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Channel: 人生は野菜スープ(または毎晩午前0時更新の男)
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蜜猟奇譚・夜ノアンパンマン(61)

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 第七章。
  不安な夢から目覚めると、ばいきんまんは自分が一個の巨大な乳頭になっているのに気づきました。普通起きると乳頭になっているなどということはほとんどありませんから、ばいきんまんもこれは悪夢の続きか、何かの冗談かと思いました。冗談だとしたら手がこんだものです。きっと顔面だけ出してポリウレタン製の着ぐるみでも着せられているのだろう、とばいきんまんは思いました。手足はまっすぐ伸ばしたまま動かすことができず、なんとか首を倒すようにしてからだを見ることができるだけです。ですがばいきんまんの部屋は機能的な作りだったので、身だしなみのためにベッドの隣りに全身鏡が立ててありました。
 筒のような乳頭になっていても寝返りくらいは打てましたから、ばいきんまんは全身鏡に映った自分の姿を見た時も、それまでの観察と感触でだいたい予想はついていたので、それほど慌てることはありませんでした。
 誰がやったのだろう、とばいきんまんは訝しく思いましたが、こんな手のこんだことをできるのは実行犯はともあれ、主犯はドキンちゃんかアンパンマンしか考えられません。ドキンちゃんだとすれば嫌がらせでしょうし、アンパンマンならば悪い冗談です。ですがドキンちゃんならばこんなことは他愛ないいたずらにもならず、アンパンマンならばいきんまんとは実はなあなあの八百長試合の仲ですから、やはり大したことではありませんでした。
 ばいきんまんはベッドから床に落ち、部屋のいちばん隅まで転がっていくと、かあーッと全身のばいきん力をたぎらせました。これはばいきんまんの必殺技で、消耗も激しい究極の業なのですが、辺りかまわず周囲を汚染する大業です。当然距離が近いほど効果があるので接近戦で迎撃するのに向いており、乳頭の着ぐるみなどは、一瞬にしてばいきん効果で削ぎ落とされてしまいました。
 これでよし、と場所は全身鏡にいつもの姿が映るのを確認しました。ですがばいきんまんは勘違いしていたのです。乳頭の姿になっていたばいきんまんは着ぐるみではなく、実際に乳頭そのものでした。それがばいきんまんのばいきん力の発動で、本来の姿に戻ったということに過ぎなかったのです。
 その可能性に気づき、悪寒のような気味悪さを感じるとともに、ばいきんまんは悪夢から覚めました。何て夢だろう、しかしそう悪くも感じず、これは使えるかもしれないぞ、とひそかに企みすらしていました。



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