アリスは思いつきで口にしただけでしたが、小人たちは一斉にたじろいだようでした。ある者は持っていた道具を落とし、または絶句して喉を詰まらせ、ある者は膝を落とし、または倒れかかりそうになって仲間にやっと支えてもらい、ある者は息を荒くし、またはしゃっくりをこらえ、ある者は音をたてて後ずさりし、または小声で悪態をつき、またはぶつぶつ祈りを捧げ始めたようでした。これだと何だか数が合いませんが、たぶんひとりで何役もこなしているか、同じ反応を数人がタイミングをずらして起こしていたのでしょう。いかにも小人ならありそうなことです。
ところでアリスはなぜそんなことを言い出したかというと、守るより攻めろの精神といいますか、どうせ小人にひどい目にあわされるならなるべく無痛・無傷でどうでもよく済ませたい、との一心からでした。か弱い少女が手足の自由を奪われて、悪知恵より他にどういう抵抗ができるでしょう?(反語)できません、というよりは、アリスの思いつきはどちらかといえば猿知恵の部類でしたが、相手は猿と同等かそれ以下の種族でした。つまりアリスの時代の西洋人には日本人やアフリカ人のようなものです。これは当時のフランス詩人のボードレールも「日本人は猿だそうだ」と書いているくらいですから、相手の水準の知的レヴェルで発想せずには打つ手は拓けないでしょう。ででで、これって窮鼠猫を噛むみたいなものかしら、もう一度アリスは言ってみました。
女体盛りよ、わかんないの?
アリスのだめ押しは小人たちを激しく震撼させました。声に出した反応こそありませんが、これがいわゆるドン引きというやつなのね、と世知にうといアリスですら感知できるほど凍りついたような困惑が、たちまち小人たちをひきつらせ、二の句を継げない状態に追いこんだと思われました。
……わかって言ってるのか?と小人たちのうち、ネゴシエーション・リーダーらしき役割のひとりが震える声でつぶやきました。アリスは強気に、あんた私に訊いてるの、それとも仲間に言ってるの?と追い討ちをかけました。小人は早口で何か言いましたが、おそらくそれは小人仲間たちにだけ通じる周波数帯の言語だったのが思わず出てきてしまったのでしょう。そんなのアリスにはやたらと早口すぎて聞き取りようがありません。
……女体盛りの意味がわかっているのか?と小人がびくびく声で言いました、それをおれたちがやれと?
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新・NAGISAの国のアリス(49)
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