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Krzysztof Komeda Quintet ?- Astigmatic (Muza, 1966)

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Krzysztof Komeda Quintet ?- Astigmatic (Muza, 1966) Full Album : https://youtu.be/A9KM_KJKPMo
Recorded in Warsaw Philharmonic Hall in December 1965.
Released Polskie Nagrania Muza ?- XL 0298 (Polish Jazz - Vol. 5), Poland 1966
(Side A)
A1. Astigmatic (Krzysztof Komeda)- 22:50
(Side B)
B1. Kattorna (Krzysztof Komeda) - 7:20
B2. Svantetic (Krzysztof Komeda) - 15:50
[Personnel]
Krzysztof Komeda - Piano
Tomasz Stanko - Trumpet
Zbigniew Namyslowski - alto saxophone
Gunter Lenz - bass
Rune Carlsson - drums

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 (Original Muza Polish Jazz - Vol.5 LP Side A Label)
 クシシュトフ(クリストフ)・コメダ(1931~1969)は60年代ポーランドを代表するピアニストでロマン・ポランスキー(1933~)監督の映画音楽にはポーランド時代の『水の中のナイフ』1962から関わり、イギリスでの『袋小路』1966、さらにポランスキーのハリウッド進出に伴ってハリウッドのメジャー作品『吸血鬼』1967、『ローズマリーの赤ちゃん』1968のサウンドトラックを手がけ、国際的な活躍を嘱望された矢先にロサンゼルスで急性の脳血腫のために急逝した。37歳だった。ポーランドでは『ローズマリーの赤ちゃん』のメイン・テーマは裏国歌として愛され、コメダ記念音楽祭も開かれている。90年代には全23枚のコメダ全録音集がまとめられ、90年代末~2000年代にかけてさらに14枚ずつ2セットの改訂版全集が単独アルバムずつリリースされている。
 コメダは50年代から数多くのオムニバス盤や企画アルバム、サウンドトラック盤に参加しているが、この『アスティグマティック』はコメダ名義のアルバムでは第6作に当たり、60年代ポーランド・ジャズの最前線に立った。トランペットのトマス・スタンコやアルトサックスのズビグニエフ・ナミスロウスキはこのアルバムの参加によって名を高め、コメダの早逝の後のポーランド・ジャズ界を背負って立つ存在になる。ヨーロッパ諸国のジャズで共通するのは、ドラムスとベースはやや硬く、柔軟性に欠ける。コメダ、スタンコ、ナミスロウスキのプレイが素晴らしいので『アスティグマティック』ではベースとドラムスの硬さが気にならない。

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 (Original Muza Polish Jazz - Vol.4 LP Liner Cover)
 コメダの演奏はビル・エヴァンスの流れをくむものだが、『アスティグマティック』を聴くとフリー・ジャズとは異なるアヴァンギャルドで抽象性の高い作風に、マイルス・デイヴィスの『ソーサラー』(67年5月録音・12月発売)、『ネフェルティティ』(67年7月録音・68年3月発売)を連想しないではいられない。これらは先立って発表された『ESP』(1965年1月録音・11月発売)、『マイルス・スマイルズ』(66年10月録音・67年1月発売)同様マイルス(トランペット)、ウェイン・ショーター(テナーサックス)、ハービー・ハンコック(ピアノ)、ロン・カーター(ベース)、トニー・ウィリアムズ(ドラムス)のクインテットによるもので、リーダーのマイルス以外はアルバイトで同時期ブルー・ノート・レーベルから意欲作をがんがん出していた。これら4作もオリジナル曲はほとんどショーターとハンコックが提供している。
 『アスティグマティック』は『ソーサラー』『ネフェルティティ』に近く、『ESP』と『マイルス・スマイルズ』は『アスティグマティック』ほど抽象化が進んでいない。実はこれら『ESP』~『ネフェルティティ』に至るアルバムは当時マイルスのアルバムとしては評価が低かった。熱いフリー・ジャズ全盛の時代に、マイルスは反動ではないかと見られた(次作の 68年1月/5月録音・7月発売 『マイルス・イン・ザ・スカイ』で初めて8ビート・ジャズを試み、ようやく好評を博すが)。『アスティグマティック』は『ESP』の発売月に録音されているが大作だけに即座の影響は考えづらく、内容は67年の『ソーサラー』『ネフェルティティ』を先取りするほど先進的だった。マイルスのこれらのアルバムは80年代半ば以降大傑作という評価がようやく定まったが、『アスティグマティック』はポピュラーな音楽ではないにせよ発表と同時に新しい古典とされた。

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 (Original Muza Polish Jazz - Vol.5 LP Side B Label)
 ほぼ同時期に同じようなタイプのジャズをやっていたのにマイルスとコメダで評価が割れ、またマイルス・クインテットとクインテットのメンバー(ショーター、ハンコック、ウィリアムズらのアルバムは高い評価を受けた)でも評価が分かれたのは、東欧のアヴァンギャルド・シーンやアメリカでも若い世代のジャズマンに求められた新しいクールさが、ヴェテランのマイルスには作為的でそぐわないと見られたからと当時の批評からわかる。実際マイルスが自作曲で自分のアルバムを制作する方針に戻るのはエレクトリック・バンド第1作『マイルス・イン・ザ・スカイ』からになる。『ESP』~『ネフェルティティ』の4作はショーターとハンコックの曲がほとんどだった。
 興味深いのは、同一曲をショーターやハンコックが自分自身のアルバムで演奏していると曲想が明解なのに、マイルス・クインテットが演奏すると過度に複雑で情感を削いだ、とらえがたい曲想になってしまう。その点でも作曲者がバンドリーダーになるセッションは当初の発想から飛躍しすぎない分有利なので、『アスティグマティック』は弾きまくるタイプではないコメダの統率力が光る。タイトル曲では無伴奏ソロの場面がトランペット、アルトサックス、ベース、ドラムスの全員に与えられているが、散漫さや緊張感の欠如、または構成の大仰さは感じられない。コメダがピアノを弾いていないパートがピアニストのアルバムにしては大胆なほど大きいが、やはり管楽器ソロイストのアルバムではなく作曲家/ピアニストの作品らしい全体的なバランスの良さがある。

 ビル・エヴァンスの影響は60年代以降のジャズ・ピアノには決定的な影響を与え、唯一セシル・テイラーだけがまったくエヴァンスには背を向けていたといえるくらいだが、エヴァンスの影響は下手をすると模倣に終わりかねない危ういものだった。アメリカのジャズ・ピアニストでエヴァンスから上手く影響を取り入れて自分のスタイルに生かしたのはポール・ブレイ、マッコイ・タイナー、スティーヴ・キューン、ハービー・ハンコックくらいだった。コメダがエヴァンスから受けた影響も巧みで、ポーランドでコメダのライヴァルといえたアンジェイ・トルジャウコウスキのスタイルもエヴァンスのフリー・ジャズ化なのと合わせるとポーランド・ジャズの音楽嗜好がエヴァンスと親近性が高かったのだろう。トルジャウコウスキはコメダよりさらに急進的で、コメダの『アスティグマティック』1965に匹敵する代表作『シノプシス』1965や『セアント』1966は傑作だがコメダ作品のような親しみやすいメロディや情感、明解な構成に欠ける。より通好みなのはトルジャウコウスキかもしれないが、コメダ作品のように普段アメリカのジャズしか聴かないリスナーにも訴求力があるとは言えない。
 ベネルクス諸国やフランス、ドイツ、イギリスではフリー・ジャズの影響は破壊的・解体的な音楽性に向かった。ポーランドではコメダやトルジャウコウスキ、スタンコ、ナミスロウスキなどはいずれも抒情性を残してフリー・ジャズとポスト・バップの折衷に向かっており、その最高の成果が『アスティグマティック』に集約されている。あえてアメリカで類似した方向性を持っていたピアニストはキース・ジャレットということになるだろうが、コメダに較べればキースはいかにも軽い。コメダに感じる重さは、やはり旧共産圏という条件を抜きには考えられない。

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