クソったれ!とジャムおじさんは言いました。環状にジャムおじさんを取り囲んで追い詰めたかびるんるんたちは、意表を突かれもしましたし、さらには自分たちが敵対しているものが自分たち以上に下品な存在だったのにショックを受けないではいられませんでした。もっともジャムおじさんはかびるんるんたちの衆目を意識して悪態をついたのではありません。ジャムおじさんは股間に当てていた左手の握りこぶしを胸元にゆっくり上げると、右手のライターに着火しました。左手の握りこぶしから一瞬、青い炎が破裂しました。握りっ屁に火をつけたのです。よしよし、とジャムおじさんはひとり言を言いました、うむうむ。
かびるんるんたちはずっと不可視のままジャムおじさんを監視していましたが、便秘のジャムおじさんが奮闘しながら指でほじくり出す姿や、ついでに前立腺オナニーにふけるのやら、トイレの壁に貼ってある「水を流すのは寝る前だけ」というエコロジーな標語やら、ほじった指をわざわざ嗅いで恍惚の表情を浮かべるジャムおじさんをどこまでばいきんまんに報告すべきか、次第に暗鬱な気分になっていきました。かびるんるんたちの総帥たるばいきんまんも気まぐれなことは組織の長のご多分に洩れず、つまんないことばかり調べてきやがって、と逆切れされないとも限りません。ではばいきんまんはどんな報告を期待しているのかというと、バタコや新発明のパンが焼けたよ、食べると誰でもテストで100点がとれる天才パンだ、というような大ニュースなのでした。
そんなパンを配られでは世の中の偏差値が発狂するではないか、おれさまがぶっつぶしに行くのだ、とばいきんまんは言うでしょう。しかしパンはつぶせても、ジャムおじさんが健在な限りいくらでも新しいパンは焼かれるわけで、根本の解決法はジャムおじさん暗殺計画でしかないことは、ホラーマンには無理でもかびるんるんたちでさえ理解できることでした。ですがそこで発生する問題は、ジャムおじさんを本当に抹殺してしまえば、ばいきんまんにもすることがなくなる、ということでしょう。
つまりばいきんまんにとってジャムおじさんとパン工場は必要悪のようなもので、ごめんで済んだら警察要らないみたいなものでした。それを知ってか知らずにか、ひたすらパン作りに励むジャムおじさんの側では、ばいきんまんの存在を必要とはしていなかったところに最大の不均衡があったのです。
↧
蜜猟奇譚・夜ノアンパンマン(65)
↧