Hawkwind - Space Ritual Volume 2 (American Phonograph, 1985) Full Album : http://youtu.be/LeYufjm71OI
Recorded Brixton Sundown, 30 December 1972
Released May 1985, American Phonograph APK8
(Side A)
A1. "Electronic No. 1" [listed as "Space"] (Dettmar/Dik Mik) 0:00
A2. "Orgone Accumulator" (Calvert/Brock) 2:14
A3. "Upside Down" (Brock) 11:02
(Side B)
B1. "Sonic Attack" (Moorcock) 13:50
B2. "Time We Left This World Today" (Brock) including "Paranoia" [unlisted] (Brock) 16:31
(Side C)
C1. "10 Seconds of Forever" (Calvert) 29:51
C2. "Brainstorm" (Turner) 32:01
(Side D)
D1. "Wind of Change" [unlisted] (Brock) to "7 By 7" (Brock) 44:03
D2. "Master of the Universe" (Turner/Brock) 52:55
D3. "Welcome to the Future" (Calvert) 60:37
[Musicnauts]
Robert Calvert - vocals
Dave Brock - guitar, vocals
Nik Turner - saxophone, flute, vocals
Lemmy (Ian Kilmister) - bass guitar, vocals
Dik Mik (Michael Davies) - audio generator, electronics
Del Dettmar - synthesizer
Simon King - drums
これも『マスターズ・オブ・ザ・ユニヴァース』や『ザ・テキスト・オブ・ザ・フェスティヴァル』『BBCラジオ1・イン・コンサート』同様メンバー公認の発掘ライヴ盤で、内容では前記3枚を上回る充実した内容を誇る。ビートルズの『レット・イット・ビー・ネイキッド』以来ポスト・プロダクションを施されていないオリジナル・マスターへの復元が一部のロック作品では行われるようになったが、ホークウィンドは1985年にもうそれをやっていた。ホークウィンドの代表作で傑作ライヴ盤『宇宙の祭典』は1972年12月22日のリヴァプール・スタジアムと、12月30日のブリクストン・サンダウンでのコンサートで収録されたものだが、12月30日分をオーヴァーダビングや編集なしで聴くことができるのだ。
もっともこれが12月30日サンダウン・ライヴの全貌ではなくて、『アース・コーリング』"Earth Calling"は82年の『ウィアード・テープ』で既発表、『スペース・イズ・ディープ』"Space Is Deep" と 『ユー・シュドゥント・ドゥー・ザット/シーイング・イット・アズ・ユー・リアリー・アー』"You Shouldn't Do That" / "Seeing It As You Really Are"の3曲2トラックの発表は86年の『ホークウィンド・アンソロジー』に持ち越しになった。ただし『ボーン・トゥ・ゴー』のイントロダクションである『アース・コーリング』や『スペース・イズ・ディープ』は『宇宙の祭典』ではA・B面12月22日のリヴァプール・ライヴが採用されていると推定され、また『宇宙の祭典』未収録曲の『ユー・シュドゥント・ドゥー・ザット/シーイング・イット・アズ・ユー・リアリー・アー』は後半の『シーイング・イット~』はインストのインプロヴィゼーション曲なので、ホークウィンド初のベスト・アルバム『ロードホークス』1976のレア・テイクとして前半の『ユー・シュドゥント・ドゥー・ザット』だけの編集ヴァージョンがいち早く発掘発表されている。
(CD "Space Ritual Volume 2" Liner Cover)
相違点を『宇宙の祭典』と『Vol.2』の曲目から見較べてみると、『宇宙の祭典』では『エレクトロニックNo.1』はB面のクロージング、『オルゴン・アキュムレーター』はC面のオープナーで、C面とD面の曲目は一部に曲順の変更がある。具体的には『テン・セコンズ・オブ・フォーエヴァー』『ブレインストーム』はC面の『オルゴン・アキュムレーター』『アップサイド・ダウン』の次に入り、D面は『セヴン・バイ・セヴン』を冒頭に持ってきて『ソニック・アタック』『タイム・ウィ・レフト・ジス・ワールド・トゥディ』『マスター・オブ・ザ・ユニヴァース』『ウェルカム・トゥ・ザ・フューチャー』とつながる。
元々このアルバムは、前メンバーのデイヴ・アンダーソンが所有していたテープがリーダーのデイヴ・ブロックの承諾を得てレコード化されたものだという。なぜ前メンバーのデイヴ・アンダーソンが、と不思議に思うが、後任ベーシストのレミーとの交代は円満で、アモン・デュールがデイヴ・アンダーソン中心に再活動した時もホークウィンド側からロバート・カルヴァートが参加しているくらいだから、当時もバンドとの親交があったのだろう。経緯は想像するしかないが、『宇宙の祭典』リリースに前後して12月30日のサンダウン・ライヴのサウンドボード(ミキサー卓)音源を譲り受けたのではないか、と思われる。
収録時間から見ると、『宇宙の祭典』C面・D面は48分49秒(B面クロージングの『エレクトロニックNo.1』が2分26秒で、合計すると51分15秒)、『Vol.2』は63分43秒(うちオープナーの『エレクトロニックNo.1』が2分14秒)で、『エレクトロニックNo.1』にタイムの差があるのは『宇宙の祭典』では次の『オルゴン・アキュムレーター』にかけてフェイドアウト編集されている分12秒長くなっている。『Vol.2』から『エレクトロニックNo.1』を引くと61分29秒だから、『宇宙の祭典』C面・D面合計の48分49秒と比較すると編集によって12分半あまり短縮されているのがわかる。『ザ・テキスト・オブ・フェスティヴァル』や『BBCラジオ1イン・コンサート』と同様未発表ライヴ音源で未編集・オーヴァーダビングなしとの点でも共通しているが、『Vol.2』は正規盤『宇宙の祭典』ディスク2(C・D面)の直接のオリジナル音源として『宇宙の祭典』との比較試聴ができる、という興味深さがある。
デイヴ・アンダーソンの手に未編集、ノー・オーヴァーダビングのテープが渡ったのは編集に関する相談があったのかもしれない。無編集なら『Vol.2』分だけでアナログ盤の3面分になってしまう。ライヴならではのインターミッションやノンストップ編集は生かしたい。ホークウィンドはデビュー・アルバムからそうした手法を使っていたが、ライヴでその方法が確立されたのはデイヴ・アンダーソンがベーシストとして参加したセカンド・アルバム『宇宙の探求』制作に向かっていた時期だった。『宇宙の祭典』発表の73年にはアモン・デュールIIが『ライヴ・イン・ロンドン』を収録しているので、デュールとホーク共通の旧メンバーとしてアンダーソンが橋渡しするようなことでもあったのかもしれない。
("Space Ritual Vol.2" Alternate Cover "Space Ritual Sundown V2")
正規盤『宇宙の祭典』と原型『Vol.2』の比較で大きく異なると確認できる点は、
・『Vol.2』ではサックス、フルートが『宇宙の祭典』よりオン気味にミックスされている。
・同音源とは思えないくらい『Vol.2』は『宇宙の祭典』よりノイジーでヘヴィな音色・ミックスになっている。
・『宇宙の祭典』では『オルゴン・アキュムレーター』の中間部にはっきりオーヴァーダビングによる違いがある。
・『Vol.2』では『タイム・ウィ・レフト~』の中間部にデビュー・アルバム収録曲『パラノイア』のベースラインに基づいたインプロヴィゼーション部があるが、『宇宙の祭典』ではカットされている。
・『10セカンズ・オブ・フォーエヴァー』~『ブレインストーム』の流れが『Vol.2』ではカット・アウト/カット・インに聴こえる。『宇宙の祭典』では修正されたのか、なめらかにつながっている。
・『Vol.2』では『セヴン・バイ・セヴン』のイントロダクションに次のスタジオ・アルバム『永劫の宮殿』1974収録の『ウィンド・オブ・チェンジ』のリフが使われている(『宇宙の祭典』ではカット)。
おおむねこうしたあたりだろうか。とにかくミックスがラフで、音質がロウで、『宇宙の祭典』は名作だがライヴ録音を素材にして相当なポスト・プロダクションが行われたのもわかる。特に『BBCラジオ1・イン・コンサート』で感じるが、初期ホークウィンドはライヴではヴォーカルがかなり苦しい。あまりに特殊なサウンド・システムを使っているので歌い出しが出遅れるなど序の口なのだ。素材のままの『Vol.2』は迫力満点だが、『宇宙の祭典』ではヴォーカルはほぼ全面的に、ひょっとしたらギターもかなり差し替えかもしれない。『Vol.2』の荒々しさといったら、パンクもグランジも足を向けては寝られない先駆性がある。
だが何度でも気持ち良く聴けるのはスタジオで大幅に手を加えられた『宇宙の祭典』なのも事実で、他のバンドに較べると途方もなく無造作なサウンドを出すバンドに見えて、実は客観的な視点からバランス良く録音を再構成し、ある部分は削り、ある部分は足して、最終的に聴き飽きのこない、繰り返し聴ける中毒性の高い魅力のアルバムに仕上げている。それがわかり、また実際のライヴではどんな轟音をとどろかせていたかがわかることでも『Vol.2』が発表された意義がある。