●10月1日(土)
ヴィクター・フレミング『風と共に去りぬ』(アメリカ'39)
・3時間43分通して観たのは初めて。アメリカ占領下という特殊条件で公開された日本は例外として、名作という評価はアメリカ国内だけだろう。日本の少女マンガへの絶大な影響が今なお続くのは大したもの。
●10月2日(日)
溝口健二『殘菊物語』(松竹下加茂'39)
・2時間半が瞬く間。好みでは僅差で『愛怨峽』だが、戦後作にはないこの時期ならではの抒情性があって甘美きわまりない。
ジョン・フォード『若き日のリンカン』(アメリカ'39)
・前半で牧歌的伝記映画と見せかけて、後半弁護士時代のリンカーンを主人公にした法廷本格推理ドラマになる展開の妙。
●10月3日(月)
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『リオ・ダス・モルテス』(西ドイツ'70)
・冒頭から登場人物がパールズ・ビフォア・スワインのLPを聴いている。男2人に女1人のぶらぶらした生活、これは『女は女である』『突然炎のごとく』と並んで『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の元ネタでしょう。
アルフレッド・ヒッチコック『三十九夜』(イギリス'35)
・ヒッチコック映画らしい大胆なご都合主義の連発にほぼ満点の成果を上げたが、まだ一家の風格には至らずの観あり。
ジャン・エプスタン『二重の愛』(フランス'25)
・別れた男女の再会メロドラマでフランス上流階級はさすがに愛は金で解決する。社交文化の洗練の見本のようなもの。
●10月4日(火)
イングマール・ベルイマン『狼の時刻』(スウェーデン'68)
・この時期のベルイマンは本作、『恥』『情熱の島』と明らかに歪んでいる。この3作、地方局放映が頻繁だったのも不思議。
ジャック・タチ『のんき大将 脱線の巻』(フランス'46)
・ゴダールいわく本作はフランス映画で『無防備都市』に相当するそうだが、ゴダールやトリュフォーの批評は鵜呑みにできない実例。
フレッド・ジンネマン『真昼の決闘』(アメリカ'52)
・戦後映画を感じさせるならジャック・タチの喜劇などより西部劇を解体した本作の方がよっぽど偉くスリリング。看過できない。
●10月5日(水)
マーヴィン・ルロイ『犯罪王リコ』(アメリカ'30)
・ギャング映画ブームを作った大ヒット作。原題"Little Caesar"(同名小説より)で、アル・カポネ始め複数のギャングがモデル。
ウィリアム・A・ウェルマン『民衆の敵』(アメリカ'31)
・『犯罪王リコ』はE・G・ロビンソン主演、本作はジェームズ・キャグニー主演。上出来だが、貫禄でロビンソンの勝ちか。
ハワード・ホークス『暗黒街の顔役』(アメリカ'32)
・1930年完成していたものの過激描写で2年お蔵入りになっていた。『犯罪王リコ』『民衆の敵』とは格が違う。冒頭の横移動のワンシーン・ワンカットは溝口健二『祇園の姉妹』1936そっくり。ゴダール選アメリカ映画ベスト10の1位。この評価には異論はないです。
D・W・グリフィス『ピッグ・アレイの銃士たち』(アメリカ'12)
・アメリカ初(つまり世界初)のストリート・ギャングを描いた映画という。18分の短編で簡単な筋ながらスラム街ロケの映像の密度の高さったらない。
●10月6日(木)
ジョセフ・ロージー『緑色の髪の少年』(アメリカ'48)
・主題歌の名曲"Nature Boy"にやられる。主題歌が満点なら映画は65点くらいだが、これが監督デビュー作なのには痺れる。そしてロージーも放浪の映画監督になるのだった。
小津安二郎『お早よう』(松竹蒲田'59)
・前作『彼岸花』よりだいぶ持ち直した。小津映画を観るとこんな世知辛い国には住みたくないとつくづく思わせられる。
ジガ・ヴェルトフ『カメラを持った男(2002年BFI修復版)』(ソヴィエト'29)
・プロ俳優なし、シナリオなし、字幕なし。このヤケクソに近い怒涛のモンタージュ攻撃は編集が一番大変だっただろう。
●10月7日(金)
アンソニー・マン『ウィンチェスター銃'73』(アメリカ'50)
・職人監督どころではない。旧来の西部劇を無碍にせず確実に新しく、簡潔なスタイルを確立している。名匠の腕前。
ヘンリー・ハサウェイ『ベンガルの槍騎兵』(アメリカ'35)
・軍隊ものとして過不足ない。そのそつなさが印象を稀薄にしているが、ゲーリー・クーパーも好演だし異国の雰囲気も出ている。
ウィリアム・A・ウェルマン『牛泥棒』(アメリカ'42)
・西部劇ながら小村に起きる余所者へのリンチを題材にした異色の伝説的名作。密室的なシチュエーションの一種の恐怖映画でもある。これが戦時中に作られたのも異様。
●10月8日(土)
ジャン=リュック・ゴダール『ありきたりの映画』(フランス'68)
・テーマとしては前年の『中国女』の続き、手法は前作『彼女について私が知っている二、三の事柄』の応用。出来は過渡期的。
ジョセフ・L・マンキーウィッツ『イヴの総て』(アメリカ'50)
・これも結構ゴダールが持ち上げる作品だが、芸能界裏話の暴露譚のようでいてさりげなくテーマは売春、手法はメタ映画になっているのがポイントだろう。
アルフレッド・ヒッチコック『汚名』(アメリカ'46)
・これも本質的なテーマは売春と思うと背徳的な主題をさらりとエンターテインメントにしているのがうすら寒い。
●10月9日(日)
ルイス・マイルストン『西部戦線異常なし』(アメリカ'30)
・昔吹き替えで観た。まるまる2時間は長いが、重量感はある。1930年にはドイツ側の第1次大戦の戦禍を描く余裕があった。
ビリー・ワイルダー『深夜の告白』(アメリカ'44)
・不倫計画保険金殺人ものの古典。言われるほどバーバラ・スタンウィックが危険な悪女に見えない。E・G・ロビンソンは探偵役だが主演カップルを喰う貫禄の名演。
ジョン・フォード『荒野の決闘』(アメリカ'46)
・いつも途中で止め、しばらくしてから続きという案配で、一気に観るのは初めてかも。エピソードがうまく絡んでいない印象で、フォードにしてはごたごたした出来に見える。
●10月10日(月)
マイケル・カーティス『カサブランカ』(アメリカ'42)
・何度観たことか、この映画のボガートとバーグマンはいかさないのが一番の難点だろう。名場面が役者に合っていない。
アーチー・L・メイヨー『マルクス捕物帖』(アメリカ'46)
・現代『カサブランカの夜』で、かなり早い時期の『カサブランカ』のパロディかと思いきや舞台以外全然関係ないのがいい。マルクス兄弟映画引退記念作品としては後期の凡作より力作になっている。
ジョン・スタージェス『ガンヒルの決斗』(アメリカ'59)
・カーク・ダグラスとアンソニー・クインの対決。全然西部劇らしくない陰気なキャスティングが陰気な西部劇づくりには上手くいった。いわゆる決闘ものでは斬新で面白かったです。
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映画日記2016年10月1日~10日
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