Recorded at Inner Space Studio, October 1977
Released; EMI-Harvest 1C 066-32 715 / Lightning Records, UK / Peters International, Inc., US, July 1978
(Side A)
1. Serpentine (instrumental) (Liebezeit/Karoli/Schmidt/Gee/Kwaku Baah) - 4:03
2. Pauper's Daughter and I (word/melody by Gee) (Gee) - 5:57
3. November (instrumental) (Liebezeit/Karoli/Schmidt/Gee/Kwaku Baah) 7:37
(Side B)
1. Seven Days Awake (instrumental) (Liebezeit/Karoli/Schmidt/Gee/Kwaku Baah) - 5:12
2. Give Me No "Roses" (word/melody by Gee) (Gee) - 5:21
3. Like INOBE GOD (word/melody by Kwaku Baah) (Liebezeit/Karoli/Schmidt/Gee/Kwaku Baah) - 5:51
4. One More Day (instrumental) (Liebezeit/Karoli/Schmidt/Gee/Kwaku Baah) - 1:37
[ Personnel ]
Rebop Kwaku Baah - Vocal, Polymoog Synth, Percussion
Michael Karoli - Guitars, Violin
Irmin Schmidt - Keyboards
Rosko Gee - Bass, Electric Piano, Vocal
Jaki Liebezeit - Drums
多くの評者がカンのワースト1に上げるこのアルバムでは、ヴォーカル曲3曲中、ロスコー・ジー単独曲のA2, B2、リーバップが歌うB3と、ついにドイツ人創立メンバーのヴォーカル曲がなくなった。その3曲はロスコーとリーバップが在籍していたワールド・ミュージック指向の後期トラフィックの作風をそのまま継いだもので、ロスコーのベースがよく歌い、リーバップのパーカッションもにぎやかで、『Landed』1975以降の本格的に国際進出した後のカンではヤキのドラムスが明らかに抑制されていたが、前作『Saw Delight』1977でようやく再び目立つ扱いになった。それはベースのホルガー・シューカイがサウンド・エフェクトとエディット、リミックスとプロデュースに専念するためプレイヤーを辞任してロスコーとリーバップが加入したからでもあった。
だが今回はついにホルガーはまったく関与しないアルバムになった。ヴァージン・レーベルからの国際配給も契約更新されず、英米仏などではもっと小さなインディーズからの発売になった。そんな状態ではろくにプロモートもされず、当然セールスも低迷する。カン解散後にマネジメントと元メンバーが経営するスプーン・レコーズでもこのアルバムの正式な版権を所有しながらも失敗作として長年オフィシャル・バイオグラフィ/ディスコグラフィから削除し(インディーズ発売権が残っていたことからバンド不許可のまま違法ではないCD化はされていたが)、ようやくバンド自身が他の作品同様スプーン・レコーズからリマスター版の正式再発をしたのは2014年になってからだった。それほど創設メンバーたちからも長らく嫌われていたアルバムだった。アナログ時代の再発管理も投げやりで、86年の英サンダーボルト盤などずさんな製版からか背景色がまるで違う。
(Reissued Thunderbolt "Out of Reach" LP Liner Cover)
タイミングというものもあって、もしヴァージン移籍第1作でこのアルバムを物していたら、カンはこのアルバムの通りにアフロ・ファンク・フュージョンのロック・バンドとして再出発できただろう。音楽的にはカンはもともとファンク・バンドだったし、ロスコーとリーバップがいればもちろん、いなければロスコーみたいなベースはホルガーには弾けなかったと思うが、従来の2トラック・レコーディングによる編集作業で虚構のライヴ感みたいなものを作り出してきたのが初期~中期のカンだった。カンがこのアルバムの作風に行きつくならば直前の『Saw Delight』はともかく、『Landed』『Flow Motion』は回り道だった。
(Reissued Thunderbolt "Out of Reach" LP Side1 Label)
そのこともリスナーにも『Out of Reach』の失敗(少なくとも商業的・批評的に失敗した)の原因があるとしたら、一貫して録音・テープ編集監修を兼務して実質的にバンド内プロデューサーとしての働きをしてきたベーシストのホルガー・シューカイの離脱にある、との評判が広がった。まずいのは他のカンのメンバーもアルバムの失敗をホルガーの不在に転嫁してしまったことで、長らくバンド非公認アルバムにしてしまったことが輪をかけた。
(Reissued Thunderbolt "Out of Reach" LP Side2 Label)
たまたまその時求められていたものとはズレた内容の作品だったために不当な評価を受けてしまい、それが定着してしまったというのはどんな分野の作品にもあり、映画ほど予算のかかる分野の場合は制作会社が倒産してしまったりする。カンもこの作品の不評から次作をもって解散を決めたのだから、制作会社の倒産とまではいかないまでもデビュー10年を良い目安にメンバーがソロ活動に移りたい時期ではあった。しかし『Out of Reach』は過小評価にすぎて、後期カンの中ではあまりに見過ごされすぎている。トロピカルな3曲のヴォーカル曲、アフロ・ファンクなフュージョン・インスト曲などこのアルバムならではの良さがある。