主演女優にシルヴィア・シドニーを起用した犯罪映画三部作(スリラー、メロドラマ、コメディ)から始まったフリッツ・ラングのハリウッド作品は'40年代を迎えてさらに西部劇、スパイ活劇と進みます。サイレント時代初の大作がエキゾチック活劇『蜘蛛』1919/1920だったようにラングの作風には西部劇との親近性は元々あり、さらに『ドクトル・マブゼ』以降のラング映画にはスパイの登場は不可欠でしたが、1940年代となると第二次世界大戦をにらんだ戦争映画(反ナチ映画)としての性格も加わりました。ラングのハリウッドでの監督作品はジャンル的には犯罪映画、西部劇、戦争映画と分けてジャンル内でスリラーだったりメロドラマだったりコメディだったり手口を変えていると言えるので、第二次世界大戦開戦前のこの時期までにほぼラングに割り当てられる題材は決まったといえます。特に'40年代前半の作品は充実しており、終戦後の作品にムラがあるのと対照をなしています。ムラがあっても面白いのが叩き上げの映画人ラングのしぶといところですが、ハリウッド第1作『激怒』'36~『緋色の街/スカーレット・ストリート』'45までの戦前・戦中作品、『外套と短剣』'46~ハリウッド最終作『条理ある疑いの彼方に』'56の戦後作では映画の張りにかなり差があり、ハリウッド時代のラング映画を観るならまず戦前・戦中作品からでしょう。この時期の作品はどれをとっても面白く、ラングのサービス精神がサイレント時代以上にうまく映画を楽しくしています。戦争を逃れてアメリカに渡ってきたヨーロッパの監督はラングに限りませんが、アメリカ映画で本国では作れなかった題材の名作を残した点でラングに次ぐのはジャン・ルノワールくらいでしょうか。しかし数の上ではルノワールのアメリカ映画はラングの1/4程度なのです(それだけ密度が高いとも言えますが)。またルノワールとラングでは手がけた題材も相当異なり、単純には比較できません。今回の3作などはまずルノワールには回ってこなかった企画でしょう。
●5月20日(土)
『地獄への逆襲』The Return of Frank James (米20世紀フォックス'40)*93mins, Technicolor
●5月21日(日)
『西部魂』Western Union (米20世紀フォックス'41)*92mins, Technicolor
●5月22日(月)
『マン・ハント』Man Hunt (米20世紀フォックス'41)*102mins, B/W
●5月20日(土)
『地獄への逆襲』The Return of Frank James (米20世紀フォックス'40)*93mins, Technicolor
●5月21日(日)
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●5月22日(月)
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