……だとさ、とジャコウネズミ博士は哄笑しました。どこがおかしいかね、と、ヘムレンさん。言うまでもなかろう、いったいムーミン谷とそれがどう関係あるのかね?それはつまり、と博士、私たちは自分の体長すら知らないのだ。夜寝る時にどれほどの身長があるのに朝起きたらどうなっているかも、外に出ればどうなって、帰宅した時にはどうなるのかも実はよくわかっていない。ひょっとしたら私ひとりの体長ですらムーミン谷の長さを超えているのではないかと思える場合すらあるのだ。測量とは基準に基づくものであれば、こんな時、基準に何の意味があろうか。
私もいろんな旅をしてきたが(いや、私たちだな、と冒険家ロッドユールは夫人のソースユールに会釈しました)、結局ここムーミン谷に勝る秘境はないのではなかろうか。旅とはある場所から別の場所に移り続けることでもあり、移動には時間の経過がつきものであるはずだ。だが私たちはいつも出発した時と同じ年齢で帰ってくるように思える。私たちの息子スニフも留守番中に少しも歳をとらないことからもそれがわかる。それともフレドリクソンが私たちに持たせてくれた羅針盤が私たちを欺いているのだろうか。あの発明家がそんなことをするはずはあるまい。……誰だレストランでボールを投げている行儀の悪い子どもは!?
そんなことをするのはやんちゃ小僧のホムサたちかミムラ姉さんが長女・ちびのミイが末子のミムラ姉弟35名のうちの誰か(ただし長姉ミムラと、ボールより小さいミイを除く)に決まっていました。しかし彼らに行儀を良くしていろというのは、行儀の定義を変えでもしないかぎり無理なことです。
そんなことより注文を決めちゃいましょ、と気の良いフィリフヨンカが言いました。さすがの彼女も気弱なトゥーティッキ、いるだけで威圧感を放つモランとの相席では困っていましたが、後から来た叔母のエンマと女友だちのガフサが隣合わせのテーブルに着くと心強くなってきたのです。もっとも隣のテーブルにはトゥーティッキどころではない気の弱さのために誰にも姿の見えなくなってしまった少女ニンニも着席していましたが、見えないのでその存在には誰も気づきません。
せめてメシの時くらいは外してくれませんかね、とスティンキーは右の手首にかかった手錠を眺めてボヤきました。手錠はヘムル署長の左手首に結ばれています。手錠で料理の味は変わるまい?
大違いですよ。
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偽ムーミン谷のレストラン・改(23)
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