Eric Dolphy & Booker Little Quintet - Eric Dolphy & Booker Little Memorial Album (Prestige, 1964) Full Album
Recorded live at the Five Spot Cafe, NYC, July 16, 1961
Released Prestige PR7334, 1964
(Side A)
A1. Number Eight (Potsa Lotsa) (E.Dolphy) : https://youtu.be/u0EL5d59u_4 - 16:34
(Side B)
B1. Booker's Waltz (B.Little) : https://youtu.be/9jJF9Ej1Kp0 - 14:41
[Personnel]
Eric Dolphy - alto saxophone(A1), bass clarinet(B1)
Booker Little - trumpet
Mal Waldron - piano
Richard Davis - double bass
Ed Blackwell - drums
(Original Prestige "Eric Dolphy & Booker Little Memorial Album" LP Liner Cover)
プレスティッジというマイナー・インディーズも現金なもので、一年半の契約期間でアルバム11枚分のリーダー作を録音させておきながらドルフィーの生前には4枚しか発売しなかった、という話題は前回で俎上に載せた。プレスティッジの次にドルフィーが契約したアラン・ダグラス・プロダクションはアルバム2枚をドルフィー生前未発表に握りつぶした。
次にドルフィーはブルー・ノート・レーベルと契約して、ドルフィー自身の『アウト・トゥ・ランチ』とアンドリュー・ヒルの『離心点』が64年後半に発売されたのだが、ドルフィーは同年6月末には巡業先のドイツで急逝していた。『アウト・トゥ・ランチ』は爆発的な高評価を集め、ニューヨーク進出当初以来のドルフィー再評価が起こった。そこでドルフィーの未発表アルバムがプレスティッジとアラン・ダグラス・プロから64年後半に乱発されることになった。なんだかさもしい話になる。
(Original Prestige "Eric Dolphy & Booker Little Memorial Album" LP Side A Label)
最初の『アット・ザ・ファイヴ・スポットVol.1』が62年7月発売なのに、『Vol.2』とVol.3に当たる『エリック・ドルフィー&ブッカー・リトル・メモリアル・アルバム』は64年後半に相次いで発売されている。前回リストを載せた通り、ファイヴ・スポットでのライヴ録音は10曲11テイクだが、LP片面を占めるに足る長い演奏が多く、録音テスト用と推定される(これだけ音質が悪い)『ビー・ヴァンプ』別テイクを除けば凡演・駄演はない。『Vol.1』収録の『ファイヤー・ワルツ』は直前に録音されたマル・ウォルドロンの『クエスト』収録がオリジナル・ヴァージョンだが、ファイヴ・スポット録音のうちドルフィーのオリジナルはすべて初演になる。『Vol.1』の『ザ・プロフェット』、この『メモリアル・アルバム』の『ナンバー・エイト(ポッツァ・ロッツァ)』もファイヴ・スポット以外での録音はない。
ブッカー・リトルの『ビー・ヴァンプ』(Vol.1)、『アグレッション』(Vol.2)も書き下ろしだが、この『メモリアル・アルバム』の『ブッカーズ・ワルツ』はタイトル違いで先行する2ヴァージョンがある。ワルツ曲はジャズでは少ないので(ウォルドロンの『ファイヤー・ワルツ』もあるが)採り上げよう、ということになったのだろう。リトルのプロ・デビュー(リトルの急逝まで在籍していた)はマックス・ローチ・クインテットで(テナーのジョージ・コールマンと同期)、ローチはジャズ・ワルツを得意としていたから、ローチからの宿題だったのかもしれない。『ブッカーズ・ワルツ』の先行ヴァージョンは次のふたつになる。
Frank Strozier - Waltz Of The Demons (Recorded Feb.2, 1960 / from "Fantastic Frank Strozier" Vee Jee VJLP3005) : https://youtu.be/RyBa5wytI9g
Booker Little - Grand Valse (Recorded Apr.13 or 15, 1960 / from "Booker Little" Time S/2100) : https://youtu.be/8Z9W4Mo_niY
フランク・ストロジャー(アルトサックス・1937~)はテネシー州メンフィス生まれ、シカゴ育ちという経歴もリトルと同じで、1歳年下のリトルとほぼ同期にニューヨークに進出した。『ファンタスティック・フランク・ストロジャー』はリトルがトランペット、ピアノがウィントン・ケリー、ベースがポール・チェンバース、ドラムスがジミー・コブ(つまりマイルス・デイヴィスのリズム・セクション)と、主役がいちばん出世しなかった。演奏もけっこう粗い。しかしマイルスのバンドでテナーがハンク・モブレーからジョージ・コールマンに交代した1963年に、一時的にマイルスのバンドに採用されている(録音は残されていない)。ストロジャーのアルバムに唯一提供したのこの曲が、この曲の初演と思われる。
リトルの初リーダー作『ブッカー・リトル4+マックス・ローチ』(58年10月録音)に『Dungeon Waltz』というオリジナルがあり、コード進行とテンポが同じだから本来はその改作がこの曲なのかもしれない。だがテーマ・メロディはまったく異なり、メロディの美しさに格段の違いがある。そういう場合は新曲と見做してもいいだろう。
ブッカー・リトル自身のアルバムはトミー・フラナガン(ピアノ)、スコット・ラファロ(ベース)、ロイ・ヘインズ(ドラムス)からなる第2リーダー作で、リトル唯一のワンホーン・アルバム。ラファロ(1936~1961)との夭逝の天才の顔合わせでも別格の作品になった。ラファロは61年7月6日に交通事故死、享年25歳。このドルフィー&リトルのライヴ・アルバム録音の10日前になる。リトルは61年10月5日に腎臓病の急性症状で急逝。享年23歳。エリック・ドルフィーはラファロともリトルとも共演しているのだが、ドルフィー自身も64年6月末、糖尿病の急性症状で急死してしまう。享年36歳。
それはさておき、やや荒っぽいストロジャーとのヴァージョンよりもこちらのリトルのワンホーン・ヴァージョンの美しさは、ピアノ・トリオのイントロの美しさもあり決定ヴァージョンと呼ぶに足るものだろう。ドルフィー&リトル・クインテットのヴァージョンも面白いのだが、普通この曲調ならフルートを選ぶのをバスクラリネットで吹いたのが良くも悪くも、という結果になった。個性的なヴァージョンにはなったが、リトルのワンホーン・ヴァージョンの端正な美しさにはかなわない。
(Original Prestige "Eric Dolphy & Booker Little Memorial Album" LP Side B Label)
ドルフィーの『ナンバー・エイト(ポッツァ・ロッツァ)』はABAB'形式の曲だが、A10小節・B8小節という変則小節数でかなりの難曲。テーマ・メロディはドルフィーのオリジナルに典型的な無調性全音階を使ったもの。しかも4ビートとラテン・アクセントのどちらにリズムを解釈しても良いようになっている。この曲単独では気にならないのだが、やはり半月間だけのために結成された即席バンドには限界があった、と思える。スタンダード中心ならまだしも、オリジナル主体に1バンドでフルセットを組むには曲の数もアレンジの煮詰め方もまだ甘い。『ナンバー・エイト』のピアノ・ソロはほとんど『ビー・ヴァンプ』と同じ演奏になっている。どちらか一方だけを聴くならいいが、両方聴くとアイディアの貧しさ、リハーサルの乏しさを感じないではいられない。
ピアノのウォルドロンの責任というより、調律がいかれていて鍵盤の鳴りすら均等でないファイヴ・スポットのピアノという劣悪な環境のライヴでもあるが(ウォルドロンは鳴らない鍵盤はなるべく避けて弾いている)、演奏が長いのはリハーサルに十分時間を割いてアレンジを緊密にする余裕がなかった、ともいえる。長時間演奏が魅力のアルバムではあるが、61年録音のジャズのライヴ盤でドルフィー&リトル・クインテットと並ぶ伝説的アルバム、スコット・ラファロ最晩年のビル・エヴァンス・トリオのライヴ『サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』『ワルツ・フォー・デビー』(61年6月25日録音)のようにはバンドの音が固まっていない。クインテットとピアノ・トリオの違いはあるが、ドルフィー&リトル・クインテットがもう少し準備期間があり、できれば先にスタジオ録音作も制作していればファイヴ・スポットのライヴもまだまだ良くなっただろう、という無い物ねだりの気分になる。また、エリック・ドルフィー参加のジョン・コルトレーン『ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』が61年11月録音で、クインテットを基本にトリオからセプテットまでさまざまな編成で録音した実験的ライヴだが、コルトレーンのコンセプトが強力なのでドルフィー&リトル・クインテットのように時折散漫になるということがない。さすがにVol.3に当たる『メモリアル・アルバム』までくると、アルバム単体では十分な出来だがベストな条件のクインテットではなかったのが露呈してくる。