われわれだって盆も正月もない、とジャムおじさんは吐き捨てるように言いました、人はパンのみにて生きるにあらず、さりとてパンなしに生きられずだからだ。私としては盆などは店屋物で済ませ、正月には餅でも食っていれば良いと思うのだが、人間50年も生きれば全歯義歯という老人もおかしくない。餅は危険だから法律で禁止すべきというのも一部の人にとっては正論だろう。パンがないならケーキを食べればいいじゃない、という正論もある。ケーキが常食の家ではそれも通るだろう。年越しそばは毎年緑のたぬきしか食べられないといって、年末だけスーパーの海老天が暴騰価格になるのを恨むのは用意が足りない。安い時に買って冷凍しておけば1か月くらいは持つものだ。私が言いたいのは、ネズミが逃げた船やカナリアが死んだ炭坑に居残る馬鹿はいないし、子どもを懐柔するには食い物を食わせるのがいちばんということだ。私の言いたいことが何だかよくわからない?そんなの私にだってわかるものか!はぁはぁ、いつまで私にばかりしゃべらせるのだ?誰か意見のある者はおらんのか。
くうーん、とめいけんチーズは困惑した鳴き声を上げました。それはパン工場全員の意見を代弁したものでしたし、言葉で言うと角が立つのでめいけんチーズが鳴き声で表すのがひとまず穏便だからです。ジャムおじさんは同意以外を他人に求めませんし、めいけんとはいえ犬の鳴き声などいくらでも解釈、または曲解することができます。仮にジャムおじさんが自分への反抗を鳴き声から聞きとったとしても、めいけんとはいえたかが犬ですから蹴っ飛ばして気を晴らせば良い。少なくとも誰彼かまわず怒りまくって目につくものはみんなぶち壊し、挙げ句に全員がボコボコにされる、もちろんチーズもそれに含まれるならば、先手を打って平身低頭しておいてジャムおじさんの暴発を防げるなら犬の謝罪など安いものでしょう。
相変わらず馬鹿なことをやってやがる、とばいきんまんは監視カメラのモニターでパン工場の様子を観察しながら嘲りました。一方、乳頭に変貌したアンパンマンは、全身拘束同然による極度の無感覚状態から精神に異常をきたしつつありました。もはやアンパンマンは自分の肉体的存在に実体感を持てなくなり、精神だけがエーテルのように浮遊している感覚に陥り始めていたのです。
その頃しょくぱんまんは、まだいちごミルクちゃんとカーセックスしていました。
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魍猟綺譚・夜ノアンパンマン(78)
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