Traffic - John Barleycorn Must Die (Island, 1970) Full Album : https://www.youtube.com/playlist?list=PL7DD54A0D48C1130A
Recorded February to May 1970 at Island Studios and Olympic Studios, London
Released July 1970, Island Records ILPS9116/UK#11/US#5
[Track listing and Personnel]
(Side A)
1. "Glad" (Winwood) 6:59
Steve Winwood - Hammond organ, piano, bass, percussion;
Chris Wood - saxophone, flute, percussion;
Jim Capaldi - drums, percussion
2. "Freedom Rider" (Winwood/Capaldi) 6:20
Winwood - vocals, Hammond organ, piano, bass, percussion;
Wood - saxophone, flute, percussion;
Capaldi - drums, percussion
3. "Empty Pages" (Winwood/Capaldi) 4:47
Winwood - vocals, Hammond organ, electric piano, bass;
Wood - Hammond organ;
Capaldi - drums, percussion
(Side B)
1. "Stranger to Himself" (Winwood/Capaldi) 4:02
Winwood - vocals, piano, acoustic guitar, electric guitar, bass, drums;
Capaldi - vocals
2. "John Barleycorn (Must Die)" (traditional-arr. Winwood) 6:20
Winwood - vocals, guitar, piano;
Wood - flute, percussion;
Capaldi - vocals, tambourine
3. "Every Mother's Son" (Winwood/Capaldi) 7:05
Winwood - vocals, Hammond organ, piano, bass, electric guitar;
Capaldi - drums
(Remasterd "John Barleycorn Must Die" CD Liner Cover)
トラフィックは元スペンサー・デイヴィス・グループのヴォーカリストでマルチ・プレイヤーのスティーヴ・ウィンウッド(1948~)がギター/ヴォーカルのデイヴ・メイスン(1946~)、サックスとフルートのクリス・ウッド(1944~1983)、ドラムス/ヴォーカルのジム・キャパルディ(1944~2005)と1967年4月に結成したバンド。ウィンウッドのデビューは1964年4月(16歳の誕生日前月)と早く、ブリティッシュ・ロック界の神童とアイドル的人気が高かった。スペンサー・デイヴィス・グループでは1964年~1966年にアルバム3枚を発表、67年1月のウィンウッド在籍時のラスト・シングル(通算9枚目)『アイム・ア・マン』のゲスト参加がメイスン、ウッド、キャパルディで、そこでウィンウッドが独立して彼らと新バンドを結成する企画が上がった。
トラフィックはアルバム未収録シングル数枚で人気バンドになった後、サイケデリック・ロックの傑作ファースト・アルバム『ミスター・ファンタジー』を67年12月にリリースするが、レコーディング中にメイスンが他の3人と反目して事実上解散してしまう。そこでウィンウッドたち3人でセカンド・アルバムの制作を始めるが、ゲスト参加ならいいんじゃないかと双方で歩み寄って順調に制作は進み結局メンバーに復帰して、68月10月リリースのセカンド・アルバム『トラフィック』はサイケ色を一掃したアーシーな名作になったが、完成前後にやはりメイスンと他の3人が揉めてメイスンは再び脱退してしまう。
ウィンウッドはクリームを解散したエリック・クラプトン(ギター)とジンジャー・ベイカー(ドラムス)、元スプーキー・トゥースのリック・グレッチ(ベース)とのスーパー・グループ、ブラインド・フェイス結成に誘われ、ブラインド・フェイスのアルバム『スーパー・ジャイアンツ』(69年8月、英米1位)の前にアウトテイクとライヴ音源からなる編集盤『ラスト・イグジット』(69年5月)をリリースして、トラフィックは解散する。ブラインド・フェイスのアルバムは大ヒットし全米ツアーも盛況だったが、注目はクラプトンにばかり集まりベイカーが反目し、ブラインド・フェイスのセカンド着手前にウィンウッドを連れて脱退しブラインド・フェイスは解散、ベイカーはアフロ・ジャズ・ロックを目指したジンジャー・ベイカーズ・エアフォースのデビュー作をウィンウッドをメンバーに制作する(70年3月リリース)。
エアフォースのアルバム制作を終えて70年2月からウィンウッドは初めてのソロ・アルバムを予定してスタジオ入りしていたが、管楽器のウッドとドラムス、パーカッションのキャパルディをセッション・プレイヤーに迎えているうちにトラフィックのニュー・アルバム名義でいいんじゃないか、と意気投合してしまい、結局トラフィックは再結成、このアルバムは再結成第1弾アルバムとしてリリースされて好評に迎えられ(イギリス色が強いためかえってイギリス本国よりアメリカでヒットした)、その後のトラフィックはライヴで増員したメンバーを次のスタジオ・アルバムに迎えるという調子で、ウィンウッド/ウッド/キャパルディのトリオを中心に地味で渋いアルバムを制作していく。後期になるにつれイギリス本国よりアメリカで人気が高かったのがチャート成績でわかる。
[Traffic Album Discography]
・Mr. Fantasy (first US pressing issued with title "Heaven Is In Your Mind") - 1967/UK#8, US#88
・Traffic - 1968/UK#9, US No#17
・Last Exit (side 2 live at The Fillmore West) - 1969/UK-, US#19
・Best of Traffic (Compilation) - 1969/UK-, US#48
・John Barleycorn Must Die - 1970/UK#11, US#5
・The Low Spark of High Heeled Boys - 1971/UK-, US#7
・Welcome to the Canteen (Live) - 1971/UK-, US#26
・Shoot Out at the Fantasy Factory - 1973/UK-, US#6
・On the Road (Live) - 1973/UK#40, US#29
・When the Eagle Flies - 1974/UK#40, US#9
・Heavy Traffic (Compilation) - 1975/US#155
・More Heavy Traffic (Compilation) - 1975/US#193
・Smiling Phases (2CD Compilation) - 1991/UK-, US-
・Far from Home - 1994/UK#29, US#33
・Last Great Traffic Jam (Live) - 2005/UK-, US-
94年の復活作はウッド没後10年を経て、CD2枚組アンソロジー『スマイリング・フェイゼズ』の好評を受け、ウィンウッドとキャパルディの共作として制作された。ウィンウッドはスペンサー・デイヴィス・グループでもトラフィックでもブラインド・フェイスでも最年少メンバーだったため、音楽的には主役を張っているにもかかわらずリーダーシップがとれない、という押しの弱い面があった。トラフィックの名作はデイヴ・メイスンのいた『ミスター・ファンタジー』と『トラフィック』と、再結成後は『ジョン・バーレイコーン・マスト・ダイ』『ザ・ロウ・スパーク・アンド・ハイ・ヒールド・ボーイズ』、それからファースト・アルバム以前のアルバム未収録シングルが名曲ぞろいだから『ベスト・オブ・トラフィック』か『スマイリング・フェイゼズ』も欠かせないが、CD2枚組の『スマイリング・フェイゼズ』は代表曲を網羅しており、入門用にも手頃なベスト・アルバムとしても良い。
メイスンは年長の上、ウィンウッドに拮抗する才能だったからトラフィックのデビュー・アルバムとセカンド・アルバムはテンションの高い傑作になった。クリス・ウッドとジム・キャパルディはウィンウッド側についたわけだが、ウッドは他のバンドでは使い物にならないようなテクニックとセンスの管楽器奏者で、キャパルディも再結成後にライヴを行うようになってからは専任ドラマーをもう一人入れないと持たない、何かとヴォーカルだけ取りたがるドラマーで、ウィンウッドとしてはウッドやキャパルディくらい頼りないメンバーの方が楽だったのだろう。再結成第2作『ザ・ロウ・スパーク・アンド~』もまだいいのだが、次にライヴ盤を挟んでからはウッドとキャパルディはますます何もしなくなった。アルバムの質も下がる一方だったが、それでも何とか聴ける出来なのはウィンウッドの力量で、さすがにウィンウッドも息切れしたところでトラフィックも解散する。
このアルバムのタイトルはイギリスの格言で、ジョン・バーレイコーンとは麦を擬人化した呼び方。麦は死ななければビールはできない、と言う意味で、聖書にある「一粒の麦もし死なずば」のような宗教的な格言ではなく、もっと世俗的な意味になる。イギリスのトラッド風のアコースティックなタイトル曲はいかにも民謡調の哀感がある。B面の3曲はそれぞれ異なったカラーがあり、成功している。特に『エヴリ・マザーズ・サン』は多くのカヴァー・ヴァージョンを生んで要る。CDのリマスター盤で未発表曲がB面の曲の並びを崩しているのはウィンウッド側の意図らしいが、このアルバムにボーナス・トラックは要らない。A面3曲、B面3曲で完璧なアルバムになっている。
だが素晴らしいのは曲間なしで連続するA面3曲だろう。ダサめのソウル・ジャス・インスト『グラッド』はウィンウッドのファンキーなピアノとキャパルディの拙いドラムス、ウッドのダサダサのサックスが見事に調和している。間髪入れずに始まる『フリーダム・ライダー』(60年代アメリカの公民権運動団体の名称)はA1と打って変わった緊張感の高いジャス・ロックで、ウィンウッドのヴォーカルもテンションが高く、ウッドのフルートも効いている。続けざまに始まる『エンプティ・ページズ』はプログレッシヴ・ロックに近いジャス・ロックだが、自信に満ちたウィンウッドのヴォーカルと洗練されたエレクトリック・ピアノのソロがシンプルなドラムスとウッドの弾くハモンド・オルガンで堂々とした名曲に仕上がった。ベスト盤『スマイリング・フェイゼズ』でもこのA面3曲のアルバム片面分がこの通りの曲順で収録されているほどで、曲順の崩せない名盤というとビートルズの『アビー・ロード』がよく上げられるが、そこまでスケールは大きくないとはいえ完璧という言葉が過褒にならない名作という点では、革新的な傑作だったトラフィックの1、2作目以上のものになっている。これが22歳のリーダーのバンドのアルバムなのだからそら恐ろしいものがある。