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Channel: 人生は野菜スープ(または毎晩午前0時更新の男)
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蜜猟奇譚・夜ノアンパンマン(11)

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 第二章。
 唐突、かつあまりに異常と思える方向に飛躍したジャムおじさんの発言に、どうかしてしまったのではないかとアンパンマンは思いましたが、考えてみればこれまでもジャムおじさんは極端に感情や行動の振幅が激しく、かつまた自分の固執する信念には一点の妥協もない人でした。常識に欠ける面があるのも認めざるを得ません。もし今、ジャムおじさんがどうかしてしまっているなら、これまでのジャムおじさんもずっとどうかした人だったのです。そしてジャムおじさんに否と言うことはアンパンマン自身の存在に否と言うのと変わりはない、と気づくと、好きなようにしてもいいんだよ、しかし命令は絶対じゃ、というジャムおじさんの宣告の絶対性は文字通りの最終通告と甘んじて受け入れないわけにはいきませんでした。そしてアンパンマンの見たところ、しょくぱんまんもどうやら同じようにこの事態を考えているようでした。それを思えば、無茶苦茶な、人権無視の、パンをパンとも思わないジャムおじさんがさらにわけのわからないことを言い出しても今さら何を驚くことがあるでしょうか。
 というよりも、アンパンマンたちがジャムおじさんの突拍子もない意見に途方に暮れたのは、味覚とは栄養摂取の喜びであり満腹感につながるものであって、それがなぜ性感の満足と軽重を問われるのか、と素朴な疑問につまづいたからでした。アンパンマンとしょくぱんまんは思わず同時にカレーパンマンに無言の問いを向けました。自分たちにはさっぱり見当がつかないけれど、カレーパンマンなら何となく味覚と性感の関係に思い当たるのではないか、という心当たりからです。正義を愛する気持はともかく、総菜パンという性格上カレーパンマンは自分たちよりも世慣れているのではないか、とアンパンマンとしょくぱんまんには思えたのでした。しょくぱんまんの親族には、おそらくカレーパンマンより世慣れたサンドイッチマンもいましたが、今ここにいない人物(パンですが)に意見を聞くことはできません。
 カレーパンマンはすぐに仲間たちの事問いたげな視線に気づきましたが、無言の問いに無言で答えるには性感ほど説明困難なものはないだけではなく、カレーパンマンの理解する性感がいったい普遍的な意味で性感と呼べるものなのか、と考えると軽々しく持説を披露するのはためらわれるものがありました。カレーパンマンがこれほど狼狽するのは珍しいことでした。



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