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Channel: 人生は野菜スープ(または毎晩午前0時更新の男)
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蜜猟奇譚・夜ノアンパンマン(29)

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 アンパンマンは、まだジャムおじさんから乱暴に麺棒でめった打ちにされているうちにも、必死でぼくですジャムおじさん、どうしてそんなことをするんですか、ぼくはいったいどうなってしまっているんでしょうか、と訴えていましたが、まだジャムおじさんたちが来る前にひとり言を試して、どうやらしゃべるのは大丈夫みたいだぞ、と考えていたのは楽天的にすぎたことを思い知ることになりました。メタモルフォーゼというのはそんなお手柔らかなものではなく、しゃべられる、という機能さえもすでに乳頭の姿に変わってしまった異常感覚で認知しているのにすぎなかったのです。ジャムおじさんとバタコさんにとってそれは、得体の知れない人体大の乳頭が発するおぞましいうめき声でしかありませんでした。ただめいけんチーズの聴覚だけが、アンパンマンのかつての声紋がかすかに倍音の中に拡散しているのを聴きとるにとどまりました。もし犬がしゃべれたら!しかししゃべれる動物など(物真似ならともかく)誰がペットにするでしょうか。それではプライヴァシーの危機にしかなりません。
 しかしチーズの渾身のミミックでどうやらアンパンマンがベッドから落ちた、それが部屋の床に転がる巨大乳頭だというのが判明すると(なにしろチーズの知能は人間をしのぐものでしたから)、ジャムおじさんとバタコさんにもだんだんうめき声からアンパンマンの言おうとしていることが、逐語的にはわかりませんがニュアンスからは通じてくるような気がしました。それにアンパンマンが自分たちに黙って朝からいなくなっているのはよほどのことで、なるほど乳頭になっていては仕方ない、とかえって納得がいくようでした。
 ジャムおじさんはベッドに近づき、何やら考え深げでした。どうしたんです、とバタコさん。バタコや……いや、これは後でカレーパンマンかしょくぱんまんにでも頼もう。何か思い当たることがあるんですか?うむ、チーズによるとアンパンマンはベッドに寝ていた、転がり落ちた、それがこの姿だという。だとすれば、アンパンマンはいつ乳頭になったのだろうか。ベッドから転落すると乳頭に変化してしまう現象がこの部屋では起きるのだろうか?
 違うんですジャムおじさん、目が醒めたら、とアンパンマンはうめきましたが、さすがにそんな細かい伝達まではチーズにすらも伝わったかどうか怪しく、ジャムおじさんたちもますます首をひねるばかりでした。



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