キング・ヴィダー(1894-1982)は、サイレント時代すでにアメリカ映画最高の映画監督でした。第1長編『涙の船唄』'20は父子もの(孤児を育てる孤独な男ですが)の古典といえる作品ですし、サイレント映画史上第3位の大ヒットを記録した第1次世界大戦が背景の戦争ロマンスの大作『ビッグ・パレード』'25は似た題材の戯曲から明らかにヴィダー作品を意識したヒット作『栄光』'26(ラオール・ウォルシュ作品、ジョン・フォード『栄光何するものぞ』'52はウォルシュ作品のリメイク)、さらに『栄光』を下敷きにしたハワード・ホークスの出世作『港々に女あり』'28を生み出し、『ラ・ボエーム』'26はオペラのサイレント映画化という困難を完全にオペラ的要素を払底して『風』'28(ヴィクトル・シェーストレム作品)とともにヒロイン役リリアン・ギッシュのグリフィス作品以降最高の作品になったメロドラマで、『群衆』'28はあえて無名キャストを起用し翌年のアメリカの大恐慌を予見したかのような平凡な核家族の悲劇を描いた恐るべきホームドラマで興行的に大失敗した作品でしたが早くから名作と再評価されました。サイレント映画の監督、俳優が映画のトーキー化に適応できず多くは生彩を失った中でヴィダーの好調はトーキー化以降の'30年代にも続き、今回観直した4作程度では足らず'30年代作品はどれもヴィダーの代表作と言えるものばかりです。'40年代になるとアメリカ映画は戦争映画と犯罪映画のブームになってしまうので、ヴィダーはアメリカ映画のもっとも健康な時代に本領を発揮した映画監督と言えます。観直した4作のうち『テキサス決死隊』と『チャンプ』は必見レベルの名作(この順)、『ビリー・ザ・キッド』は名作ながらやや上級者(30分あれば記憶だけで「アメリカ映画名作ベスト100」を監督名と製作年度つきで書ける程度)向け、『麦秋』はなおかつ作品自体の外圧的瑕瑾を許容できて歴史的背景についての理解もある愛好家向けと、名作なりにも差違はややあります。戦前の日本の映画批評文献を読むと日本でもっとも批評家と観客両方に愛された外国映画の監督はフランスのルネ・クレールとともにアメリカ映画ではキング・ヴィダーであり、この戦前の日本人映画批評家・観客の見識は誇っていいのではないでしょうか。
●8月20日(日)
『麦秋』Our Daily Bread (アメリカ/ユナイト'34)*74min, B/W, Standard
●8月21日(月)
『テキサス決死隊』The Texas Rangers (アメリカ/パラマウント'36)*98min, B/W, Standard
『続・テキサス決死隊』The Texas Rangers Again (アメリカ/パラマウント'40)*68min, B/W, Standard
(なぜかポスターでは題名が……?)
●8月20日(日)
『麦秋』Our Daily Bread (アメリカ/ユナイト'34)*74min, B/W, Standard
●8月21日(月)
『テキサス決死隊』The Texas Rangers (アメリカ/パラマウント'36)*98min, B/W, Standard
『続・テキサス決死隊』The Texas Rangers Again (アメリカ/パラマウント'40)*68min, B/W, Standard
(なぜかポスターでは題名が……?)