Sun Ra - Nothing Is (ESP-Disk, 1966) Full Album : https://youtu.be/Zu3EsS7LRug
Recorded live on tour of New York state colleges in March 1966
Originally Released by ESP-Disk ESP 1045, 1966
All Compositions by Sun Ra
(Tracklist)
1. Sun Ra And His Band From Outer Space - 0:00 (11:18)
2. The Shadow World - 4:30 (11:18)
3. Theme Of The Stargazers - 1:48 (15:48)
4. Outer Spaceways Incorporated - 0:32 (17:37)
5. Next Stop Mars - 0:34 (18:09)
6. Dancing Shadows - 9:45 (18:44)
7. Imagination - 0:41 (28:29)
8. Second Stop Is Jupiter - 1:12 (29:11)
9. Exotic Forest - 9:44 (30:23)
10. Velvet - 7:20 (40:07)
11. Outer Nothingness - 15:43 (47:28)
12. We Travel The Spaceways - 1:30 (1:03:11)
[ Sun Ra and His Arkestra ]
Sun Ra - piano, clavioline
Ali Hassan, Teddy Nance - trombone
Marshall Allen - alto saxophone, flute, piccolo, oboe
John Gilmore - tenor saxophone
Pat Patrick - baritone saxophone, flute
Robert Cummings - bass clarinet
James Jacson - flute, log drums
Ronnie Boykins - bass, tuba
Clifford Jarvis, Roger Blank, Jimmy Johnson - drum
Carl S. Malone, Nimrod Hunt - sun horn, gong
サン・ラ初のフル・ライヴ・アルバムであり(後の発掘ライヴ・アルバムは本作以前の時期に2作ありますが)ライヴの熱狂を完璧にとらえて批評家もリスナーも唸らせた大傑作。200枚あまりを数えるサン・ラのアルバムでもノリノリの演奏、典型的なアーケストラの作風を刻んだ作品として真っ先に代表作に上げられる名盤で、直前のスタジオ盤の名作『The Heliocentric Worlds~』シリーズのような室内楽的でシリアスな難解さではなく、ビッグバンドもバップもフリー・ジャズも呑み込んだ音楽性でストレートに迫ってきます。『The Heliocentric Worlds~』はサン・ラの作品系列ではむしろ異色作で、インテリ白人のレコード購買層を意識したのか意図的に現代音楽的な面を強調したアルバムだったのでしょうが、『Nothing Is』はESPのアーティストたちと合同の大学コンサート・ツアーの一環でニューヨーク州立大学で行われたコンサートからの収録で、メンバーも一気に11~12人(+予備ドラマー2名)に増員しています。1966年春の大学コンサートというと、当時の進学率ならば聴衆はほとんど白人大学生で、小学生の時にエルヴィス・プレスリー登場を目撃し、大学生に進んだ1966年当時にはビートルズやストーンズ、ボブ・ディランやザ・バーズを聴いて育ったロック世代の青年たちだったでしょう。1914年生まれのサン・ラには子どもの代のような聴衆で、しかもサン・ラのような真っ黒けの大編成ジャズなど普段は触れる機会もない青少年たちへの絨毯爆撃のような爆裂演奏を聴かせて大成功したのです。マイルス・デイヴィスがロックバンド編成で白人青少年層に挑戦したのより5年あまり早い時期です。そしておそらく、マイルス以上の支持を集めることに成功しています。
前回までこのアルバムに触れる時は英語版ウィキペディアにしたがって1970年リリース説を採っていました。しかし他の資料を当たると1966年リリースとしているものばかりで、ライヴ収録が1966年3月(後に実は5月と判明。後述)ならESPとしては『The Heliocentric Worlds~』の好評が記憶に新しいうちに発売して当然だったでしょう。英語版ウィキペディアの1970年リリースという方が不自然で、たぶん新装版のプレスのリリース時期と混同したのだと思われます。オリジナル盤LPでは収録曲は以下のようになっていました。
(Original ESP-Disk "Nothing Is" LP Liner Cover)
(Side A) :
A1. Dancing Shadows - 9:50
A2. Imagination - 1:53
A3. Exotic Forest - 9:50
(Side B) :
B1a. Sun Ra and His Band from Outer Space - 1:58
B1b. Shadow World - 13:48
B2a. Theme of the Stargazers - 0:40
B2b. Outer Spaceways Incorporated - 1:42
B2c. Next Stop Mars - 0:38
(Total Time; 39:42)
CD Bonus Track1. Velvet - 7:20
CD Bonus Track2. Outer Nothingness - 15:43
CD Bonus Track3. We Travel the Spaceways - 1:30
1990年の初CD化(ドイツ盤)でCDでは3曲が追加されたものの、オリジナルLPは楽曲が編集短縮され、B面に至っては「Shadow World」以外はほとんど断片的なメドレーにされているのがわかります。確かにこの編集で聴いても大傑作には違いないのですが、未編集の状態ではどんな演奏が繰り広げられていたのかは当然気になるところです。すると、2010年にはESPはバック・カタログのリマスターCDプロジェクトに合わせて、『Nothing Is』の未編集プレオリジナル・マスターを見つけ出してきました。録音後44年ですからESP-Diskとは実に自社音源を大切にしているか、値打ちが出るまで隠し持つ商魂のたくましさがわかります。オリジナルLPでは1966年3月としか記されていなかった収録年月日も実際は1966年5月18日だったのが判明しました。冒頭にバートン・グリーンによるMCがあり、グリーンもESPのアーティストだった白人フリー・ジャズ・ピアニストですが、グリーンと同時にブッキングされた日が66年5月18日以外にはないのです。MarchとMayを取り違えたか、しかも会場は「New York state colleges」と曖昧ではなく、ニューヨーク州ポツダムのセント・ローレンス大学と判明しました。とにかく2010年の完全版を名銘った2枚組CDの曲目を見てみましょう。
(Original ESP-Disk "College Tour Vol.1: The Complete Nothing Is..." CD Front Cover)
"Disc One" (66/5/18 - first set)
1. Burton Greene Introduction - 2:03
2. Sun Ra And HIs Band From Outer Space - 14:02
3. The Shadow World - 4:40
4. Interpolation - 2:18
5. The Satellites Are Spinning - 1:17
6. Advice To Medics - 2:50
7. Velvet - 8:16
8. Space Aura - 10:26
9. The Exotic Forest - 9:43
10. Theme Of The Stargazers - 1:52
11. Outer Spaceways Incorporated - 2:24
12. Dancing Shadows - 9:45
13. Imagination - 0:40
14. The Second Stop Is Jupiter - 1:12
15. Next Stop Mars - 0:41
"Disc Two" (66/5/18 - partial second set and sound check)
1. The Satellites Are Spinning - 9:08
2. Velvet - 7:10
3. Interplanetary Chaos - 4:35
4. Theme Of The Stargazers - 1:30
5. The Second Stop Is Jupiter - 11:16
6. We Travel The Spaceways - 1:42
7. Nothing Is - 6:13
8. It Is Eternal - 12:37
9. State Street - 8:21
10. The Exotic Forest - 4:32
今回はデータばかりで申し訳ありませんが、何しろ今回でサン・ラのアルバム紹介は25回目、取り上げたアルバムは30枚に上ります。デビュー作『Jazz by Sun Ra』1956からまだ10年目にしてこれですが、2年で5~6枚なのは60年代いっぱいまでで、1970年代には恐怖の年間5~6枚時代に突入するのです。筆者は2015年までにリリースされたサン・ラのアルバムはほぼ集めましたが、傑作連発の70年代いっぱいならばまだしもで、80年代以降のアルバムとなると前後関係すら怪しくなります。前回までにご紹介した24回・28枚のアルバムを、このサン・ラ紹介の連載を読んでくださっているかたがたがどれだけ覚えていらっしゃるでしょうか。それで唐突に話を戻すと、2010年の2枚組CD『College Tour Vol.1: The Complete Nothing Is...』はディスク1に『Nothing Is』の基となった1966年5月18日ファースト・セットを未編集・ノーカット版で収録し、ディスク2に同日のセカンド・セットの部分収録とサウンドチェック演奏を選んで収録しています。『College Tour Vol.1』とされているのがまだ何を持っているかわからないESPだけにヤキモキしますが目下ではVol.2のリリースはなく、発売されてみたらVol.2はサン・ラ以外のESPのアーティストだったというのもあり得ます(それがアルバート・アイラーやポール・ブレイ、ニューヨーク・アート・カルテット、ジュセッピ・ローガンなどなら話題沸騰しますが)。
どんぶり勘定のジャズの世界ではクレジットのミスは珍しくありませんが、オリジナルLP『Nothing Is』に収録された5月18日ファースト・セットのテイクではクレジット通りドラマーはクリフォード・ジャーヴィスで、近年のリサーチで当時在団が判明しているロジャー・プランクとジミー・ジャクソンは予備ドラマーとして『The Complete Nothing Is...』のディスク2の数曲に参加しているのみのようです。またアルバムではカール・ニムロッドがサン・ホーン(ホイッスル?)とゴングでクレジットされていますが、リサーチによるとサン・ホーンとゴング担当メンバーはカール・S・マローンとニムロッド・ハントの2人がいたと判明しており、2人いるのにカール・ニムロッドと1名にされてしまったのか、おそらくローディも兼ねたメンバーだったのでマローンとハントのどちらが出てもステージ名はカール・ニムロッドだったというのも考えられます。こうして数え上げていくとアーケストラの謎だらけは行き当たりばったりの適当さに由来する面が多いように思われても仕方がないのですが、システム化した現代の白人ロック/ポップス・ビジネスの基準で当時の黒人ジャズを測るのは見当違いです。
(Original ESP-Disk "Nothing Is" LP Side A & Side B Label)
なぜか今回引いたリンクはオリジナルLPともボーナス・トラックつきCDとも2枚組コンプリート盤とも曲順がシャッフルされているのですが、オリジナルLPのライナー・ノーツには相変わらずのサン・ラの詩以外にも少しは鑑賞の役に立つデータが珍しく記載されています。曲ごとのフィーチャリング・ソロイストの記載がそれです。他のジャズ・アルバムならライナー・ノーツに記載されていて当然なので、今回珍しくサン・ラ・アーケストラのアルバムにそれが載っているのは簡単に言えばサービス精神というか、最近サン・ラ・アーケストラを知ったリスナーにも近づきやすいアルバムにするための配慮なのでしょう。
(Side A) :
A1. Dancing Shadows (John Gilmore/tenor, Sun Ra/piano) - 9:50
A2. Imagination - 1:53
A3. Exotic Forest (Marshall Allen/oboe) - 9:50
(Side B) :
B1a. Sun Ra and His Band from Outer Space (John Gilmore/tenor, Ronnie Boykins/bass, Sun Ra/piano and clavolin) - 1:58
B1b. Shadow World (Pat Patrick/baritone) - 13:48
B2a. Theme of the Stargazers - 0:40
B2b. Outer Spaceways Incorporated - 1:42
B2c. Next Stop Mars - 0:38
これのどこが親切なのか疑わしい程度ですが、フィーチャリング・ソロイストの記載のない曲は逆に言えばアンサンブルのみで成り立っているわけです。「Dancing Shadows」はアルバム『When Sun Comes Out』1963から、「Shadow World」はアルバム『The Magic City』1965初出の曲、「Next Stop Mars」はアルバム『When Angels Speak of Love』1963からの曲ですがほんのさわりだけです。「The Exotic Forest」は1961年の『Bad and Beautiful』収録「Exotic Two」の改作です。オリジナルLPに漏れた曲では「Advice To Medics」は1956年の『Super-Sonic Jazz』より、「Velvet」は1959年の『Jazz in Silhouette』収録曲、「Space Aura」は1960年の『Interstellar Low Ways』からで、「We Travel The Spaceways」は1961年の同題アルバムからで、オリジナルLPの『Nothing Is』を聴くと比較的新しいレパートリーが選ばれていますがノーカット版を聴くと新旧のレパートリーをまんべんなくとり混ぜたライヴ(アレンジは現在のメンバーに合わせたものですが)をやっていたのがわかります。アーケストラも長い歴史を持つバンドですから作風の変遷がありますが、『Nothing Is』は50年代の初期サン・ラから60年代、70年代、80年代、90年代、そしてサン・ラ歿後にマーシャル・アレンが引き継いだ現在までブレのないアーケストラのサウンドの根幹を聴くことができ、サン・ラを聴く最初の1枚に最適のアルバムです。包括的に聴くなら2枚組コンプリート盤ですがバンドの勢いを楽しむならオリジナルLPの選曲通りの復刻CDの方がいいかもしれません。
Recorded live on tour of New York state colleges in March 1966
Originally Released by ESP-Disk ESP 1045, 1966
All Compositions by Sun Ra
(Tracklist)
1. Sun Ra And His Band From Outer Space - 0:00 (11:18)
2. The Shadow World - 4:30 (11:18)
3. Theme Of The Stargazers - 1:48 (15:48)
4. Outer Spaceways Incorporated - 0:32 (17:37)
5. Next Stop Mars - 0:34 (18:09)
6. Dancing Shadows - 9:45 (18:44)
7. Imagination - 0:41 (28:29)
8. Second Stop Is Jupiter - 1:12 (29:11)
9. Exotic Forest - 9:44 (30:23)
10. Velvet - 7:20 (40:07)
11. Outer Nothingness - 15:43 (47:28)
12. We Travel The Spaceways - 1:30 (1:03:11)
[ Sun Ra and His Arkestra ]
Sun Ra - piano, clavioline
Ali Hassan, Teddy Nance - trombone
Marshall Allen - alto saxophone, flute, piccolo, oboe
John Gilmore - tenor saxophone
Pat Patrick - baritone saxophone, flute
Robert Cummings - bass clarinet
James Jacson - flute, log drums
Ronnie Boykins - bass, tuba
Clifford Jarvis, Roger Blank, Jimmy Johnson - drum
Carl S. Malone, Nimrod Hunt - sun horn, gong
サン・ラ初のフル・ライヴ・アルバムであり(後の発掘ライヴ・アルバムは本作以前の時期に2作ありますが)ライヴの熱狂を完璧にとらえて批評家もリスナーも唸らせた大傑作。200枚あまりを数えるサン・ラのアルバムでもノリノリの演奏、典型的なアーケストラの作風を刻んだ作品として真っ先に代表作に上げられる名盤で、直前のスタジオ盤の名作『The Heliocentric Worlds~』シリーズのような室内楽的でシリアスな難解さではなく、ビッグバンドもバップもフリー・ジャズも呑み込んだ音楽性でストレートに迫ってきます。『The Heliocentric Worlds~』はサン・ラの作品系列ではむしろ異色作で、インテリ白人のレコード購買層を意識したのか意図的に現代音楽的な面を強調したアルバムだったのでしょうが、『Nothing Is』はESPのアーティストたちと合同の大学コンサート・ツアーの一環でニューヨーク州立大学で行われたコンサートからの収録で、メンバーも一気に11~12人(+予備ドラマー2名)に増員しています。1966年春の大学コンサートというと、当時の進学率ならば聴衆はほとんど白人大学生で、小学生の時にエルヴィス・プレスリー登場を目撃し、大学生に進んだ1966年当時にはビートルズやストーンズ、ボブ・ディランやザ・バーズを聴いて育ったロック世代の青年たちだったでしょう。1914年生まれのサン・ラには子どもの代のような聴衆で、しかもサン・ラのような真っ黒けの大編成ジャズなど普段は触れる機会もない青少年たちへの絨毯爆撃のような爆裂演奏を聴かせて大成功したのです。マイルス・デイヴィスがロックバンド編成で白人青少年層に挑戦したのより5年あまり早い時期です。そしておそらく、マイルス以上の支持を集めることに成功しています。
前回までこのアルバムに触れる時は英語版ウィキペディアにしたがって1970年リリース説を採っていました。しかし他の資料を当たると1966年リリースとしているものばかりで、ライヴ収録が1966年3月(後に実は5月と判明。後述)ならESPとしては『The Heliocentric Worlds~』の好評が記憶に新しいうちに発売して当然だったでしょう。英語版ウィキペディアの1970年リリースという方が不自然で、たぶん新装版のプレスのリリース時期と混同したのだと思われます。オリジナル盤LPでは収録曲は以下のようになっていました。
(Original ESP-Disk "Nothing Is" LP Liner Cover)
(Side A) :
A1. Dancing Shadows - 9:50
A2. Imagination - 1:53
A3. Exotic Forest - 9:50
(Side B) :
B1a. Sun Ra and His Band from Outer Space - 1:58
B1b. Shadow World - 13:48
B2a. Theme of the Stargazers - 0:40
B2b. Outer Spaceways Incorporated - 1:42
B2c. Next Stop Mars - 0:38
(Total Time; 39:42)
CD Bonus Track1. Velvet - 7:20
CD Bonus Track2. Outer Nothingness - 15:43
CD Bonus Track3. We Travel the Spaceways - 1:30
1990年の初CD化(ドイツ盤)でCDでは3曲が追加されたものの、オリジナルLPは楽曲が編集短縮され、B面に至っては「Shadow World」以外はほとんど断片的なメドレーにされているのがわかります。確かにこの編集で聴いても大傑作には違いないのですが、未編集の状態ではどんな演奏が繰り広げられていたのかは当然気になるところです。すると、2010年にはESPはバック・カタログのリマスターCDプロジェクトに合わせて、『Nothing Is』の未編集プレオリジナル・マスターを見つけ出してきました。録音後44年ですからESP-Diskとは実に自社音源を大切にしているか、値打ちが出るまで隠し持つ商魂のたくましさがわかります。オリジナルLPでは1966年3月としか記されていなかった収録年月日も実際は1966年5月18日だったのが判明しました。冒頭にバートン・グリーンによるMCがあり、グリーンもESPのアーティストだった白人フリー・ジャズ・ピアニストですが、グリーンと同時にブッキングされた日が66年5月18日以外にはないのです。MarchとMayを取り違えたか、しかも会場は「New York state colleges」と曖昧ではなく、ニューヨーク州ポツダムのセント・ローレンス大学と判明しました。とにかく2010年の完全版を名銘った2枚組CDの曲目を見てみましょう。
(Original ESP-Disk "College Tour Vol.1: The Complete Nothing Is..." CD Front Cover)
"Disc One" (66/5/18 - first set)
1. Burton Greene Introduction - 2:03
2. Sun Ra And HIs Band From Outer Space - 14:02
3. The Shadow World - 4:40
4. Interpolation - 2:18
5. The Satellites Are Spinning - 1:17
6. Advice To Medics - 2:50
7. Velvet - 8:16
8. Space Aura - 10:26
9. The Exotic Forest - 9:43
10. Theme Of The Stargazers - 1:52
11. Outer Spaceways Incorporated - 2:24
12. Dancing Shadows - 9:45
13. Imagination - 0:40
14. The Second Stop Is Jupiter - 1:12
15. Next Stop Mars - 0:41
"Disc Two" (66/5/18 - partial second set and sound check)
1. The Satellites Are Spinning - 9:08
2. Velvet - 7:10
3. Interplanetary Chaos - 4:35
4. Theme Of The Stargazers - 1:30
5. The Second Stop Is Jupiter - 11:16
6. We Travel The Spaceways - 1:42
7. Nothing Is - 6:13
8. It Is Eternal - 12:37
9. State Street - 8:21
10. The Exotic Forest - 4:32
今回はデータばかりで申し訳ありませんが、何しろ今回でサン・ラのアルバム紹介は25回目、取り上げたアルバムは30枚に上ります。デビュー作『Jazz by Sun Ra』1956からまだ10年目にしてこれですが、2年で5~6枚なのは60年代いっぱいまでで、1970年代には恐怖の年間5~6枚時代に突入するのです。筆者は2015年までにリリースされたサン・ラのアルバムはほぼ集めましたが、傑作連発の70年代いっぱいならばまだしもで、80年代以降のアルバムとなると前後関係すら怪しくなります。前回までにご紹介した24回・28枚のアルバムを、このサン・ラ紹介の連載を読んでくださっているかたがたがどれだけ覚えていらっしゃるでしょうか。それで唐突に話を戻すと、2010年の2枚組CD『College Tour Vol.1: The Complete Nothing Is...』はディスク1に『Nothing Is』の基となった1966年5月18日ファースト・セットを未編集・ノーカット版で収録し、ディスク2に同日のセカンド・セットの部分収録とサウンドチェック演奏を選んで収録しています。『College Tour Vol.1』とされているのがまだ何を持っているかわからないESPだけにヤキモキしますが目下ではVol.2のリリースはなく、発売されてみたらVol.2はサン・ラ以外のESPのアーティストだったというのもあり得ます(それがアルバート・アイラーやポール・ブレイ、ニューヨーク・アート・カルテット、ジュセッピ・ローガンなどなら話題沸騰しますが)。
どんぶり勘定のジャズの世界ではクレジットのミスは珍しくありませんが、オリジナルLP『Nothing Is』に収録された5月18日ファースト・セットのテイクではクレジット通りドラマーはクリフォード・ジャーヴィスで、近年のリサーチで当時在団が判明しているロジャー・プランクとジミー・ジャクソンは予備ドラマーとして『The Complete Nothing Is...』のディスク2の数曲に参加しているのみのようです。またアルバムではカール・ニムロッドがサン・ホーン(ホイッスル?)とゴングでクレジットされていますが、リサーチによるとサン・ホーンとゴング担当メンバーはカール・S・マローンとニムロッド・ハントの2人がいたと判明しており、2人いるのにカール・ニムロッドと1名にされてしまったのか、おそらくローディも兼ねたメンバーだったのでマローンとハントのどちらが出てもステージ名はカール・ニムロッドだったというのも考えられます。こうして数え上げていくとアーケストラの謎だらけは行き当たりばったりの適当さに由来する面が多いように思われても仕方がないのですが、システム化した現代の白人ロック/ポップス・ビジネスの基準で当時の黒人ジャズを測るのは見当違いです。
(Original ESP-Disk "Nothing Is" LP Side A & Side B Label)
なぜか今回引いたリンクはオリジナルLPともボーナス・トラックつきCDとも2枚組コンプリート盤とも曲順がシャッフルされているのですが、オリジナルLPのライナー・ノーツには相変わらずのサン・ラの詩以外にも少しは鑑賞の役に立つデータが珍しく記載されています。曲ごとのフィーチャリング・ソロイストの記載がそれです。他のジャズ・アルバムならライナー・ノーツに記載されていて当然なので、今回珍しくサン・ラ・アーケストラのアルバムにそれが載っているのは簡単に言えばサービス精神というか、最近サン・ラ・アーケストラを知ったリスナーにも近づきやすいアルバムにするための配慮なのでしょう。
(Side A) :
A1. Dancing Shadows (John Gilmore/tenor, Sun Ra/piano) - 9:50
A2. Imagination - 1:53
A3. Exotic Forest (Marshall Allen/oboe) - 9:50
(Side B) :
B1a. Sun Ra and His Band from Outer Space (John Gilmore/tenor, Ronnie Boykins/bass, Sun Ra/piano and clavolin) - 1:58
B1b. Shadow World (Pat Patrick/baritone) - 13:48
B2a. Theme of the Stargazers - 0:40
B2b. Outer Spaceways Incorporated - 1:42
B2c. Next Stop Mars - 0:38
これのどこが親切なのか疑わしい程度ですが、フィーチャリング・ソロイストの記載のない曲は逆に言えばアンサンブルのみで成り立っているわけです。「Dancing Shadows」はアルバム『When Sun Comes Out』1963から、「Shadow World」はアルバム『The Magic City』1965初出の曲、「Next Stop Mars」はアルバム『When Angels Speak of Love』1963からの曲ですがほんのさわりだけです。「The Exotic Forest」は1961年の『Bad and Beautiful』収録「Exotic Two」の改作です。オリジナルLPに漏れた曲では「Advice To Medics」は1956年の『Super-Sonic Jazz』より、「Velvet」は1959年の『Jazz in Silhouette』収録曲、「Space Aura」は1960年の『Interstellar Low Ways』からで、「We Travel The Spaceways」は1961年の同題アルバムからで、オリジナルLPの『Nothing Is』を聴くと比較的新しいレパートリーが選ばれていますがノーカット版を聴くと新旧のレパートリーをまんべんなくとり混ぜたライヴ(アレンジは現在のメンバーに合わせたものですが)をやっていたのがわかります。アーケストラも長い歴史を持つバンドですから作風の変遷がありますが、『Nothing Is』は50年代の初期サン・ラから60年代、70年代、80年代、90年代、そしてサン・ラ歿後にマーシャル・アレンが引き継いだ現在までブレのないアーケストラのサウンドの根幹を聴くことができ、サン・ラを聴く最初の1枚に最適のアルバムです。包括的に聴くなら2枚組コンプリート盤ですがバンドの勢いを楽しむならオリジナルLPの選曲通りの復刻CDの方がいいかもしれません。