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Forest Flower : Charles Lloyd Quartet at Monterey Jazz Festival (Atlantic,1966)

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Forest Frower : Charles Lloyd Quartet at Monterey Jazz Festival (Atlantic,1966)
Recorded on September 18, 1966 in Monterey, CA and on September 8, 1966 in New York (Tracks*) / Release Atlantic SD1473
(SIDE A)
"Forest Flower: Sunrise" (Charles Lloyd) - 7:17
"Forest Flower: Sunset" (Charles Lloyd) - 10:19
http://youtu.be/qOGqAvElCAs
(SIDE B)
"Sorcery"* (Keith Jarrett) - 5:11
"Song of Her"* (Cecil McBee) - 5:16
"East of the Sun" (Brooks Bowman) - 10:20
[Personnel]
Charles Lloyd - tenor saxophone, flute
Keith Jarrett - piano
Cecil McBee - bass
Jack DeJohnette - drums
 
 タイトル曲を収めたA面のみの紹介になるが、このアルバムはA面の『フォレスト・フラワー』のために名高い作品なのだ。チャールズ・ロイドはチコ・ハミルトン・クインテット出身で、ハミルトン・クインテットの先輩サックス奏者にはバディ・コレットやエリック・ドルフィーがおり、後輩には渡辺貞夫がいる。『フォレスト・フラワー』の初演はハミルトン・クインテットのアルバムで、自信作だったらしく初リーダー作『Discovery!』でも再演していたが、どちらもボサ・ノヴァ風の小品以上の印象を出なかった。モンタレー・ジャズ・フェスティヴァルでは前年ジョン・ハンディのクインテットがライヴ・アルバムを収録し、白人ロックのリスナーにも受けるヒット作になっていた。また、明らかにハンディのアルバムからタイトル曲のヒントを得た白人ブルースのバタフィールド・ブルース・バンドのアルバム『イースト・ウェスト』が8月にリリースされてロックとジャズ両方のリスナーに支持され、ミュージシャンの間でも評判を呼んでいた。こうした動きにもロイドよりも鋭敏に注目していたのは若いロック・ミュージシャンと同じ世代のキースとディジョネットだったろう。
 このアルバムはなんと言っても、今となってはすごいメンバーにため息をつく。このカルテットはチャールズ・ロイドの前作でアトランティック契約第1作『Dream Weaver』で結成されたのだが、ピアノにキース・ジャレット(1945~)、ベースにセシル・マクビー(1935~)、ドラムスにジャック・ディジョネット(1942~)。キースとディジョネットは5年後にはマイルス・デイヴィスのバンドで再会し、80年代以降現在までもゲイリー・ピーコック(ベース)を固定メンバーとしたトリオ「スタンダーズ」を続けており、来日では皇太子夫妻の天覧コンサートもよく行われる。セシル・マクビーはジャッキー・マクリーンのバンドで名を上げた名手で、なぜか日本では別の方面で有名な人である。そしてリーダーのテナーサックスはチャールズ・ロイド(1938~)。全員存命なのはめでたい。さてこの中で一人出世しなかった人がいます。誰でしょうといえば、リーダーがせいぜい二流の上にとどまった。このカルテット(67年にベースはロン・マクルーアに交替)が66年~68年の3年間だけで8枚もアルバムを作って解散したのは、キースがツアー中にロイドがメンバーの分のギャラをピンハネしているのに気づいてバンドが空中分解したからではあるが、それよりもキースとディジョネットの才能が突出していてリーダーより注目が集まったからでもある。『フォレスト・フラワー』のライヴ収録時ロイドもまだ28歳の若手ジャズマンだったがディジョネットは24歳、キースは弱冠21歳で、神童現るの評判が高かったのもうなずける。現在のこのアルバムの本国での評価はどうか、アメリカ版ウィキペディアから引用する。

The Allmusic review by Thom Jurek awarded the album 5 stars and states "It is difficult to believe that, with players so young (and having been together under a year), Lloyd was able to muster a progressive jazz that was so far-reaching and so undeniably sophisticated, yet so rich and accessible... By the time the band reaches its final number they have touched upon virtually the entire history of jazz and still pushed it forward with seamless aplomb. Forest Flower is a great live record".

 案外バンドのメンバーの貢献度に触れていないが、五つ星の傑作ライヴ盤という評価は定着しているようだ。『フォレスト・フラワー』はジョン・ハンディやバタフィールド・ブルース・バンドを上回るクロスオーヴァー・ヒットとなった。アメリカの音楽界では「クロスオーヴァー」とは特定の音楽性を指す用語ではなくマーケティング用語から用いられるようになったもので、あるジャンルのアルバムが他のジャンルのリスナーにもアピールしてヒットすることをクロスオーヴァーとされる。たとえばマドンナなども白人向けディスコ・ポップスとして発売されたが、ターゲットであるイタリア系白人リスナーよりもブラック・コンテンポラリー・チャート(元レイス・ミュージック→ソウル・ミュージック・チャート、現在はR & Bチャート)から火がつき、ポピュラー・チャートに進出した。そうしたジャンル越境現象をクロスオーヴァーと呼ぶ。
 チャールズ・ロイドが『フォレスト・フラワー』のヒットでどれほど流行ジャズマンになったか、デビュー作からキース・ジャレット脱退までのアルバム・リストを見るとわかる。キースの加入は『Dream Weaver』からになる。

Discovery! (Columbia,1964)
Of Course, Of Course (Columbia,1965)
Dream Weaver (1966, Atlantic)
Forest Flower (1966, Atlantic)
The Flowering (1966, Atlantic)
Charles Lloyd in Europe (1966, Atlantic)
Love-In (1967, Atlantic)
Journey Within (1967, Atlantic)
Charles Lloyd in the Soviet Union (1967, Atlantic)
Soundtrack (1968, Atlantic)

 3年で8枚のアルバムに貢献してギャラまでピンハネされていたのでは怒って脱退するのも無理はない。キースの才能は『Dream Weaver』でも明らかだったが(その前にキースはアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズにチャック・マンジョーネと同期加入している)、ライヴである『フォレスト・フラワー』ではロイドの力量不足を補うためにキースが明らかにバンドの中心になっている。その証拠にサックスが引っ込んでピアノ・ソロになるとベースの乗りが弾み、ドラムスの音量も上がり、プレイの奔放さもいっそう自由度を増している。ロイドは当時ヒッピー世代の青年からもロック・アーティストと並んで好まれたようだが、現在聴くとヒッピー世代の楽天的な志向しか音楽には反映できなかったように見える。そこにミンガスやマイルス、コルトレーンらのデモーニッシュな洞察力との差がある。ただし、キースとディジョネットには『フォレスト・フラワー』以上の大きな将来性を感じる。
 キース・ジャレットの魅力は、バップ以来のジャズからは元々完全に切れている、同じ鍵盤のキースならキース・エマーソンと同世代で本来ならロックをやっていたようなピアニストがジャズをやっている面白さだろう。感覚が決定的に新しいのだ。だからマイルス・デイヴィスのバンドでオルガンやエレクトリック・ピアノにディストーションをかけてジャズ・ロックをやったのも同時代の理解を越えたファンク・ロックになった。マイルスはキースの潜在能力を引き出したわけだが、放任主義のリーダーの下でやりたい放題やっていた時のキースは実に冴えていた。キース本人がリーダーのアルバムは全部がキースで、マイルスとロイドでは大違いだし、キースのサックス入りのバンドではデューイ・レッドマンかヤン・ガルバレクと個性がまるで異なるが、評価の高いソロ・ピアノとトリオがどうもいけない。ナルシシステックでプリテンシャスな面がもろに出てしまう。
 ロイドやマイルスとのアルバムを聴くと、こういうキースはもう聴けないんだろうな、と思う。アメリカ音楽界最高のピアニストになってしまった今、格上のミュージシャンはいないし今さら格下と組むこともできまい。オリジナル・チャールズ・ロイド・カルテットのリユニオンなどまずあり得まいし、1966年のような瑞々しいプレイもしないだろう。キースは障害物なしに巨匠になってしまったので、あとはディラン(キースはディランのファン)かストーンズ(ミックはキース・ジャレットのファン)との共演くらいしかないかもしれない。
 『フォレスト・フラワー』についてつけ加えると、パート2のピアノ・ソロの導入部でブーンと轟音が遠鳴りしているが、モンタレー(カリフォルニア州)のフェスティヴァル会場は元々草原で、近くに飛行場があってフェスティヴァル中でも飛行機が飛ぶ。第1回のフェスからのビリー・ホリデイの発掘ライヴでも飛行機が飛んでいる。ビリーのアルバムは発売前提ではない録音だから仕方ないが、レコード用収録前提のライヴで飛行機が飛んでいるのは大らかなものだという気がする。

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