスが気がついた時、周囲の人々は誰ひとりとしてジェニーを知らなかった。彼女はただアダムスの心の中だけに永久に生きている女性なのであった。
●9月28日(木)
『旅愁』September Affair (パラマウント'50)*104min, B/W; ゴールデン・グローブ賞音楽賞(ヴィクター・ヤング)受賞/日本公開昭和27年4月24日(1952/04/24)
ジャンル ラブロマンス / ドラマ
製作会社 パラマウント映画
配給 パラマウント日本支社
[ 解説 ] イタリイを舞台にした恋愛メロドラマ1950年作品で、製作は「欲望の砂漠」のハル・B・ウォリス、監督は「ジェニーの肖像」のウィリアム・ディーターレ。フリッツ・ロッターの原作より「別働隊」のロバート・ソーレンが脚色、撮影は「囁きの木陰」のチャールズ・ラング・ジュニア、欧州ロケの撮影は「殺人幻想曲」のヴィクター・ミルナー、作曲は「テキサス決死隊(1949)」のヴィクター・ヤングの担当。主演は「白昼の決闘」のジョセフ・コットンと「レベッカ」のジョーン・フォンテーンの初顔合せで、「女だけの都」「宝石館」などのフランソワーズ・ロゼエ(アメリカ映画初出演)、「モナリザの微笑」のジェシカ・タンディ、「頭上の敵機」のロバート・アーサー、ジミー・リンドンらが助演。なお、主題歌「セプテンバー・ソング」は10年前のブロードウェイ・ショウのヒット・ソングで、故ウォルター・ヒューストンの吹き込み。
[ あらすじ ] イタリイから米国へ向かう旅客機に、若いピアニスト、マニナ・スチュアート(ジョーン・フォンテーン)と紐育の技師デイヴィッド・ローレンス(ジョセフ・コットン)が乗り合わせた。マニナはコンサートの契約で、デイヴィッドは妻キャサリン(ジェシカ・タンディ)と離婚するために帰るところだった。だが機が故障を起こしてナポリに不時着した。マニナとデイヴィッドは昼食をとりに町へ出、帰ってみると機は出発してしまっていた。2人は数日間ポンペイとキャプリ島に旅行することにした。キャプリ滞在中、2人の友情は恋に発展していった。そして2人はあの旅客機が墜落し乗客は2人を含めすべて死んだと報告されたことを知った。デイヴィッドとマニナの新しい生活がこのときから始まった。マニナのピアノ教師であり親友であるマリヤ・サルヴァティニ(フランソワーズ・ロゼエ)1人だけがこの2人の恋に忠告をするのだった。その頃デイヴィッドの妻が息子(ロバート・アーサー)と一緒にイタリイに来て真相を知った。キャザリンはまだ夫を愛してはいたが、夫の新しい幸福をそのままに、アメリカへ帰った。デイヴィッドは、この生活を幸福と思いながらも、いつしか無意識のうちに仕事に憧れ、息子を思ってやまなかった。やがてデイヴィッドとマニナも渡米し、マニナの演奏会は大成功だった。だが彼女は今の生活が真実のものでないことに気づき、南米への演奏旅行に1人旅立っていくのだった。