Hawkwind - Bring Me The Head Of Yuri Gagarin (Demi Monde, 1985) Full Album : http://youtu.be/aTUAoSLEBt4
Recorded Empire Pool, Wembley, 27 May 1973
Released January 1985, Demi Monde DM002
(Side A)
A1. "Gaga" (Dunkley) - 2:10
A2. "In the Egg" (Gunter Grass) - 2:38
A3. "Organe Accumulator" (Calvert/Brock) - 7:25
A4. "Wage War" (Jerzy Kosinski) - 2:49
A5. "Urban Guerilla" (Calvert/Brock) - 6:01
(Side B)
B1. "Master of the Universe" (Turner/Brock) - 6:53
B2. "Welcome to the Future" (Calvert) - 2:38
B3. "Sonic Attack" (Moorcock) - 3:26
B4. "Silver Machine" (Calvert/Brock) - 3:42
[Personnel]
Robert Calvert - vocals
Dave Brock - electric guitar, vocals
Nik Turner - saxophone, flute, vocals
Lemmy - bass guitar, vocals
Dik Mik Davies - synthesizer
Del Dettmar - synthesizer
Simon King - drums
Andy Dunkley - introductions
Cover by Nazer Ali Khan
ホークウィンドには平気でこういうリリースがあるからたまらないのだ。この観客録音のライヴ・アルバムは1976年に脱退(実際はクビ)し、1982年に復帰したが1984年にはまたもや脱退(実際はクビ)したオリジナル・メンバーのニック・ターナー(サックス、フルート、ヴォーカル)がバンドに無断で二代目ベーシストのデイヴ・アンダーソンによるデミ・モンド・レーベルから発売したもので、85年の初リリース以来やはり歴代メンバーたちがインディーズ・レーベルに売りこんだ『マスターズ・オブ・ザ・ユニヴァース』や『ザ・テキスト・オブ・ザ・フェスティヴァル』『宇宙の祭典Vol.2』などの発掘ライヴ・アルバムとともに2枚組CD、3枚組CD、4枚組CDなどの抱き合わせで18回の新装再発をされてきた。前記3作とこの『ブリング・ミー・ザ・ヘッド・オブ・ユーリイ・ガガーリン』(それにしても長いタイトル)の抱き合わせ4枚組CDがもっとも多い。
しかも『マスターズ・オブ・ザ・ユニヴァース』は『ザ・テキスト・オブ・ザ・フェスティヴァル』のアナログLP二枚組のAB面のみを収録したアルバムで、『ザ・テキスト・オブ・ザ・フェスティヴァル』のCDはアナログ二枚組LPのABC面しか収録していない(つまりD面未収録)のだから、『マスターズ・オブ~』に『ザ・テキスト~』のAB面、『ザ・テキスト~』にCD面を振り分けて『ザ・テキスト~』アナログ二枚組を完全CD化すればいいものを、わざわざダブりはそのまま、カットもそのままで両方収録していたりする。『ザ・テキスト~』『マスターズ・オブ~』『Vol.2』『ガガーリン』はどれもチャプターや曲目が間違いだらけで、詳細な音楽サイトで正しい曲目を確認しないとミスプレス盤かと思ってしまうが、元々のCDの誤記(アナログ盤リリース時からの誤記)がいまだに残っているのだ。貴重な初期BBCセッション集『ザ・テキスト・オブ・フェスティヴァル』はさすがに真面目なインディーズ・レーベルが正確な曲目表記に訂正して再発売している(Plastic Head America盤)が、アナログ盤のみでCDでの完全版再発は出ていない。
ユーリイ・ガガーリン(1934~1968)はロシアがソヴィエト連邦共和国に1961年、人類史上初の有人宇宙飛行に成功させた宇宙飛行士で、言い回しは多少異なるが日本では「地球は青かった」、世界的には「宇宙に神はいなかった」という発言でも知られる。宇宙飛行士を退いた後は教官職に就いたが、34歳の若さで軍用機の墜落事故で逝去した。ホークウィンドはSFロックバンドでもあるから、ユーリイ・ガガーリンはイデオロギーを越えた実在のスペース・ヒーローということになる。アルバムの内容に何か関係あるかというと、大して関係ないあたりもホークウィンドらしいおおらかさを感じさせる。また、80年代半ばまでは有効だった(今も形を変えて存在する)ある時代相を端的に示すものでもあるだろう。
近代SF小説の始祖はエドガー・アラン・ポー(アメリカ)、ジュール・ヴェルヌ(フランス)、H・G・ウェルズ(イギリス)だったが、大衆小説として爆発的に発展したのは1930年代以降のアメリカだった。SF小説の描く未来社会、地球外文化は中学生程度の知的水準で理解できるように描かれたものだったが、そこでは貧富の差や人種の差など、現実では絶望的な障壁となるものが容易に超越可能なものとして描かれていた。SF小説の主人公は特定の経済階級にも人種にも属しておらず、それは宇宙の法則の解明や特殊な能力で自らが選び取れるものだった。SF小説は黒人少年の読者や劣等生の白人学生の読者によって支持されていた。SFイメージを利用している白人ミュージシャン、黒人ミュージシャンにその反映がある。ホークウィンドのようなスペース・ヒッピー・バンドはそうした背景から登場した。
SF小説は英米でも80年代半ばには現実を反映したものに近づき、それは英米SFでは変わらず階級闘争的なものだったが、日本でははっきりジャンル自体によるジャンル批判という側面が露呈することになった。それまでならそうでないものまでSFとして市場に並べられていたものまでいっせいに「SF」の文字が消えた。「ラノベ」の「ファンタジー」というのは、70年代なら「SFジュヴナイル」とされていたものの呼び換えで、SFが持ち続けてきた批評性を回避したい読者の嗜好からすれば、それは自己批評的な側面を避け、一定のサーヴィスの行き届いた「ラノベ」でなければならない。
ヒッピーの聖典と呼ばれるような小説が多くSFから出たようには、ラノベは読まれることはないと思われる。ホークウィンドがかたっぱしからSF小説をモチーフにしてアルバムを制作していたようには、ラノベに限らず現代小説には文化としての力は宿らなくなっている。ではそれではフィクションにはだまされない知恵が大多数の人に備わったかというと、単に物わかりがよくなってその分鈍くなり、そんな自分を肯定してくれるようなものにしか目がいかなくなっているだけではないか。ホークウィンドのようなうさんくさい誇大妄想的馬鹿音楽には自然と警戒心が働くのではないか。
さてこの『ユーリイ・ガガーリン』の特色はというと、ずばり『宇宙の祭典』発売記念ライヴで、『宇宙の祭典』は73年5月11日に発売されたばかりだが5月27日に行われたのがこのコンサートになる。2006年にAt Discs Recordsレーベルから別の録音ソースによるコンサート全曲収録盤が出たそうだが大して出回る前にプレミア盤になってしまった。音質は『ガガーリン』とどっこいどっこいの劣悪観客録音並みだという。曲目は調べがついたので参考までに。全16曲がコンサートの全貌で、『ガガーリン』はそこから9曲を選んだものになる(*で示した)。
[Empire Pool Wembley 1973] April, 2006, At Discs Records, AT75327CD
*01. "Intro - Andy Dunkley"
*02. "In the Egg"
03. "Born to Go"
04. "Down Through the Night"
*05. "Wage War"
*06. "Urban Guerilla"
07. "Space Is Deep"
08. "Black Corridor"
*09. "Orgone Accumulator"
10. "Upside Down"
11. "Brainstorm"
12. "Seven by Seven"
*13. "Master of the Universe"
*14. "Welcome to the Future"
*15. "Sonic Attack"
*16. "Silver Machine"
だいたい『宇宙の祭典』の流れをベースにしてシングル・ヒット曲『アーバン・ゲリラ』『シルヴァー・マシーン』を追加した構成になっている。アンディ・ダンキーは72年9月収録の『BBCラジオ1・コンサート』で司会していた人だからBBCの局アナかと思っていたが、バンドの関係者か、でなければこのコンサートもBBCで中継されたかだが、後者ならもっと良いテープが出てくるはずだからバンド側の人なのだろう。このライヴ初出といえば『イン・ジ・エッグ』と『ウェイジ・ウォー』だが、マイケル・ムアコックの『ソニック・アタック』と同じくロバート・カルヴァートによる朗読で、前者はギュンター・グラス(代表作『ブリキの太鼓』)、後者はジャージー・コジンスキー(代表作『異端の鳥』)より。どちらもホロコーストをテーマにしているようで、ヴェトナム戦争終結に結びつけているのだろう。こんなテーマは『宇宙の祭典』ではやらなくて正解だったが、コンサートのアンコールではシルヴァー・マシーンに乗って宇宙に飛んでいくのがホークウィンドらしくて良い。
商品レベルとしては今回タイトルを上げたホークウィンドの発掘ライヴは録音劣悪なのだろうが、SP時代のブルースやジャズを普通に聴けるなら大して悪くもない。かえってスタジオ加工・編集されていないホークウィンドのライヴ音源は下手にはまるとスタジオ盤に戻れないインパクトがある。ひょっとしたら音質的にも、真に音楽性と一致しているのはこちらの方かもしれないぞ、と思えてくるほどだったりする。