Hawkwind - Quark, Strangeness, And Charm (Charisma, 1977) : http://www.youtube.com/playlist?list=PLWfGw2maX1M4CiS9oe29E6wNp5nOFJgB8
Recorded at Rockfield Studios, February 1977. Produced by Hawkwind
Released Jun-1977: Charisma, CDS4008 / UK#30
(Side A)
1. "Spirit of the Age" (Robert Calvert, Dave Brock) - 7:20
2. "Damnation Alley" (Calvert, Brock, Simon House) - 9:06
3. "Fable of a Failed Race" (Calvert, Brock) - 3:15
(Side B)
1. "Quark, Strangeness and Charm" (Calvert, Brock) - 3:41
2. "Hassan-i Sabbah" (Calvert, Paul Rudolph) - 5:21
3. "The Forge of Vulcan" (House) - 3:05
4. "The Days of the Underground" (Calvert, Brock) - 3:13
5. "The Iron Dream" (Simon King) - 1:53
(Bonus tracks)
1. "Damnation Alley" [live studio version] - 10:33
2. "A minor Jam Session" - 9:49
3. "Spirit of the Age" [demo - excerpt] - 2:59
4. "Hash Cake Cut" - 4:25
Hawkwind - Quark, Strangeness, And Charm (Bonus Disc) : http://www.youtube.com/playlist?list=PLWfGw2maX1M4SaVRdVgc0O68xuof6VVNh
"Damnation Alley" [first studio version] - 10:34
1. "Spirit of the Age" [full extended version] - 11:20
2. "Days of the Underground" [first version] - 5:38
3. "Quark, Strangeness and Charm"/"Uncle Sam's on Mars" - 9:18
4. "Fable of a Failed Race" [extended version] - 6:49
5. "Damnation Alley" [alternate harmony vocal version] - 8:23
6. "Spirit of the Age" [live 1977] - 5:54
7. "Robot" [live 1977] - 5:57
8. "High Rise" [live 1977] - 5:39
[Personnel]
Dave Brock - guitar, synthesisers, sound FX, vocals, and quark
Robert Calvert - vocals, percussion, morse, and strangeness
Simon House - keyboards, violin, anvil, vocals, and charm
Adrian Shaw - bass guitar, vocals, and hand-claps
Simon King - drums, percussion, and no-vocal
前作『アスタウディング・サウンズ、アメイジング・ミュージック』の紹介は英語版ウィキペディアの全訳で済ませたが、理由は簡単でホークウィンド史上でも初めての失敗作だからだった。全7曲中4曲のヴォーカル曲は悪くないし、冒頭2曲の『リーファー・マッドネス』と『ステッペンウルフ』(旧邦題は『ヘルマン・ヘッセ』笑)はバンドの作風変化なら意欲は買えるし上出来だが、インスト3曲が駄曲なせいで残る2曲のヴォーカル曲ばかりかアルバム全体の水準を下げている。前記2曲に未発表没テイクを加えた編集盤と見れば許せるが、新生ホークウィンド15か月ぶりの新作、レーベル移籍第1弾にはあまりに貧弱なアルバムになってしまった。ユナイテッド・アーティスツ最終作『絶体絶命』1975のUKチャート13位から『アスタウディング・サウンズ』1976は33位と、チャート上でも見事に転落した。
アルバム・ジャケットとコンセプトはロバート・カルヴァートの本格的参加で秀逸なものだった。レトロ・フューチャーという言葉もなかった頃にそのアイディアを先取りしていた。バンドはイギリスのSF番長マイケル・ムアコックと仲間だったから、バリントン・ベイリーやクリストファー・プリーストらイギリス70年代SFの新しい動きにも鋭敏だったろう。イギリス60年代SFの反SF的手法に対して、70年代SFではSF設定自体のガジェット的活用が起こった。ただし『アスタウディング~』では惜しくもまだレトロ・フューチャーというアイディアを十分にサウンドに具体化できないうちにアルバムを完成させてしまった観がある。
もうひとつ、原因としてはメンバー・チェンジと音楽性の変化のタイミングが噛み合わなかったのもあるだろう。『クォーク、ストレンジネス&チャーム』では前作からニック・ターナー(サックス、フルート)、ポール・ルドルフ(ベース)、アラン・パウエル(ドラムス)が抜け、エイドリアン・ショウ(ベース)が加入した。音楽性の変化にはターナーとパウエルははっきり言って余剰人員で、デイヴ・ブロック以外唯一のオリジナル・メンバーだったターナーは生粋のサイケな人で、やはりオリジナル・メンバーだったディック・ミック(エレクトロニクス)が脱退した時が潮時だった。新生ホークウィンドにはダブル・ドラムスの必然性がなかったからパウエルも余剰人員だった。
そこらへんがすっきりして、『クォーク、ストレンジネス&チャーム』1977は前作の★★から★★★★1/2(allmusic.com)と、ホークウィンドの最高傑作のひとつに上げられるアルバムになった。この後バンドは『ホークローズ・25年間』1978、『P.X.R.5』1979までカルヴァート&ブロックのダブル・リーダー体制で同期生のバンドが次々解散していく中を乗り切り、80年代にもチャートの20位~30位台のしぶとい人気を誇るバンドとして残る。ブラック・サバスやユーライア・ヒープより安定していたのは早いうちからデイヴ・ブロック=ホークウィンドという一貫性があって、デビュー作からホークウィンドはブロックが曲を書いてギターを弾いて歌うバンドだったからだが、『アスタウディング~』から『P.X.R.5』に至る70年代後半はブロックだけではない個性が必要だった。バンド初期にはニック・ターナーがその役割だったが、具体的にはグラム・ロック~パンク/ニューウェイヴに対抗するソングライター&ヴォーカリストとして、ロバート・カルヴァートのアイディアとキャラクターが必要だった。
(Single "Quark, Strangeness, And Charm" Picture Sleeve)
アルバムを聴き始めて思うのは、サウンドはストラングラーズみたいだしヴォーカルはセックス・ピストルズみたいだ、ただしサウンドもヴォーカルもパンク・バンドより力みがないことで、しかもホークウィンドのこのアルバムはストラングラーズやピストルズのデビュー作と同年に前後して出た。ピストルズのジョニー・ロットンはホークウィンドのローディをしていたそうで、ピストルズのデビュー後ロバート・カルヴァートに表敬訪問してそれを話題にした、というエピソードがある。ホークウィンドはパンク・ロックのリスナーからもヘヴィ・メタルのリスナーからも愛されるバンドとしてブラック・サバスやモーターヘッドと並ぶバンドになったが、モーターヘッドはホークウィンド出身のレミーのバンドだし、逆にホークウィンドはレミーの出身バンドでもある。
ヘヴィ・サイケの極致のような『宇宙の祭典』1973やプログレ大作『絶体絶命』のホークウィンドが、たかだか数年でこんなにモダンで洗練されたグラム系ハード・ロック(スティーヴ・ハーレィ&コックニー・レベルあたりの、80年代エレ・ポップに引き継がれるサウンド)になってしまうものか。ホークウィンドの場合、明らかに『宇宙の祭典』や『絶体絶命』の作風を引きずっていたらバンドは続かなかっただろう。今でこそクラシック・ロックとして素直に楽しめる音楽だが、『絶体絶命』までのホークウィンドはあまりに時代性に沿った音楽性すぎて、それまでの作風でバンドを続けるといつか致命的にリスナーに見離される可能性すらあった。幸いニック・ターナーやアラン・パウエル、ポール・ルドルフらサウンドを重くしていたメンバーが去り(ターナーは事実上クビらしいが)、ブロック(クウォーク)は曲とギターを、カルヴァート(ストレンジネス)は歌を、サイモン・ハウス(チャーム)はサウンド・プロデュースを、とシンプルに役割分担すればいい。それがタイトルの由来になっている。
このアルバムはカルヴァートのヴォーカルが格段に向上した。トーキング・スタイルのコックニー訛りというのがパンクとの類似点だろう。サイモン・ハウスのキーボード・アレンジもプログレッシヴ・ロック的なものからもっと都会的・近未来的な明るく軽いサウンドになっている。ブロックの作曲もカルヴァートとハウスから従来のホークウィンドよりもぐっとストリート感覚を引き出しているのがわかる。90年代以降ホークウィンドが再評価されることになり、アルバム発表時より良さが理解されるようになったのが1曲あたり7分~9分とゆったり時間をかけたグルーヴ感で、これはCD時代に入ってからのロック~ポップスの楽曲の長時間化と奇しくも一致していた。
A1、A2、B1と快調なヴォーカル曲が並び、A3、B4も佳曲だし、今回はインスト曲B3、B5もテクノで前作みたいなムード・インストに陥っていないが、最高の怪作は皮肉にもポール・ルドルフの置き土産となったB2だろう。同様の作風にはレッド・ツェッペリン『カシミール』1975、レインボー『スターゲイザー』1976の先例があるが、これがうさんくさい中近東風ハード・ロックで、ブロックのハードなコード・カッティングに乗って、サイモン・ハウスのエレクトリック・ヴァイオリンとユニゾンで「ハシッ、ハシッ、ハシッ、ハシッ!ハーシッシーッ!」と翻訳できない歌詞を連呼するカルヴァートのヴォーカルがやばい。サイモン・ハウスのアレンジがプログレッシヴ・ロック的なシンフォニックなものから完全に脱却し、テクノ・ロックの領域に入ってきた。そして次作の制作前にハウスはデイヴィッド・ボウイのバンドに引き抜かれてしまうのだった。