3月21日(火)
ウォルター・ラング『テムプルちゃんの小公女』(アメリカ'39)*92mins, Technicolor
・シャーリー・テンプル(1928-2014)は1932年映画デビューで30年代には大会社フォックスの看板スターを張った天才子役女優。6歳のときの知能検査でIQは10歳相当、12歳ではIQ155以上(成人相当)だったという。本作はテンプル作品初のカラー映画で、戦中作品のため'79年、大杉久美子による吹き替え版が初公開になった。いわゆる美少女では全然ないし、中性的どころか年齢不詳で、童顔で小柄な中年女性でも通ってしまいそうなアンバランスさがある。滑舌や所作がまるで子供らしくない。長じて外交官夫人になったのもなるほどと思える。社交術ばかりに磨きをかけてきた風格があって、ヨーロッパの小国の王女でも務まりそう。映画もテンプルの存在感で充満した大した出来で、日本の少女マンガであれば喜怒哀楽の辛さ悲しさも強調されるようなボーア戦争を背景にした父娘離別のストーリーなのに、微塵の暗さも感じさせない天真爛漫さでご都合主義に突き進んで爽快そのもの。'30年代末の作品だがカラーのセミ・ミュージカル映画ということもあり(今回のファミリー映画は5本ともカラー作品なのに注意)、ハリウッド映画がさらに絢爛になる'40年代を早くも先取りしている印象もある。
3月22日(水)
フレッド・M・ウィルコックス『名犬ラッシー~家路~』(アメリカ'43)*88mins, Technicolor
・ラッシー映画第1作。初代ラッシーは雌犬で、飼い主の少年はロディ・マクドウォール(1928-1998)だった。末っ子役で準主演だったジョン・フォード『わが谷は緑なりき』'41が出世作で、後に『猿の惑星』の猿人コーネリアス博士、『フライトナイト』シリーズの吸血鬼ハンター役で知られる。ヨークシャーに住む少年の愛犬ラッシーは地主の侯爵に目をつけられ買われて行ってしまうが、すぐに脱走して帰ってくる。侯爵はラッシーをスコットランドの別荘で調教しようとするが、ラッシーはイギリス半分を横断して帰ってくる。侯爵令嬢(エリザベス・テイラー)の無言の懇願でラッシーは再び少年の家に戻り、失業していた少年の父(ドナルド・クリスプ。『わが谷は~』と同じ父子配役!)は侯爵家の犬の調教師の職に取り立てられるのだった。ハリウッドのファミリー映画は冒険映画でもホームドラマでもイギリス種が多いのはいくつも理由はあろうが、本作はとにかく犬と自然が美しい。ラッシーなどこれが映画撮影だと理解して完璧な演技をこなしているようにしか見えない。アメリカ国立フィルム登録簿選定作品。確かに不世出の犬には違いない。
3月23日(木)
クラレンス・ブラウン『仔鹿物語』(アメリカ'47)*128mins, Technicolor
・フロリダ州で小作農を営むグレゴリー・ペック一家がひょんなことから仔鹿を飼うことになり、一人息子の少年が可愛がるが、やがて1歳に育った鹿は新芽を荒らすようになる。柵をして森に放しても柵を飛び越えてきりもない。結局仔鹿を少年みずから射殺することになるが、そのまま少年は家出してカヌーで川下り途中転覆し郵便船に救出される。『名犬ラッシー~家路~』と次の『赤い子馬』を足して割ったような話だが、少年役クロード・ジャーマンJr.がジャン=ピエール・レオ(『大人は判ってくれない』)に匹敵する天才子役演技で圧倒的な説得力がある。原題『The Yearling』は仔鹿を指すばかりでなく少年の精神的成長を指しているのがわかる。シンプルなプロットとストーリーに父親、母親(ジェーン・ワイマン)、一人息子だけの登場人物で2時間を越える長尺を飽きさせず緊張感が持続するのも焦点が定まっているからで、所どころハッとするような鋭いカットがあり、小作農一家の生活を丁寧に描いてリアリティがあるから仔鹿を飼うことになる経緯も少年自身が射殺せざるを得なくなる事態も作り話めいたそらぞらしさがない。グレタ・ガルボ映画で名を上げたブラウンだが、一連のガルボ主演作も安定した実力を誇っていただけあり、本作は正攻法の名作と言える出来。『名犬ラッシー~家路~』や『赤い子馬』など類似作が多いので割を喰っているのではないか。
3月24日(金)
ルイス・マイルストン『赤い子馬』(アメリカ'49)*89mins, Technicolor
・原作者のジョン・スタインベックがシナリオも担当(連作小説の第1部より)。スタインベックといえばフォークナー、ヘミングウェイに並ぶスター作家でノーベル文学賞作家だが一流作家とは言えず、最高傑作『怒りの葡萄』もジョン・フォードの映画化がなければ忘れてもいい程度の作品ではないか。この作品は一人息子、夫婦、祖父(妻の父)、雇われカウボーイ(ロバート・ミッチャム)という小農園で『仔鹿物語』より豊かな家庭。『仔鹿~』の少年は家業を手伝っているが本作の少年は学校に通っている。アクシデントで飼うことになった『仔鹿~』と違って本作では子馬は少年へのプレゼントで、カウボーイに教えられて世話をしたり怪我の世話をしたりするが、逃げ出して死んでしまう。少年役の子役(ピーター・マイルズ)も夫婦仲のぎこちない両親(シェパード・ストラドリック、マーナ・ロイ)、娘婿に嫌われている祖父(ルイス・カルハーン)など俳優も悪くないし好演なのだが、同じスタインベック原作・マイルストン監督の『廿日鼠と人間』'39ほど成功していない。あまり仲の良くない家庭の中の少年と寡黙なカウボーイの子馬を仲立ちにした友情の行方を描きたいとしても子馬を愛する少年の純情を描きたいとしても中途半端だし(学校で子馬を自慢して見え透いた嘘までつくのは現実的ではあるにせよ共感できない)、すっきりしない家庭不和のエピソードは物語に厚みを与えているというよりも印象を散漫にしている。マイルストンもサイレント時代からのヴェテランだが、88分の『名犬ラッシー~家路~』はもちろん『仔鹿物語』の128分の充実と較べると『赤い子馬』は89分でも冗長に感じる。
3月25日(土)
マーヴィン・ルロイ『若草物語』(アメリカ'49)*122mins, Technicolor
・この話は原作も映画(キャサリン・ヘップバーン主演でジョージ・キューカー監督の'33年版もある)も苦手で、4人姉妹のキャラクターに魅力をまったく感じない上に区別がぜんぜんつかない。4人姉妹というより4つ子の姉妹が別々の役割を演じているだけ、という気がする。父が南北戦争出征中の、母と4人姉妹のホームドラマ。次女ジョー(ジューン・アリソン)はお転婆で作家志望、長女メグ(ジャネット・リー)はおっとりした家庭的な性格、三女エイミー(エリザベス・テイラー)はプライドの高い現実家で絵が上手、四女ベス(マーガレット・オブライエン)は音楽好きで優しい病弱な娘。やがて隣家の気難しい富豪が純真なベスによって家族ぐるみの交際になり、その孫ローリーはジョーに恋するが新進作家になっていたジョーは振り切ってニューヨークへ上京。同じ下宿で教養人のベア教授はジョーの怪奇小説を一蹴、本当に書きたいことを書くべきと勧める。やがて一家が不幸に見まわれ、ジョーは本当に書きたいことを見つけるのだった。うーん、つまらないことは決してないし、ルロイの映画だけあって手堅いのだが、2時間に治めるにはごたごたしているし、かといって2時間半や3時間ではかなわないし、似たような話で2時間45分の『君去りし後』'44(ジョン・クロムウェル)は良かったけどあれはお母さんがヒロインだった。『赤い子馬』ほど散漫ではないが『若草物語』の4人姉妹は4人じゃなくてもいいんじゃないかと何だかすっきりしない不満を抱かせる。
ウォルター・ラング『テムプルちゃんの小公女』(アメリカ'39)*92mins, Technicolor
・シャーリー・テンプル(1928-2014)は1932年映画デビューで30年代には大会社フォックスの看板スターを張った天才子役女優。6歳のときの知能検査でIQは10歳相当、12歳ではIQ155以上(成人相当)だったという。本作はテンプル作品初のカラー映画で、戦中作品のため'79年、大杉久美子による吹き替え版が初公開になった。いわゆる美少女では全然ないし、中性的どころか年齢不詳で、童顔で小柄な中年女性でも通ってしまいそうなアンバランスさがある。滑舌や所作がまるで子供らしくない。長じて外交官夫人になったのもなるほどと思える。社交術ばかりに磨きをかけてきた風格があって、ヨーロッパの小国の王女でも務まりそう。映画もテンプルの存在感で充満した大した出来で、日本の少女マンガであれば喜怒哀楽の辛さ悲しさも強調されるようなボーア戦争を背景にした父娘離別のストーリーなのに、微塵の暗さも感じさせない天真爛漫さでご都合主義に突き進んで爽快そのもの。'30年代末の作品だがカラーのセミ・ミュージカル映画ということもあり(今回のファミリー映画は5本ともカラー作品なのに注意)、ハリウッド映画がさらに絢爛になる'40年代を早くも先取りしている印象もある。
3月22日(水)
フレッド・M・ウィルコックス『名犬ラッシー~家路~』(アメリカ'43)*88mins, Technicolor
・ラッシー映画第1作。初代ラッシーは雌犬で、飼い主の少年はロディ・マクドウォール(1928-1998)だった。末っ子役で準主演だったジョン・フォード『わが谷は緑なりき』'41が出世作で、後に『猿の惑星』の猿人コーネリアス博士、『フライトナイト』シリーズの吸血鬼ハンター役で知られる。ヨークシャーに住む少年の愛犬ラッシーは地主の侯爵に目をつけられ買われて行ってしまうが、すぐに脱走して帰ってくる。侯爵はラッシーをスコットランドの別荘で調教しようとするが、ラッシーはイギリス半分を横断して帰ってくる。侯爵令嬢(エリザベス・テイラー)の無言の懇願でラッシーは再び少年の家に戻り、失業していた少年の父(ドナルド・クリスプ。『わが谷は~』と同じ父子配役!)は侯爵家の犬の調教師の職に取り立てられるのだった。ハリウッドのファミリー映画は冒険映画でもホームドラマでもイギリス種が多いのはいくつも理由はあろうが、本作はとにかく犬と自然が美しい。ラッシーなどこれが映画撮影だと理解して完璧な演技をこなしているようにしか見えない。アメリカ国立フィルム登録簿選定作品。確かに不世出の犬には違いない。
3月23日(木)
クラレンス・ブラウン『仔鹿物語』(アメリカ'47)*128mins, Technicolor
・フロリダ州で小作農を営むグレゴリー・ペック一家がひょんなことから仔鹿を飼うことになり、一人息子の少年が可愛がるが、やがて1歳に育った鹿は新芽を荒らすようになる。柵をして森に放しても柵を飛び越えてきりもない。結局仔鹿を少年みずから射殺することになるが、そのまま少年は家出してカヌーで川下り途中転覆し郵便船に救出される。『名犬ラッシー~家路~』と次の『赤い子馬』を足して割ったような話だが、少年役クロード・ジャーマンJr.がジャン=ピエール・レオ(『大人は判ってくれない』)に匹敵する天才子役演技で圧倒的な説得力がある。原題『The Yearling』は仔鹿を指すばかりでなく少年の精神的成長を指しているのがわかる。シンプルなプロットとストーリーに父親、母親(ジェーン・ワイマン)、一人息子だけの登場人物で2時間を越える長尺を飽きさせず緊張感が持続するのも焦点が定まっているからで、所どころハッとするような鋭いカットがあり、小作農一家の生活を丁寧に描いてリアリティがあるから仔鹿を飼うことになる経緯も少年自身が射殺せざるを得なくなる事態も作り話めいたそらぞらしさがない。グレタ・ガルボ映画で名を上げたブラウンだが、一連のガルボ主演作も安定した実力を誇っていただけあり、本作は正攻法の名作と言える出来。『名犬ラッシー~家路~』や『赤い子馬』など類似作が多いので割を喰っているのではないか。
3月24日(金)
ルイス・マイルストン『赤い子馬』(アメリカ'49)*89mins, Technicolor
・原作者のジョン・スタインベックがシナリオも担当(連作小説の第1部より)。スタインベックといえばフォークナー、ヘミングウェイに並ぶスター作家でノーベル文学賞作家だが一流作家とは言えず、最高傑作『怒りの葡萄』もジョン・フォードの映画化がなければ忘れてもいい程度の作品ではないか。この作品は一人息子、夫婦、祖父(妻の父)、雇われカウボーイ(ロバート・ミッチャム)という小農園で『仔鹿物語』より豊かな家庭。『仔鹿~』の少年は家業を手伝っているが本作の少年は学校に通っている。アクシデントで飼うことになった『仔鹿~』と違って本作では子馬は少年へのプレゼントで、カウボーイに教えられて世話をしたり怪我の世話をしたりするが、逃げ出して死んでしまう。少年役の子役(ピーター・マイルズ)も夫婦仲のぎこちない両親(シェパード・ストラドリック、マーナ・ロイ)、娘婿に嫌われている祖父(ルイス・カルハーン)など俳優も悪くないし好演なのだが、同じスタインベック原作・マイルストン監督の『廿日鼠と人間』'39ほど成功していない。あまり仲の良くない家庭の中の少年と寡黙なカウボーイの子馬を仲立ちにした友情の行方を描きたいとしても子馬を愛する少年の純情を描きたいとしても中途半端だし(学校で子馬を自慢して見え透いた嘘までつくのは現実的ではあるにせよ共感できない)、すっきりしない家庭不和のエピソードは物語に厚みを与えているというよりも印象を散漫にしている。マイルストンもサイレント時代からのヴェテランだが、88分の『名犬ラッシー~家路~』はもちろん『仔鹿物語』の128分の充実と較べると『赤い子馬』は89分でも冗長に感じる。
3月25日(土)
マーヴィン・ルロイ『若草物語』(アメリカ'49)*122mins, Technicolor
・この話は原作も映画(キャサリン・ヘップバーン主演でジョージ・キューカー監督の'33年版もある)も苦手で、4人姉妹のキャラクターに魅力をまったく感じない上に区別がぜんぜんつかない。4人姉妹というより4つ子の姉妹が別々の役割を演じているだけ、という気がする。父が南北戦争出征中の、母と4人姉妹のホームドラマ。次女ジョー(ジューン・アリソン)はお転婆で作家志望、長女メグ(ジャネット・リー)はおっとりした家庭的な性格、三女エイミー(エリザベス・テイラー)はプライドの高い現実家で絵が上手、四女ベス(マーガレット・オブライエン)は音楽好きで優しい病弱な娘。やがて隣家の気難しい富豪が純真なベスによって家族ぐるみの交際になり、その孫ローリーはジョーに恋するが新進作家になっていたジョーは振り切ってニューヨークへ上京。同じ下宿で教養人のベア教授はジョーの怪奇小説を一蹴、本当に書きたいことを書くべきと勧める。やがて一家が不幸に見まわれ、ジョーは本当に書きたいことを見つけるのだった。うーん、つまらないことは決してないし、ルロイの映画だけあって手堅いのだが、2時間に治めるにはごたごたしているし、かといって2時間半や3時間ではかなわないし、似たような話で2時間45分の『君去りし後』'44(ジョン・クロムウェル)は良かったけどあれはお母さんがヒロインだった。『赤い子馬』ほど散漫ではないが『若草物語』の4人姉妹は4人じゃなくてもいいんじゃないかと何だかすっきりしない不満を抱かせる。