点呼は済んだ、とムーミンパパは一服しようとふところのパイプを探りました。しかしムーミン谷にこんな所があるとはな。北東と北西に山、南東に無邊の平原、南西に海、中央には川と大体の地勢は構えた谷だが、生まれ育ってこの歳まで知らない場所がまだあろうとは思わなかったぞ。百聞は一見に如かずとは昔の人はよく言ったものだ。
私もです、とスノーク、ただしその格言は使い方が違うと思いますが。こんな所は地図にもありませんし、ムーミン谷の大きさならば誰かがとっくに見つけていたはずです。地図の改訂版が必要だ。どの辺ですかここは?
唐突でわからん、とヘムル署長。さっきまでいたのが30年前の先代ムーミンパパの屋敷だからその庭先なのかもしれん。なぜか全員こんなものを持っているということは、これからこれで遊ばねばならんのだろう。そのことの方がよほど不思議だが、多分何かのイヴェントが発生して、これを済ませなければ先には行けない仕組みになっているとしか思えない。子どもたちは勝手に始めているから、幸い大人は見ているだけでも良さそうだ。
ムーミン谷の子どもたちが大騒ぎして始めていたのは凧上げでした。河原にはびゅーびゅー手頃な風が吹いていました。ムーミンパパはふところからお目当てのパイプを探していましたが、出てきたのはキセルでした。納得いかないものはありましたが、人ならぬトロールであってもそこにあるもので納得しなければならないことは多々あります。ムーミンパパは凧上げしている子どもたちの他にもしゃがんで小石を積んでいる子どもがあちこちにいるのに気づきました。凧上げは正月だからとして、とムーミンパパ、あの子どもたちは?
そういう河原だってことでしょうよ、とスティンキー。てえことは、ここはムーミン谷でありながらこの世のムーミン谷ではないのかもしれませんね。小石積みをしている子どもたちは、どこか姿が透けて見えやしませんか。
向こうにしてみれば、われわれの方が透けて見えているかもしれんがね、とヘムレンさん。これは結構危険な状況かもしれん、とジャコウネズミ博士。のんびり見ていないでせっせと凧上げしなければ、われわれもこの河原から抜け出せなくなるかもしれないぞ。
地図にするにはデータ不足ですが事情が事情では仕方ないですね、とスノーク、ところでニョロニョロはどうします?
余計なことを、とスノークは皆にボコボコにされました。
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新・偽ムーミン谷のレストラン(52)
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