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Channel: 人生は野菜スープ(または毎晩午前0時更新の男)
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イカめしはうまいだろうな

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 もう50歳を越えた男が恥ずかしながら白状するが、実はイカめしを食べたことがない。イカは嫌いではなくて、むしろ好きな魚介類に入る。毎日食べたいとは思わないが、干したものも燻製にしたものも、ワタごと煮つけてホクホクに軟らかくなったものも、どれもたいへん美味しいものと思う。
 人類の歴史を考えてみると、イカ漁猟は比較的新しいものと思う。古代人がイカを漁猟できたか、それがどれほど一般的で広く食されてきたかを思うと、イカはそれほど近海にはいないだろう。むしろタコなら泳ぎ慣れた人が素潜りで狩れる程度の近海にいる。食糧難だった敗戦後、当時広島の中学生だった筆者の父は放課後のおやつにモリを持って近場の浜でタコを狩り、刺身でも焼いてもうまかったそうだ。
 おいしかった、というより「うまかった」という方が野趣があって、それは最近この詩を読んでジンときた。作者は小野十三郎、この3ページで全行になる。

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 小野十三郎(1903~1996)は大阪の詩人で、第一詩集は1926年、この「うまかったもの」(詩集書き下ろし)を収めた生前最後の詩集『冥王星にて』は1992年刊と長い詩歴を送った。イカとは関係なくてちょっと無理やりだが(マグロの握りと赤貝の握りは出てくるが)、89歳でこんな瑞々しい詩を書けた人もいたのは、やっぱり「うまかったもの」が与えてくれる喜びは後になって思い出しても続く、ということだろう、と思う。この詩人は70代以降の詩が多産かつ抜群に面白くなったが、特に過去が何重にも重なる詩がうまい。この詩だって複雑な構造なのにすんなり入ってくるのは、題材と技法がばっちり合っているからだろう。馬肉のテキで締める最終連など無技巧の技巧が効いている。牛肉よりも馬肉のテキを食べてみたくなる。
 そこでイカめしだが、こういうのって最初は自分では買わず人から贈られて味を覚えるものだ。今回近所のスーパーの物産展でつい買ってみたのは、たまには珍しいものでお客さまをもてなしてみたいためだが、そういう機会もめったにない。まずおひとりさまだけでは食べませんよ、イカめしなんてもの。うまいかな。うまいだろうなあ。

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