Recorded at Studio RLA, New York, November 16, 1965
Released by ESP-Disk ESP1017, 1966
All songs written and arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. The Sun Myth - 17:20
(Side B)
B1. A House of Beauty - 5:10
B2. Cosmic Chaos - 14:15
[ Sun Ra and his Solar Arkestra ]
Sun Ra - piano, tuned bongos and clavioline
Marshall Allen - alto saxophone, piccolo, flute
Pat Patrick - baritone saxophone
Walter Miller - trumpet
John Gilmore - tenor saxophone
Robert Cummings - bass clarinet
Ronnie Boykins - bass
Roger Blank - percussion
1965年にサン・ラ・アーケストラはアルバム4枚分を録音しており、そのうち4月20日録音の『The Heliocentric Worlds of Sun Ra』(『Volume Two』発売後、カタログ上では『The Heliocentric Worlds of Sun Ra, Volume One』と改題)と11月16日録音の本作『The Heliocentric Worlds of Sun Ra, Volume Two』はフリー・ジャズとアンダーグラウンド・フォークとロックの新設レーベル、ESPディスクからのリリースで、サン・ラが初めて国際的に注目されたアルバムです。もっともサン・ラはアメリカ国内でもシカゴのローカル・ジャズマンとして伝説的な存在だっただけで、60年代にニューヨークに進出してからは足かけ5年自主レーベルのサターンからリリース保留のアルバムを制作する以外ほとんどライヴ活動の機会に恵まれませんでした。メンバーたちは共同生活し、音楽以外のアルバイトで生計を立てセッション活動でバンドを維持し、ようやくアーケストラがニューヨークのフリー・ジャズ・シーンに迎えられて本格的にライヴ活動ができる状況になったのは1964年6月以降です。1961年末のニューヨーク進出以来よくバンドが空中分解しなかったと思えますが、それだけのカリスマがサン・ラにはあったということでしょう。
サン・ラ(ピアノ)以外にシカゴからついてきたメンバーはサックス・セクションの3人(マーシャル・アレン、ジョン・ギルモア、パット・パトリック)とベースのロニー・ボイキンズで、ギルモアとパトリックは1956年のデビュー作からのメンバー(ギルモアは1953年、パトリックもほぼ同期)、アレンとボイキンスは1958年からのメンバーです。サン・ラ・アーケストラの名がニューヨークのジャズマンに徐々に浸透して現地参加メンバーも増員していったのはシカゴ時代からの中核メンバーたち、特にテナーのジョン・ギルモアの積極的なセッション活動による部分が大きく、シカゴ時代すでにブルー・ノート・レーベルから同郷のテナーのクリフ・ジョーダン(のちチャールズ・ミンガスのグループへ)と2テナー・アルバムを持っていたギルモアですから(『Blowing in From Chicago』1957)ギルモアの知名度が、ジャズマンの間に限るとはいえサン・ラへの注目につながった面があります。またニューヨーク進出後にアーケストラの音楽はスタイルを刷新しますが、サン・ラより10歳~20歳若いメンバーたちはビ・バップ以降のジャズマンであり、シカゴ時代のハード・バップからニューヨーク進出後のフリー・ジャズに対応できる世代だったのも見過ごせません。アーケストラはビッグバンド世代では最年少だったサン・ラがポスト・バップ期に成功したバンドで、リーダーとメンバーたちの年齢差がむしろ音楽のハイブリッド性にプラスに働いた幸運なチームでした。スポーツに例えればプレーヤー個人の力量に頼るタイプの競技よりも、野球チームと監督に近い命令系統の関係にあったバンドかもしれません。
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(Original ESP-Disk "The Heliocentric Worlds of Sun Ra, Volume Two" LP Liner Cover & Side A Label)
ESPレーベルはクラシックやジャズのレコードでは通常な、LPジャケット裏のライナー・ノーツをあえて掲載せずに、ミステリアスで非商業的なイメージを方針にしていました。メンバーや録音データすら明記していない時もありました(実際は非常に音源やデータ管理もしっかりしていました)。意図せずしてライナー・ノーツを掲載しない、メンバーやデータもあいまいというのはサターン・レーベルのアルバムと体裁は同じでした(サターン盤の場合は録音年月日不明から起こったことですが)。サン・ラはライナー・ノーツの代わりに詩を載せることがあり、『Volume Two』には割合しっかりしたデータとサン・ラのポートレイト写真、詩が裏ジャケットに掲載されていますが、同日録音なのが確かとすれば『Volume Two』と『Volume Three』が録音されて前者だけ発売されたのか、全8曲が録音されたうち採用テイクだけを集めて『Volume Two』として発売されていたのかは不明です。もし後者の通りの事情だったのなら実は『Volume Three』という未発表アルバムは存在せず、単に『Volume Two』セッション時の没テイク集に過ぎなくなります。
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(Tracklist)
1. Intercosmosis - 17: 05
2. Mythology Metamorphosis - 4: 17
3. Heliocentric Worlds - 4: 18
4. World Worlds - 5: 09
5. Interplanetary Travelers - 5:06
リンクを引いて実物をご紹介できず残念ですが、収録時間を見るとA面に1曲(冒頭の「Intercosmosis」)、2~5の4曲がB面でちょうどLP収録時間にうまく収まるようになっています。内容は『Volume One』の室内楽的構成や『Two』の抽象度よりも『The Magic City』や『The Heliocentric Worlds~』に先立つサターン盤に近いもので、おそらく『Volume One』と『Two』が残された最終ミックス・マスターによるのに対して、『Volume Three』はミックス作業されていないマテリアルからCD化に当たってマスターが作成されたのではないか、と思われます。バンドの自主制作によるサターン盤は貧弱な機材ながら演奏のパワーを抑制しない録音が特徴でした。ESP盤の音質には定評がありますが、『Volume One』では10人、『Two』と『Three』でも8人というのはESPの他の契約アーティストには類のない大編成です。サターン盤と較べると音質を優先してコンパクトなミックスになった観が否めません。『Three』はCD時代になって録音から40年を経て発掘された利があり、迫力のある音質で60年代のピーク時のアーケストラが聴ける点で落とせません(以前掲載したアルバム・リストでは落としてしまいましたが)。おそらくA面全面に予定されていた大曲「Intercosmosis」が白眉でしょう。ただしパーカッション曲の2、4ビート曲の3、5などは1963年頃の作風をESP向けにリメイクしたとも見え、サン・ラ側でも『Two』の優先発表を希望したもののESPでは『Three』の発売のタイミングを逃したとも思えます(これもESPからの次作であり公式アルバム初の全編ライヴ盤『Nothing Is』1966はレーベルのリリース・スケジュールから発売は1970年になります)。
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(Original ESP-Disk "The Heliocentric Worlds of Sun Ra" 2010/3CD Edition Front Cover)
この『Volume Two』は一般に名盤とされる『Volume One』ほどには評価は高くありません。『Volume One』で聴かれたピアノとエレクトリック・チェレステ、サン・ラ自身が演奏するバス・マリンバのうちエレクトリック・チェレステは『Volume Three』でも聴けますが、『Two』ではアルコ(弓弾き)奏法によるベースがテーマを奏で、継いでテーマ変奏にサックスが絡み、ピアノが入ってくるのは6分半近くになってからです。アーケストラのサックス奏者は極端に無機的で抽象度の高い奏法を要求されるか、逆に極端に肉声化した奏法かに分かれますが、『Volume One』と『Two』は前者、『Three』は後者で、特に『Two』の抽象度は電子音に近いフラジオ奏法の多用にもうかがわれます。『Two』でサン・ラが使用するエレクトリック・キーボードはクラヴィオリーヌですが、音色がサックスのフラジオ音と酷似しているため混沌とした印象を受けます。マーシャル・アレンがピッコロで活躍するB1では2分台から1分ほど抒情的なピアノ・トリオ演奏が聴け、アコースティック・ピアノになる箇所ではベースが美しいピチカート奏法を聴かせてくれます。B2はストップ・タイムを多用してサックス陣のリズム・ブレイクをフィーチャーした曲で、リズム・パターンをテーマの役割にしたアイディアの曲です。7分半からリズム・ブレイク後にあるドラムスとサン・ラ自身によるコンガのデュオにはテープ編集された痕跡があり、クラヴィオリーヌによるものかメロトロンに近い音色のドローンが鳴っています。シンバル類の音色に位相の変化があり、こういう細工があるからサン・ラは聴いてみないとわからない好例です。サン・ラのアルバムでもさりげなく、しかし注意して聴くほど凝った意欲作ですが、こうした音楽に親しみのないリスナーにはポイントをつかみづらい作品かもしれません。