ファー・イースト・ファミリー・バンド - ニッポンジン (日本コロムビア/ムー・ランド, 1976) : https://www.youtube.com/playlist?list=PL8a8cutYP7fpPRrMMzyeskUL5Oo7dc4G_
Recorded at NIPPON COLUMBIA MAIN STUDIO, March-May, 1975
Released by 日本コロムビア/ムー・ランド LQ-7013-M, August 25, 1976
Originally Released by Vertigo Germany 6370850/Vertigo Italy 6370850, 1975 as "Nipponjin - Join Our Mental Phase Sound"
Produced by Fumio Miyashita
Mixed by Klaus Schulze
Words & Music by Fumio Miyashita, Akira Ito, Hirohito Fukushima & J.M.Burkard
(Side A)
A1. Nipponjin - 16:51
A2. The Cave - 8:37
(Side B)
B1. Undiscovered Northern Land - 2:54
B2. Timeless - 4:26
B3. The God Of Water - 2:06 *no links
B4. River Of Soul - 8:28
B5. The God Of Wind - 2:33 *no links
B6. Movin' Lookin' - 1:39 *no links
B7. Yamato - 0:48 *no links
B8. Mystery Of Northern Space - 5:57
[ ファー・イースト・ファミリー・バンド Far East Family Band ]
宮下文夫 Fumio Miyashita - Vocals, Guitar, Keyboards
伊藤明 Akira Ito - Keyboards, Vocal
高橋正則 Masanori Takahashi - Keyboards
福島博人 Hirohito Fukushima - Guitar
深草彰 Akira Fukakusa - Bass, Percussion
高崎静夫 Shizuo Takasaki - Drums
ファー・イースト・ファミリー・バンドは以前に取り上げたコスモス・ファクトリー、四人囃子とともに、70年代の日本のプログレッシヴ・ロックの代表的バンドとされています。海外では早くからアルバムがリリースされていることでも知名度があり(西ドイツとイタリアのVertigoレーベル)、海外進出では先んじていたサディスティック・ミカ・バンドはフランスのゴングのようなプログレッシヴ・スペース・ロックのバンドとして評判をとったので、ミカ・バンド、さらに四人囃子と近いバンドとしてプログレッシヴ・ハードロック的なカルメン・マキ&OZを加えると、以上5バンドの全アルバムは以下の通りになります。
●サディスティック・ミカ・バンド
・サディスティック・ミカ・バンド (1973.5.5)
・黒船 (1974.11.5)
・HOT MENU (1975.11.5)
・ライヴ・イン・ロンドン (1976.7.5)
●ファー・イースト・ファミリー・バンド
・日本人 (前身バンド・ファーラウト名義) (1973.3.25)
・地球空洞説 (1975.8.25)
・多元宇宙の旅 PARALLEL WORLD (1976.3.25)
・ニッポンジン (1976.8.25)
・天空人 (1977.11.25)
●コスモス・ファクトリー
・トランシルヴァニアの古城 (1973.10.21)
・謎のコスモス号 (1975.8.5)
・Black Hole (1976.8.5)
・嵐の乱反射 (1977.7.5)
●四人囃子
・ある青春~二十歳の原点 (サントラ) (1973.10.25)
・一触即発 (1974.6)
・ゴールデン・ピクニックス(1976.4.21)
・PRINTED JELLY (1977.10.25)
・'73四人囃子 ('73 幻ライヴ-俳優座ロック・コンサートより) (1978.1.25)
・包 (bao) (1978.7.25)
・NEO-N (1979.11.28)
●カルメン・マキ&OZ
・カルメン・マキ&OZ (1975.1.21)
・閉ざされた町 (1976.6.10)
・III (1977.12.1)
・ライヴ (1978.8.1)
作品数の少なさからも70年代の日本の純ロック・バンドの商業的苦闘がしのばれます。ファーラウトの唯一のアルバムはミカ・バンドのデビュー作よりも先に出ていますが、ファーラウトの活動は1970年にさかのぼり遅れたデビュー&ラスト作になりました。コスモス、囃子ともどもデビュー作と2作目に2年のブランクがあり、ファーラウト~ファー・イーストへの移行がそのブランクに当たります。ファーラウトとファー・イーストには一貫性がありますが、専任キーボード奏者2名を迎えヴォーカルでリーダーの宮下もキーボードまたはギターで分厚いアンサンブルを実現しているのが、ヘヴィなギター・トリオ編成だったファーラウトからスケールを拡大しています。
ところで、このアルバム『ニッポンジン』は日本では1976年8月に発売されましたが、オリジナル・リリースは西ドイツとイタリアのヴァーティゴ・レーベルで1975年に『Nipponjin - Join Our Mental Phase Sound』というタイトルで発売されおり、これは翌年に発売予定の新作に先立つ国際デビュー・アルバム用にファーラウトの『日本人』とファー・イーストの『地球空洞説』から選曲・再録音して1枚のLPに改作したものでした。マルチトラック・テープは西ドイツに送られ、新作のプロデューサーを引き受けた巨匠クラウス・シュルツェのリミックスによって完成し、西ドイツ盤とイタリア盤が発売されたわけです。そしてファー・イースト・ファミリー・バンドは渡英し、ロンドンのマナー・スタジオで1975年11月15日~12月5日にクラウス・シュルツェのプロデュースで2枚組LP相当のヴォリュームを無理矢理1枚のLPに収録した意欲的な大作で自信作『多元宇宙への旅 Parallel World』を録音します。
(Originally Vertigo "Nipponjin" LP Front & Liner Cover)
シュルツェのリミックスがどれほど鮮やかかは、演奏自体が再録音を含むものになるようですが、元になったファーラウト『日本人』とファー・イースト『地球空洞説』がどのようなアルバムかを聴けば具体的にわかります。『日本人』と『地球空洞説』の2in1CD(後者から全11曲中4曲カット)ですが、『ニッポンジン』はA面に『日本人』B面(短縮版)と『地球空洞説』B1、『ニッポンジン』B面は『地球空洞説』A面全8曲を曲順もそのまま生かして収録しています。ご紹介した『ニッポンジン』も『日本人/地球空洞説』のどちらのリンクもインストルメンタルの小曲(主に曲のつなぎになっている)をカットしていますが、『地球空洞説』A8は『ニッポンジン』ではB8に当たるので、A面のクライマックス曲なのか、B面(つまりアルバム全体)のクライマックス曲なのかでアルバム全体の印象も左右されます。
国際デビュー・アルバム『ニッポンジン』には選曲されなかったB2(伊藤明がヴォーカル)、B3の2曲はドラマティックで、A8が長調に対してB3は短調であり、アルバムの締めくくりがA8だと希望に満ちた旅立ち(または到達)の印象を受けますが、B3はコスモス・ファクトリーの佳曲「終わりなき旅」(『謎のコスモス号』クライマックス曲)を思わせます。組曲構成をとったプログレッシヴ・ロックでも、最大の成功作『The Dark Side of The Moon』(ピンク・フロイド)が長調の曲で終わっているように、ビートルズの『Sgt.Pepper's~』や『Abbey Road』、ストーンズの『Beggers Banquet』『Let It Bleed』などアルバム最終曲は長調なのが英米ロックの常識的感覚でしょう。『地球空洞説』のB2~B3の流れは同時代的には臭かったのだろう、という想像もつきます。
ファーラウト - 日本人 (日本コロムビア/DENON, 1973) Full Album / ファー・イースト・ファミリー・バンド - 地球空洞説 (日本コロムビア/ムー・ランド, 1975) : https://youtu.be/4OhhN82dGqQ
ファーラウト - 日本人 (日本コロムビア/DENON, 1973) Full Album
Released by 日本コロムビア/DENON CD-5040, March 25, 1973
Words & Music, Produced By Fumio Miyashita
Arranged by Eiichi Sayu, Fumio Miyashita, Kei Ishikawa
1. (A1) Too Many People - 17:55
2. (B1) 日本人 - 19:52
[ ファーラウト Far Out ]
宮下フミオ Fumio Miyashita - Vocals, Flute [Nihon-bue], Acoustic Guitar, Harmonica, Synthesizer (Moog)
左右栄一 Eiichi Sayu - Lead Guitar, Organ (Hammond), Chorus
石川恵 Kei Ishikawa - Vocals, Bass Guitar, Sitar (Electric)
アライ・マナミ Manami Arai - Drums, Taiko (Nihon-daiko), Chorus
Bonus Tracks : Far East Family Band
ファー・イースト・ファミリー・バンド - 地球空洞説 (日本コロムビア, 1975)
Released by 日本コロムビア CD-7139-M, August 25, 1975
(Side A)
*.(A1) 未知の大陸 Undiscovered Northern Land (Miyashita) - 2:53 *not included
3.(A2) 時代から Birds Flying To The Cave Down To the Earth (Miyashita, Ito) - 4:32
*.(A3) 水神 The God Of Water (Miyashita) - 1:53 *not included
4.(A4) 心山河 Saying To The Land (Miyashita, Ito, Fukushima) - 8:21
*.(A5) 風神 The God Of Wind (Miyashita) - 2:21 *not included
5.(A6) 煙神国 Moving,Looking,Trying,Jumping (Miyashita, Ito, Fukushima) - 1:39
6.(A7) 和・倭 Wa Wa (Miyashita) - 0:48
*.(A8) 北の彼方の神秘 Mystery Of Northern Space (Miyashita, Ito) - 5:55 *not included
(Side B)
7.(B1) 地球空洞説 The Cave, Down To Earth (Miyashita) - 8:17
8.(B2) 喜怒哀楽 Four Minds (Ito) - 5:53
9.(B3) 蘇生 Transmigration (Kazuki Ohmura, Fukushima) - 11:01
[ ファー・イースト・ファミリー・バンド Far East Family Band ]
宮下文夫 Fumio Miyashita - Vocals, Guitar, Keyboards
伊藤明 Akira Ito - Keyboards, Vocal
高橋正則 Masanori Takahashi - Keyboards
福島博人 Hirohito Fukushima - Guitar
深草彰 Akira Fukakusa - Bass, Percussion
高崎静夫 Shizuo Takasaki - Drums
(Original Vertigo "Nipponjin" LP Incert Two Side Printed Lylic Sheet)
同じ楽曲でアレンジや演奏もほぼ同じ(歌詞は英語詞に差し替え)ながらも、クラウス・シュルツェのリミックスによる『ニッポンジン』ではオリジナルの『日本人』『地球空洞説』よりも深いエコーがかかって、全体的にもやに包まれたようなサウンドに聴こえます。オリジナルの方がダイナミックで起伏に富んだサウンドなので、『日本人』『地球空洞説』を聴いているリスナーには改悪と取れるかもしれません。シュルツェはロック畑出身の電子音楽の巨匠なので、自身のアルバムのようにあえて通常のロック・バンドの楽器編成を感じられないミックスにしたとも思えます。
しかしシュルツェはムーグ・シンセサイザー使用前からオルガンやチェロで電子音楽と同じ特徴を持った音楽を作っていた上、専門楽器はドラムスでした。ファーラウト/ファー・イーストのオリジナルにあるビート感覚よりさらにロック離れしていながら、シュルツェならではのビート解釈でエレクトロニクス・シークェンス音やリヴァーブを施したのが『ニッポンジン』なら、その効果は十分に出ているでしょう。一方、当時のファー・イーストの短いライヴ映像を観ると、アルバムだけではわからない呪術的なステージの様子に意表を突かれます。
Far East Family Band - Undiscoverd Nothern Land~Timeless(Live, 1975 or 1976) : https://youtu.be/_pnj5Hi1PEY
Far East Family Band Live in Los Angeles 1978 : https://youtu.be/kygxX975T5s
(Original West-Germany Vertigo "Nipponjin" LP Side A & B Label)
宮下文夫は1977年にはロサンゼルスに移住、ファー・イーストはクラウス・シュルツェのプロデュースの『多元宇宙への旅』の後に実質的に活動停止してしまい、最終作『天空人』は宮下のソロに近いもので、一般的に評価の低い作品です。ジュリアン・コープの『ジャップロック・サンプラー』では宮下文夫(富実夫)=ファーラウト~ファー・イーストに1章が割かれ、コープ選の日本のロックアルバム・ベスト50では4位に『多元宇宙への旅』(ベスト3は1位フラワー・トラヴェリン・バンド『SATORI』、2位スピード・グルー&シンキ『イヴ 前夜』、3位裸のラリーズ『LIVE '77』、5位はJ・A・シーザー『国境巡礼歌』)、11位に『日本人』、14位に『ニッポンジン』、41位に『地球空洞説』と、フラワー・トラヴェリン・バンド、裸のラリーズと同等の最高の評価を与えられていますが、『天空人』は凡作とされ、日本帰国後に宮下富実夫と改名してからの膨大なヒーリング・ミュージック作品は元メンバーの高橋正則改め喜多郎作品同様、ロックの観点からは評価の対象になりません。
宮下富実夫(1949-2003)は晩年までにはファーラウト/ファー・イーストのCD再発も進んでいたにもかかわらず、ミカ・バンドや四人囃子のように節目ごとに再結成のリクエストに応えることもなく、再評価されたとは言えません。かえって海外ではジュリアン・コープの著作の影響で評価が高まり、ファーラウトとファー・イーストは輸入盤CDの方が入手しやすいほどになりました。『天空人』はポール・ホワイトヘッド(ジェネシス作品で著名)のジャケット画もありますが、シンセサイザーのシークェンス・パターンでメンバー欠員によるリズム・ガイドにした作風が後のエレクトリック・ポップを意図せずにか先取りしており、ジョン・フォックス(ウルトラヴォックス)やデイヴィッド・シルヴィアン(ジャパン)はおそらく聴いていたのではないか、と思える作品です。しかしライヴ映像はまるで1970年前後のピンク・フロイドがニューエイジ・ヒッピーの恰好で現れたようで、とても1977年前後には見えません。宮下富実夫が現存でもおそらくファー・イーストの復活ライヴはあり得なかったでしょう。宮下氏にとっては、ファー・イーストはいわゆるバンドではなかったのかもしれないとライヴ映像を観ると思えてくるのです。
Recorded at NIPPON COLUMBIA MAIN STUDIO, March-May, 1975
Released by 日本コロムビア/ムー・ランド LQ-7013-M, August 25, 1976
Originally Released by Vertigo Germany 6370850/Vertigo Italy 6370850, 1975 as "Nipponjin - Join Our Mental Phase Sound"
Produced by Fumio Miyashita
Mixed by Klaus Schulze
Words & Music by Fumio Miyashita, Akira Ito, Hirohito Fukushima & J.M.Burkard
(Side A)
A1. Nipponjin - 16:51
A2. The Cave - 8:37
(Side B)
B1. Undiscovered Northern Land - 2:54
B2. Timeless - 4:26
B3. The God Of Water - 2:06 *no links
B4. River Of Soul - 8:28
B5. The God Of Wind - 2:33 *no links
B6. Movin' Lookin' - 1:39 *no links
B7. Yamato - 0:48 *no links
B8. Mystery Of Northern Space - 5:57
[ ファー・イースト・ファミリー・バンド Far East Family Band ]
宮下文夫 Fumio Miyashita - Vocals, Guitar, Keyboards
伊藤明 Akira Ito - Keyboards, Vocal
高橋正則 Masanori Takahashi - Keyboards
福島博人 Hirohito Fukushima - Guitar
深草彰 Akira Fukakusa - Bass, Percussion
高崎静夫 Shizuo Takasaki - Drums
ファー・イースト・ファミリー・バンドは以前に取り上げたコスモス・ファクトリー、四人囃子とともに、70年代の日本のプログレッシヴ・ロックの代表的バンドとされています。海外では早くからアルバムがリリースされていることでも知名度があり(西ドイツとイタリアのVertigoレーベル)、海外進出では先んじていたサディスティック・ミカ・バンドはフランスのゴングのようなプログレッシヴ・スペース・ロックのバンドとして評判をとったので、ミカ・バンド、さらに四人囃子と近いバンドとしてプログレッシヴ・ハードロック的なカルメン・マキ&OZを加えると、以上5バンドの全アルバムは以下の通りになります。
●サディスティック・ミカ・バンド
・サディスティック・ミカ・バンド (1973.5.5)
・黒船 (1974.11.5)
・HOT MENU (1975.11.5)
・ライヴ・イン・ロンドン (1976.7.5)
●ファー・イースト・ファミリー・バンド
・日本人 (前身バンド・ファーラウト名義) (1973.3.25)
・地球空洞説 (1975.8.25)
・多元宇宙の旅 PARALLEL WORLD (1976.3.25)
・ニッポンジン (1976.8.25)
・天空人 (1977.11.25)
●コスモス・ファクトリー
・トランシルヴァニアの古城 (1973.10.21)
・謎のコスモス号 (1975.8.5)
・Black Hole (1976.8.5)
・嵐の乱反射 (1977.7.5)
●四人囃子
・ある青春~二十歳の原点 (サントラ) (1973.10.25)
・一触即発 (1974.6)
・ゴールデン・ピクニックス(1976.4.21)
・PRINTED JELLY (1977.10.25)
・'73四人囃子 ('73 幻ライヴ-俳優座ロック・コンサートより) (1978.1.25)
・包 (bao) (1978.7.25)
・NEO-N (1979.11.28)
●カルメン・マキ&OZ
・カルメン・マキ&OZ (1975.1.21)
・閉ざされた町 (1976.6.10)
・III (1977.12.1)
・ライヴ (1978.8.1)
作品数の少なさからも70年代の日本の純ロック・バンドの商業的苦闘がしのばれます。ファーラウトの唯一のアルバムはミカ・バンドのデビュー作よりも先に出ていますが、ファーラウトの活動は1970年にさかのぼり遅れたデビュー&ラスト作になりました。コスモス、囃子ともどもデビュー作と2作目に2年のブランクがあり、ファーラウト~ファー・イーストへの移行がそのブランクに当たります。ファーラウトとファー・イーストには一貫性がありますが、専任キーボード奏者2名を迎えヴォーカルでリーダーの宮下もキーボードまたはギターで分厚いアンサンブルを実現しているのが、ヘヴィなギター・トリオ編成だったファーラウトからスケールを拡大しています。
ところで、このアルバム『ニッポンジン』は日本では1976年8月に発売されましたが、オリジナル・リリースは西ドイツとイタリアのヴァーティゴ・レーベルで1975年に『Nipponjin - Join Our Mental Phase Sound』というタイトルで発売されおり、これは翌年に発売予定の新作に先立つ国際デビュー・アルバム用にファーラウトの『日本人』とファー・イーストの『地球空洞説』から選曲・再録音して1枚のLPに改作したものでした。マルチトラック・テープは西ドイツに送られ、新作のプロデューサーを引き受けた巨匠クラウス・シュルツェのリミックスによって完成し、西ドイツ盤とイタリア盤が発売されたわけです。そしてファー・イースト・ファミリー・バンドは渡英し、ロンドンのマナー・スタジオで1975年11月15日~12月5日にクラウス・シュルツェのプロデュースで2枚組LP相当のヴォリュームを無理矢理1枚のLPに収録した意欲的な大作で自信作『多元宇宙への旅 Parallel World』を録音します。
(Originally Vertigo "Nipponjin" LP Front & Liner Cover)
シュルツェのリミックスがどれほど鮮やかかは、演奏自体が再録音を含むものになるようですが、元になったファーラウト『日本人』とファー・イースト『地球空洞説』がどのようなアルバムかを聴けば具体的にわかります。『日本人』と『地球空洞説』の2in1CD(後者から全11曲中4曲カット)ですが、『ニッポンジン』はA面に『日本人』B面(短縮版)と『地球空洞説』B1、『ニッポンジン』B面は『地球空洞説』A面全8曲を曲順もそのまま生かして収録しています。ご紹介した『ニッポンジン』も『日本人/地球空洞説』のどちらのリンクもインストルメンタルの小曲(主に曲のつなぎになっている)をカットしていますが、『地球空洞説』A8は『ニッポンジン』ではB8に当たるので、A面のクライマックス曲なのか、B面(つまりアルバム全体)のクライマックス曲なのかでアルバム全体の印象も左右されます。
国際デビュー・アルバム『ニッポンジン』には選曲されなかったB2(伊藤明がヴォーカル)、B3の2曲はドラマティックで、A8が長調に対してB3は短調であり、アルバムの締めくくりがA8だと希望に満ちた旅立ち(または到達)の印象を受けますが、B3はコスモス・ファクトリーの佳曲「終わりなき旅」(『謎のコスモス号』クライマックス曲)を思わせます。組曲構成をとったプログレッシヴ・ロックでも、最大の成功作『The Dark Side of The Moon』(ピンク・フロイド)が長調の曲で終わっているように、ビートルズの『Sgt.Pepper's~』や『Abbey Road』、ストーンズの『Beggers Banquet』『Let It Bleed』などアルバム最終曲は長調なのが英米ロックの常識的感覚でしょう。『地球空洞説』のB2~B3の流れは同時代的には臭かったのだろう、という想像もつきます。
ファーラウト - 日本人 (日本コロムビア/DENON, 1973) Full Album / ファー・イースト・ファミリー・バンド - 地球空洞説 (日本コロムビア/ムー・ランド, 1975) : https://youtu.be/4OhhN82dGqQ
ファーラウト - 日本人 (日本コロムビア/DENON, 1973) Full Album
Released by 日本コロムビア/DENON CD-5040, March 25, 1973
Words & Music, Produced By Fumio Miyashita
Arranged by Eiichi Sayu, Fumio Miyashita, Kei Ishikawa
1. (A1) Too Many People - 17:55
2. (B1) 日本人 - 19:52
[ ファーラウト Far Out ]
宮下フミオ Fumio Miyashita - Vocals, Flute [Nihon-bue], Acoustic Guitar, Harmonica, Synthesizer (Moog)
左右栄一 Eiichi Sayu - Lead Guitar, Organ (Hammond), Chorus
石川恵 Kei Ishikawa - Vocals, Bass Guitar, Sitar (Electric)
アライ・マナミ Manami Arai - Drums, Taiko (Nihon-daiko), Chorus
Bonus Tracks : Far East Family Band
ファー・イースト・ファミリー・バンド - 地球空洞説 (日本コロムビア, 1975)
Released by 日本コロムビア CD-7139-M, August 25, 1975
(Side A)
*.(A1) 未知の大陸 Undiscovered Northern Land (Miyashita) - 2:53 *not included
3.(A2) 時代から Birds Flying To The Cave Down To the Earth (Miyashita, Ito) - 4:32
*.(A3) 水神 The God Of Water (Miyashita) - 1:53 *not included
4.(A4) 心山河 Saying To The Land (Miyashita, Ito, Fukushima) - 8:21
*.(A5) 風神 The God Of Wind (Miyashita) - 2:21 *not included
5.(A6) 煙神国 Moving,Looking,Trying,Jumping (Miyashita, Ito, Fukushima) - 1:39
6.(A7) 和・倭 Wa Wa (Miyashita) - 0:48
*.(A8) 北の彼方の神秘 Mystery Of Northern Space (Miyashita, Ito) - 5:55 *not included
(Side B)
7.(B1) 地球空洞説 The Cave, Down To Earth (Miyashita) - 8:17
8.(B2) 喜怒哀楽 Four Minds (Ito) - 5:53
9.(B3) 蘇生 Transmigration (Kazuki Ohmura, Fukushima) - 11:01
[ ファー・イースト・ファミリー・バンド Far East Family Band ]
宮下文夫 Fumio Miyashita - Vocals, Guitar, Keyboards
伊藤明 Akira Ito - Keyboards, Vocal
高橋正則 Masanori Takahashi - Keyboards
福島博人 Hirohito Fukushima - Guitar
深草彰 Akira Fukakusa - Bass, Percussion
高崎静夫 Shizuo Takasaki - Drums
(Original Vertigo "Nipponjin" LP Incert Two Side Printed Lylic Sheet)
同じ楽曲でアレンジや演奏もほぼ同じ(歌詞は英語詞に差し替え)ながらも、クラウス・シュルツェのリミックスによる『ニッポンジン』ではオリジナルの『日本人』『地球空洞説』よりも深いエコーがかかって、全体的にもやに包まれたようなサウンドに聴こえます。オリジナルの方がダイナミックで起伏に富んだサウンドなので、『日本人』『地球空洞説』を聴いているリスナーには改悪と取れるかもしれません。シュルツェはロック畑出身の電子音楽の巨匠なので、自身のアルバムのようにあえて通常のロック・バンドの楽器編成を感じられないミックスにしたとも思えます。
しかしシュルツェはムーグ・シンセサイザー使用前からオルガンやチェロで電子音楽と同じ特徴を持った音楽を作っていた上、専門楽器はドラムスでした。ファーラウト/ファー・イーストのオリジナルにあるビート感覚よりさらにロック離れしていながら、シュルツェならではのビート解釈でエレクトロニクス・シークェンス音やリヴァーブを施したのが『ニッポンジン』なら、その効果は十分に出ているでしょう。一方、当時のファー・イーストの短いライヴ映像を観ると、アルバムだけではわからない呪術的なステージの様子に意表を突かれます。
Far East Family Band - Undiscoverd Nothern Land~Timeless(Live, 1975 or 1976) : https://youtu.be/_pnj5Hi1PEY
Far East Family Band Live in Los Angeles 1978 : https://youtu.be/kygxX975T5s
(Original West-Germany Vertigo "Nipponjin" LP Side A & B Label)
宮下文夫は1977年にはロサンゼルスに移住、ファー・イーストはクラウス・シュルツェのプロデュースの『多元宇宙への旅』の後に実質的に活動停止してしまい、最終作『天空人』は宮下のソロに近いもので、一般的に評価の低い作品です。ジュリアン・コープの『ジャップロック・サンプラー』では宮下文夫(富実夫)=ファーラウト~ファー・イーストに1章が割かれ、コープ選の日本のロックアルバム・ベスト50では4位に『多元宇宙への旅』(ベスト3は1位フラワー・トラヴェリン・バンド『SATORI』、2位スピード・グルー&シンキ『イヴ 前夜』、3位裸のラリーズ『LIVE '77』、5位はJ・A・シーザー『国境巡礼歌』)、11位に『日本人』、14位に『ニッポンジン』、41位に『地球空洞説』と、フラワー・トラヴェリン・バンド、裸のラリーズと同等の最高の評価を与えられていますが、『天空人』は凡作とされ、日本帰国後に宮下富実夫と改名してからの膨大なヒーリング・ミュージック作品は元メンバーの高橋正則改め喜多郎作品同様、ロックの観点からは評価の対象になりません。
宮下富実夫(1949-2003)は晩年までにはファーラウト/ファー・イーストのCD再発も進んでいたにもかかわらず、ミカ・バンドや四人囃子のように節目ごとに再結成のリクエストに応えることもなく、再評価されたとは言えません。かえって海外ではジュリアン・コープの著作の影響で評価が高まり、ファーラウトとファー・イーストは輸入盤CDの方が入手しやすいほどになりました。『天空人』はポール・ホワイトヘッド(ジェネシス作品で著名)のジャケット画もありますが、シンセサイザーのシークェンス・パターンでメンバー欠員によるリズム・ガイドにした作風が後のエレクトリック・ポップを意図せずにか先取りしており、ジョン・フォックス(ウルトラヴォックス)やデイヴィッド・シルヴィアン(ジャパン)はおそらく聴いていたのではないか、と思える作品です。しかしライヴ映像はまるで1970年前後のピンク・フロイドがニューエイジ・ヒッピーの恰好で現れたようで、とても1977年前後には見えません。宮下富実夫が現存でもおそらくファー・イーストの復活ライヴはあり得なかったでしょう。宮下氏にとっては、ファー・イーストはいわゆるバンドではなかったのかもしれないとライヴ映像を観ると思えてくるのです。