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Roland Kirk - Domino (Mercury, 1962)

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Roland Kirk - Domino(Mercury, 1962) Full Album
Recorded at NYC, April 17(Side 2-2 to 5) & Chicago, September 6(Side 1, 2-1), 1962
Released; Mercury SR 60748, 1962
(Side 1)
1. Domino (Don Raye, Jacques Plante, Louis Ferrari) : https://youtu.be/1xR9eYHdeAU - 3:16
2. Meeting on Termini's Corner (Roland Kirk) : https://youtu.be/yTvgRpyorWk - 3:41
3. Time (Richie Powell) : https://youtu.be/2U6UmyQyHwU - 3:13
4. Lament (J. J. Johnson) : https://youtu.be/fmxkQ0i9s4M - 3:40
5. A Stritch in Time (Kirk) : https://youtu.be/plbwK281hCQ - 5:06
(Side 2)
1. 3-in-1 Without the Oil (Kirk) : https://youtu.be/SMS0S02v-YY - 2:35
2. Get Out of Town (Cole Porter) : https://youtu.be/dplvNwaH-Uo - 4:49
3. Rolando (Kirk) : https://youtu.be/EuFBmRXU9Tk - 3:47
4. I Believe in You (Frank Loesser) : https://youtu.be/gwcC6ULSgYA - 4:26
5. E.D. (Kirk) : https://youtu.be/2wzOoKFP1wU - 2:36
[ Personnel ]
Roland Kirk - flute, tenor sax, vocals, stritch, manzello, nose flute, siren
Vernon Martin - bass
with
Wynton Kelly - piano
Roy Haynes - drums
(NYC, April 17)
with
Andrew Hill - piano, celeste("Time")
Henry Duncan - drums
(Chicago, September 6)

 盲目のテナーサックス&マルチリード奏者ローランド・カーク(1935~1977)はKingからの『Triple Threat』1956でデビュー、Argoからの第2作『Introducing Roland Kirk』はキング(ジェームス・ブラウンを主力とするR&Bレーベル)から、やはりインディーズとはいえようやくジャズ・レーベルからの発売になり、第3作はニューヨーク進出(キング、アーゴはシカゴのレーベル)をPrestigeの『Kirk's Work』1961で遂げる。ただしオルガン・トリオとの共演で、レーベルからは前2作同様ソウル・ジャズ路線を要請されていたと思われる。カークがようやくメジャー・レーベルと録音契約を結んだのがMercuryで、『We Free Kings』1961~『Gifts & Messages』1964までの6作、さらにマーキュリー傘下のLimelightから『I Talk with the Spirits』1964~大傑作『Rip, Rig and Panic』1965までの3作、同じくマーキュリー傘下のVerveから単発で『Now Please Don't You Cry, Beautiful Edith』1967をリリースし、ここまでがレーベル上はカークの前半生となる。
 後半生はワーナー・ブラザース傘下のAtlanticから単発で『Here Comes the Whistleman』1965発表後、名盤『The Inflated Tear』1967~『Other Folks' Music』1976までアトランティック作品12作、親会社のWarner Bros.に移って『The Return of the 5000 Lb. Man』1976、『Kirkatron』1977、遺作『Boogie-Woogie String Along for Real』1977の3作を残した。76年作の後カークは脳血栓で倒れ、半身不随となり、吸入器や透析機でようやく延命しながら最後の2作を録音した。カークはデビューが早く、強い個性から他のジャズマンのアルバムへの参加も少ない。ほとんどのジャズマンは30代までは先輩ジャズマンのバンドで学ぶことが多いのだが、カークは最初から主役を張るプレイヤーだった。もっとも個性や技術とリーダーシップは別で、カークもマーキュリー時代はアルバムごとにメンバーが組まれたが、本格的な自分のレギュラー・バンドを持つのはアトランティック時代からになった。

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 (Original Mercury "Domino" LP Liner Notes)
 マーキュリー第1作『We Free Kings』はカーク初のメジャー・レーベル作で、巻頭曲「Three For the Festival」は生涯の代表曲のひとつになった。メジャーだけありサイドマンも著名で、ハンク・ジョーンズ・トリオとリチャード・ワイアンズ・トリオがアルバムの半々を受け持つ。曲数もキング盤7曲、アーゴ盤6曲、プレスティッジ盤7曲に較べ、1曲をコンパクトに全9曲にまとめたのはメジャーならではのアルバム作りとは言え、カークのアルバムはカーク以外のメンバーのソロがたまにピアノが少し取るだけ程度なので、曲は短くてもカークのソロ時間はたっぷり取られている。
 マーキュリーは『ドミノ』ではさらにポピュラリティのある、ヒットを狙えるものをカークに要求した。メジャー・レーベルでは音楽的な制約は自由でも「売れるもの」が条件なので、フルートで爆発的な演奏を見せつける1950年のアンドレ・クラヴォのシャンソン曲のカヴァー「Domino」が、ちょうどジョン・コルトレーンが前年「My Favorite Things」1961をヒットさせたような役割を果たした。アンドリュー・ヒル・トリオ6曲、ウィントン・ケリー・トリオ4曲からなるアルバム全体の出来も素晴らしい。ただしいまだにカークの評価が定まらないのは、かつてローランド・カークはコルトレーン、オーネット・コールマン、エリック・ドルフィー、アルバート・アイラーらと並ぶ同時代のトップ・クラスのサックス奏者ではあるが、演奏がキャッチーで商業主義的と見られた。出世作『Domino』の発表もオーネットとドルフィーがレコード契約を失って引退状態に追い込まれ、MCAレーベル傘下にコルトレーンのためのレーベル、インパルスが設立された翌年という、それらの動きに対して『Domino』は60年代ジャズのポップ化の先駆のようにも取られた。カーク自身はオーネットの音楽に親近感を感じ、コルトレーンを尊敬し、さらにアイラーとの資質や志向性の類似は、両者を再評価する上では素通りできない。だが上記のジャズマンと較べると、実際にカークにはシリアスな面とポップでキャッチーな面が同居しており、それは商業主義ではなくカークならではの音楽的アピールであり、エンターテインナーの皮をかぶった煽動家の手口のように思われる。

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 (Original Mercury "Domino" LP Side 1 Label)
 カークはテナーサックスを主要楽器としながら20種類以上の楽器を演奏し、通常のフルート、サックスと同時吹奏する鼻フルート、テナーサックスと同時吹奏可能な改造アルトサックス(ストリッチ)、ソプラノサックス(マンゼロ)の2管・3管同時吹奏などがトレード・マークのようになっているため、少し聴くと知ったつもりになってしまいやすいミュージシャンでもある。オーネット、ドルフィー、アイラーらが積極的な分析拒絶性で際立ち、コルトレーンが激しい分析誘発性を備えているのに対し、革新的な奏者だが個人芸にとどまる一代的な存在としてソニー・ロリンズへの評価と近いかもしれない。稀少楽器の使用例としてカークを上げると本当はすごいことなのに、カークならあるだろう、程度に思われてしまう。カークの録音はデビュー作や晩年作に一部例外的にダビングがあるが、すべて複数楽器同時吹奏録音であり、「Domino」で言えばフルート(テーマ)→マンゼロ(アドリブ・ソロ)→フルート+鼻フルート(アドリブ・ソロ→テーマ変奏)→ホウィッスル(リズム・ブレイク)→マンゼロ+テナー(コーダ)、と、+というのは同時吹奏だから、カーク以外のメンバーのソロはない3分間ノン・ストップで楽器を持ち替えて吹いているのだ。これをポップスのように親しみやすくキャッチーに聴かせてしまうのが、かえってカークを過小評価させることになってしまった。
 アルバムはA面全曲とB1に当たるアンドリュー・ヒル・トリオとの6曲がB2~5のウィントン・ケリー・トリオの4曲より良いと思う。A2はカークのオリジナルでストップ・タイムを多用したテーマはオーネット的だが、マンゼロとテナーの同時吹奏と単管吹奏を自在に行き来するアドリブ・パートはやはり猛烈にスウィンギーになる。故リッチー・パウエルの名曲A3はフルート1本でしみじみと演奏し、ヒルはチェレスタを弾く。A4はJ.J.ジョンソンのオリジナルでモダン・ジャズ・スタンダードといえる名曲だが、原曲通りバラードで演奏したマイルス・デイヴィスのカヴァー(『Miles Ahead』収録)とは違ってミドル・テンポのスウィンガーに解釈し、原曲のメロディーとコード進行の美しさがより際立つ名演になった。原曲にないフックでテナーとマンゼロ同時吹奏が最高の効果を見せ、この曲はヒルのピアノ・ソロもあってこれが絶品だから、アレンジには当時ライヴでレギュラー・バンドにしていたというアンドリュー・ヒル・トリオの貢献が高いと思われる。A5はストリッチ1本で通したワルツ・タイムのカークのオリジナルで、やはりレギュラー・バンドならではのリハーサルなしにはすんなり決まらないだろう。B1もカークのオリジナルで「Three For the Festival」タイプのスウィンガー、ソロはフルートを歌いながら吹いている。

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 (Original Mercury "Domino" LP Side 2 Label)
 ウィントン・ケリー・トリオとは8曲を録音したと1986年のCD化のリサーチで判明しLP未収録の未発表曲4曲を追加してCD化されていたが、200年にはさらに11曲の未発表曲・別テイクのニューヨーク録音が発掘・追加版のCD化がされ、未発表曲・別テイクにはハービー・ハンコックがウィントン・ケリーに替わってピアノを担当しているものまであったことで話題になった。LPにはニューヨーク録音からはケリーとの4曲が採用されたにとどまる。B2,4がスタンダード、B3,5がカークのオリジナルで、未発表曲は「Where Monk and Mingus Live"/"Let's Call This」(Kirk)/(Thelonious Monk)、「I Didn't Know What Time It Was」(Lorenz Hart, Richard Rodgers)、「Someone to Watch Over Me」(G. Gershwin, I. Gershwin)、「When the Sun Comes Out」(Harold Arlen, Ted Koehler)、「Time Races With Emit」(Kirk)、これら未発表曲は別テイクもあるが採用テイクには至らなかったもので、「Termini's Corner」と「Domino」はニューヨーク録音は没になり、シカゴ録音でOKテイクを得た。シカゴ録音は採用テイク6曲以外は残っていないが、半分カークのオリジナル(モンク曲の改作)「Where Monk and Mingus Live"/"Let's Call This」がシカゴ録音で取り上げられなかったのが残念(「Time Races With Emit」は20秒ほどのアドリブ断片)。ニューヨーク録音のスタンダード曲の選曲は未発表曲含めてオーソドックスで、『Domino』はカークのオリジナル5曲、スタンダード2曲、ポップス1曲、ジャズ・オリジナル(A3,4)2曲という比率になったのだが、4月のニューヨーク録音はカークならではの同時吹奏と単管吹奏の自在な芸は発揮されているとはいえ、テーマ→サックス・ソロ→ピアノ・ソロ→テーマ、とフォーマットはごく普通のワンホーン・カルテットのハードバップになっている。ケリーは当時マイルス・クインテットのピアニスト、ロイ・ヘインズはパーカー・クインテット出身でスタン・ゲッツ・カルテットのレギュラー・ドラマーと、演奏は一流だがカークならではの音楽ではない。ベースのヴァーノン・マーティンはカークがレギュラー・バンドから連れてきたメンバーとあって、ハードバップ的な水準のケリーやヘインズの流れには乗らないプレイを見せる。
 先に録音されたB2~5はいわばケリーとヘインズ参加で華を添えたにとどまり、LP時代のA面全曲とB1の6曲、でなければ未発表曲・シカゴ録音と重複する別テイクを含めたニューヨーク録音の全容を含めた『Domino』セッションとして見た方がわかりやすい。もし10インチLP時代だったらすっきりニューヨーク録音で1枚、シカゴ録音で1枚にまとめられただろう。ニューヨーク録音はハードバップ、シカゴ録音はポスト・バップとして12インチLP『Domino』より高い評価をされていたかもしれない。最初からニューヨーク録音とシカゴ録音をほぼ半々でアルバムにするつもりだったのか、4月のニューヨーク録音でアルバムが完成しなかったので(未発表曲を採用すれば曲数としては十分になる)、9月のシカゴ録音で追加・完成させたのか、いずれにせよ9月の録音の方が明らかにカーク自身も、メンバーも完成像をしっかりイメージした演奏になっている、とニューヨーク録音とシカゴ録音の対比からは思わせられる。仮に未発表曲と「Domino」「Termini's Corner」の別テイクを含んだニューヨーク録音だけでまとめられたアルバムでも、『We Free Kings』の水準はクリアした作品にはなった(ハンコック参加テイクを入れても面白かっただろう。マイルス・クインテットでケリーの後任ピアニストになったのがハンコックだった)。だがタイトル曲はやはりシカゴ録音に軍配が上がり、カークの大胆なオリジナル3曲(ニューヨーク録音のオリジナル曲2曲はもっとハードバップ的だった)「Time」「Lament」はシカゴ録音メンバーならではだった。むしろニューヨーク録音は未発表曲を含めてアルバム化してしまい、シカゴ録音だけでフルアルバムを制作すれば良かった。メジャーのマーキュリーだから念入りな制作になったのだろうが、こういう場合はプレスティッジら粗製濫造レーベルの方が制作に融通が利いたかもしれない。

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