こういうことがたびたび起こるから定期的な測量が大切なのだ、とヘムル署長は主張しました。しかし谷には測量を学んだ者がいない。だから以前にも測量士を谷の外から呼んだことが数回あるし、今も到着を待っている最中だ。なのに依頼した測量士がどいつもこいつも一向にやってこないのはどうしたことだろうか。仕事の前から報酬を踏み倒されるとでも思っているのだろうか。けしからん。
それはこういうことじゃないでしょうか、とボコボコにされたばかりでふらつきながらスノークが口を挟みました。もしヘムル署長が谷と外界との境い目近くにいます。すると谷の外からやって来た他所者がムーミン谷に入りこもうとしているのが見えました。さて、署長はいかがなされますか?
決まっとる、とヘムル署長。谷の外から入りこむ他所者はそこら辺の衆を集めてボコボコにして追い返すのだ。それがムーミン谷の掟だからな。だからどうした?
もしそれが、とスノーク、谷の依頼した測量士だったらどうします?
掟に例外はない、とヘムル署長。測量士だろうとイワシの頭だろうと追い返す。なぜならここはムーミン谷だからな。どんな者にもムーミン谷の掟は守らねばならん。
私が思うに、とジャコウネズミ博士、もちろん私はペシミストだーらその任に堪えないが、ムーミン谷に市長を置くというのはどうかな。つまり超法規的役職はすべて市長に一任し、測量士との交渉は丸投げにすればよい。
市長って君、とヘムレンさん、ここは谷だよ(では谷長だ、とジャコウネズミ博士)、いやそうではなく、君の提案通りにしても、いったい誰がどうすればその超法規的役職が務まるというのかね?
まず最初の谷長に旗を持たせる。
最初の谷長?
次に谷の外郭に沿って円周状に東西南北から旗を振る谷長を観察する。旗の見えるギリギリの距離に第2、第3の谷長を置いて彼らにも旗を持たせる。彼らの旗が見える限界まで離してさらに谷長を置き、最終的に谷の外郭をぐるりと谷長たちが囲むまで市長の数を揃える。
ほお。
これでムーミン谷はほぼ完全に谷長たちによって外来者から守られることができる。
それは壮大な、とムーミンパパ。しかしそれではムーミン谷が官費で財政破綻しやしませんかな?それよりもまず測量士を招いて、ムーミン谷の地形的な面から国防策を検討するのはどうですかね?
その測量士たちが一人も来やせんのだ。これでは始まらんではないか。
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新・偽ムーミン谷のレストラン(53)
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