そうは言っても筆者のCD購入は中古が大半で、新装再発を待ちかねて入手したリイシューCDなど大してない。数少ない中から上げるから、実際は大してお役に立てないのをお詫びしたい。一般的には未発表音源・最新リマスターによるレッド・ツェッペリンのデラックス・エディション(デビュー作~『聖なる館』までリリース済み)、クロスビー、スティルス&ナッシュの『1974』あたりが大作だろうか。また、ザ・ポップ・グループは『ウィー・アー・タイム』の再発とともに新たに未発表音源集『キャビネット・オブ・キュリオシティーズ』されたが、相変わらず傑作セカンドの再発はかなわないようだ。ポップ・グループは2月発売予定で『シチズン・ゾンビ』というアルバムが予告されており、全盛期の未発表音源ならまだしも老醜(YouTubeで最近の無惨なライヴが観られる)をさらけ出した新作ならいっそ発売中止を願いたい。勝手な言い分で申し訳ないが。
ボックスものは後回しとして、国内盤の単発リイシューCDでは、
[ジャズ]
ラリー・ヤング『ユニティ+4』
・1965年のコルトレーン派(!)オルガン・ジャズ奏者の異色の名盤に、50年あまり未発表のまま新発見された別テイク4曲を加えた増補リマスター再発盤。全曲が素晴らしい名曲・名演のアルバムだったから別テイクの発見は嬉しい。参加メンバーのウディ・ショウ(tp)、ジョー・ヘンダーソン(ts)、ヤング(org)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)は全員故人となったが、全員にとってもベストプレイというべき最高にクールな演奏が聴ける。ウディ・ショウとジョー・ヘンダーソンの提供したオリジナル曲は60年代ブルー・ノート作品でも白眉の出来だろう。新発見の別テイクはヘンダーソン作の『イフ』が2テイク、ショウ作の『ムーントレイン』『ビヨンド・オール・リミッツ』が1テイクずつの別テイクで、アルバム収録曲中スタンダードの『朝日のようにさわやかに』とセロニアス・モンクの『モンクス・ドリーム』、ヤング作の『ゾルタン』の別テイクは残されていなかったらしい。リハーサル日程なし、1965年11月10日のセッション一回で完成された凄みがわかる。
他に、パブリック・ドメイン化による手頃なリイシューCDとしては、
Roland Kirk-"Complete Recordings 1956-1962(Import)
がある。厳密にはコンプリートではないが(チャールズ・ミンガス『ミンガス・オー・ヤー』1961など)、56年の初リーダー作から名盤『ドミノ』までの5枚、参加作3枚(クインシー・ジョーンズ『ビッグ・バンド・ボサ・ノヴァ』、ロイ・ヘインズ『アウト・オブ・ジ・アフタヌーン』、タビー・ヘイズ『タビーズ・バック・イン・タウン』)をCD4枚にまとめている。発売のEnlightenmentレーベルはアーマッド・ジャマル、エリック・ドルフィー、ビル・エヴァンスも同様の体裁に廉価シリーズ化しており、ボーナス・トラックはなく録音データ記載もないし、収録曲のオミットも多少あるが、リマスターによる音質向上も良く、縮小ながらオリジナル・ジャケットも掲載しており(ジャケットの版権はサイズで規定されているため)、パブリック・ドメイン再発としては良心的な廉価レーベルといえる。
[ジャズ(発掘)]
Miles Davis-"On The Crest of the Airwaves"(Import)
この発掘ライヴ編集盤は今回は正式には再発の再発になるが、4枚組で1200円程度の廉価再発でもあり、普通の輸入CD店で買えるハーフ・オフィシャル盤でもある。すべてFM放送音源で、ディスク3と4を占める1988年5月2日のライヴは編集すれば正規盤で通る音質。ディスク1は1970年8月18日のライヴで、エアチェック音源なのかやや音質がこもるが、有名なワイト島ロックフェスと同じメンバーで緊張感溢れる演奏。ディスク2は同年10月15日、チック・コリア(el-p)とデイヴ・ホランド(el-b)、アイアート・モレイラ(per)が抜け、キーボードはキース・ジャレットだけになり、ホランドとアイアートの後任にマイケル・ヘンダーソンとジュマ・サントスが入った。それだけの違いでディスク1のジャズ・ロック的演奏からファンク・ロックへの音楽的変化がみられる。こちらはディスク3-4同様FM音源マスターから直にCDマスタリングされたとおぼしい高音質で収録されている。マイルスの発掘ライヴは400枚を超えているし、メンバー・チェンジとセット・リストを把握しないとハズレをつかむが、それほど集めていない段階ならこの4枚組はお得。
[ロック(海外)]
キャプテン・ビーフハート&ヒズ・マジック・バンド『リック・マイ・デカルズ・オフ、ベイビー』
ポップ・グループ『ウィー・アー・タイム』1980に10年先んじる脱構築ロックの大傑作がこれだ。キャプテン・ビーフハート&ヒズ・マジック・バンドは二枚組アルバム『トラウト・マスク・レプリカ』1969が質・量・ジャケットのインパクトの総合点では代表作だろうが、あまりのヴォリュームと奔放さに繰り返し楽しむにはしんどいところがあった。『レプリカ』の次作に当たる1970年の『リック・マイ~』ではグッと密度を増した作品になっており、38分15曲と短い曲を畳みかけてくるようなアルバムで、79分28曲の『レプリカ』と曲数比率は変わりないようだが『レプリカ』の曲は半数が1分前後のキャプテンの詩の朗読だった。『レプリカ』を『ホワイト・アルバム』とすれば『リック~』は『リボルバー』で、順序が逆なのもロック史上最高の変人と名高い名物男ビーフハートらしくてよろしい。ビーフハートのワーナー系作品は90年代初頭に一斉CD化されたが、『リック~』だけなぜか初回プレスきりで廃盤になり相当なプレミアがついていた。今回の再発はタワーレコード限定発売らしいが、これで一気にプレミア価格も下がった。輸入盤CDでも現在廃盤状態なだけに国内盤再発の意義は大きい。『レプリカ』より『リック~』が好きという人も多いし、ビーフハートを初めて聴くならこのアルバムが一番いいと思います。
[ロック(国産)]
ザ・モップス『サイケデリック・サウンド・イン・ジャパン』
モップス『モップス1969~1973』
鈴木ヒロミツ、星勝を擁したザ・モップスはメンバーの平均年齢20歳の1968年にシングル『朝まで待てない』c/w『ブラインド・バード』で日本初のサイケデリック・ロック・バンドとしてデビューした。デビュー・シングルAB面は作詞家・阿久悠にとってもデビュー作だった。『サイケデリック・サウンド・イン・ジャパン』はデビュー・シングルAB面を含むデビュー・アルバムだが、これまで3回CD化されたどれもが『ブラインド・バード』を歌詞の差別表現問題からオミットしていた。ジャックスの『からっぽの世界』や村八分『あッ!』はどちらも90年代には歴史的作品として解禁されたが、『ブラインド・バード』は21世紀になってからの再発盤でもカットされており、パブリック・ドメイン作品として海外プレスされたアルバムでしか聴けない状態だった。モップスは1974年に解散したが、海外での評価も次第に高まり、そのフィードバックもあって、解散40周年を記念してしばらく廃盤状態が続いていたモップスの全アルバムが、これまでアルバム未収録のため未CD化だったシングル曲を同時期のアルバムにボーナス・トラックに追加して一斉再発された。
ザ・モップス(アルバム2作目からはレコード会社を移籍してモップス)には全部で8枚のアルバムがあるが、今回の一斉再発でマストなのはデビュー・アルバム『サイケデリック・サウンド・イン・ジャパン』と『モップス1969~1973』だろう。前者は国内盤CDで初めて『ブラインド・バード』を含む完全版であり、サイケデリック・ロック時代の未収録シングル曲2曲を追加収録。後者は新録音曲やリメイクを含むレコード会社移籍後のオリジナル・ベストアルバムで、今回初めて単独アルバムとしてCD化リイシューされたもの。この後のモップスはラスト・アルバムで解散コンサートのライヴ盤『EXIT』しかないから、『サイケデリック・サウンド・イン・ジャパン』と『モップス1969~1973』の2枚でモップスのあらましはつかめる。
全然ベスト3になっていないが、次回は今回収まりきらなかった2014年CDボックス大賞をやりたいと思っております。候補としては2013年の"Columbia Jazz Collection"、今年作品なら大賞をあげたい、
Various-"Jazz on Vogue The Perfect Collection"(Import,20CD)
に続くシリーズの、
Various-"Atlantic Jazz Legends"(Import,20CD)
があった。発売資料を引くと、
「名門アトランティック・ジャズの至宝20作品を集めたボックス・セット。アトランティックの新旧ロゴをモチーフにした、シックなデザインのボックスにはレーベルが1950年代から1970年代にかけてリリースしてきた、ジャズの名盤、レア盤を20枚収納。その中にはジョン・コルトレーンの『ジャイアント・ステップス』やチャールズ・ミンガスの『ブルース&ルーツ』、MJQの『ピラミッド』やビリー・コブハムの『スペクトラム』までモダン・ジャズ~フュージョンにかけての歴史を語る上で外せない名盤の他、モンゴ・サンタマリアの『モンゴ70』や、ユセフ・ラティーフの『ザ・ブルー・ユセフ・ラティーフ』などのレア・グルーヴの注目盤まで、幅広くピックアップ。各アルバムの簡単な解説と参加ミュージシャンのデータを掲載した28ページのブックレットも付属。」
となかなかいけるように思えるが、普通に入手しやすいアルバムが大半で稀少盤の割合は少なく物足りない。なので大賞は次回で発表いたします。
ボックスものは後回しとして、国内盤の単発リイシューCDでは、
[ジャズ]
ラリー・ヤング『ユニティ+4』
・1965年のコルトレーン派(!)オルガン・ジャズ奏者の異色の名盤に、50年あまり未発表のまま新発見された別テイク4曲を加えた増補リマスター再発盤。全曲が素晴らしい名曲・名演のアルバムだったから別テイクの発見は嬉しい。参加メンバーのウディ・ショウ(tp)、ジョー・ヘンダーソン(ts)、ヤング(org)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)は全員故人となったが、全員にとってもベストプレイというべき最高にクールな演奏が聴ける。ウディ・ショウとジョー・ヘンダーソンの提供したオリジナル曲は60年代ブルー・ノート作品でも白眉の出来だろう。新発見の別テイクはヘンダーソン作の『イフ』が2テイク、ショウ作の『ムーントレイン』『ビヨンド・オール・リミッツ』が1テイクずつの別テイクで、アルバム収録曲中スタンダードの『朝日のようにさわやかに』とセロニアス・モンクの『モンクス・ドリーム』、ヤング作の『ゾルタン』の別テイクは残されていなかったらしい。リハーサル日程なし、1965年11月10日のセッション一回で完成された凄みがわかる。
他に、パブリック・ドメイン化による手頃なリイシューCDとしては、
Roland Kirk-"Complete Recordings 1956-1962(Import)
がある。厳密にはコンプリートではないが(チャールズ・ミンガス『ミンガス・オー・ヤー』1961など)、56年の初リーダー作から名盤『ドミノ』までの5枚、参加作3枚(クインシー・ジョーンズ『ビッグ・バンド・ボサ・ノヴァ』、ロイ・ヘインズ『アウト・オブ・ジ・アフタヌーン』、タビー・ヘイズ『タビーズ・バック・イン・タウン』)をCD4枚にまとめている。発売のEnlightenmentレーベルはアーマッド・ジャマル、エリック・ドルフィー、ビル・エヴァンスも同様の体裁に廉価シリーズ化しており、ボーナス・トラックはなく録音データ記載もないし、収録曲のオミットも多少あるが、リマスターによる音質向上も良く、縮小ながらオリジナル・ジャケットも掲載しており(ジャケットの版権はサイズで規定されているため)、パブリック・ドメイン再発としては良心的な廉価レーベルといえる。
[ジャズ(発掘)]
Miles Davis-"On The Crest of the Airwaves"(Import)
この発掘ライヴ編集盤は今回は正式には再発の再発になるが、4枚組で1200円程度の廉価再発でもあり、普通の輸入CD店で買えるハーフ・オフィシャル盤でもある。すべてFM放送音源で、ディスク3と4を占める1988年5月2日のライヴは編集すれば正規盤で通る音質。ディスク1は1970年8月18日のライヴで、エアチェック音源なのかやや音質がこもるが、有名なワイト島ロックフェスと同じメンバーで緊張感溢れる演奏。ディスク2は同年10月15日、チック・コリア(el-p)とデイヴ・ホランド(el-b)、アイアート・モレイラ(per)が抜け、キーボードはキース・ジャレットだけになり、ホランドとアイアートの後任にマイケル・ヘンダーソンとジュマ・サントスが入った。それだけの違いでディスク1のジャズ・ロック的演奏からファンク・ロックへの音楽的変化がみられる。こちらはディスク3-4同様FM音源マスターから直にCDマスタリングされたとおぼしい高音質で収録されている。マイルスの発掘ライヴは400枚を超えているし、メンバー・チェンジとセット・リストを把握しないとハズレをつかむが、それほど集めていない段階ならこの4枚組はお得。
[ロック(海外)]
キャプテン・ビーフハート&ヒズ・マジック・バンド『リック・マイ・デカルズ・オフ、ベイビー』
ポップ・グループ『ウィー・アー・タイム』1980に10年先んじる脱構築ロックの大傑作がこれだ。キャプテン・ビーフハート&ヒズ・マジック・バンドは二枚組アルバム『トラウト・マスク・レプリカ』1969が質・量・ジャケットのインパクトの総合点では代表作だろうが、あまりのヴォリュームと奔放さに繰り返し楽しむにはしんどいところがあった。『レプリカ』の次作に当たる1970年の『リック・マイ~』ではグッと密度を増した作品になっており、38分15曲と短い曲を畳みかけてくるようなアルバムで、79分28曲の『レプリカ』と曲数比率は変わりないようだが『レプリカ』の曲は半数が1分前後のキャプテンの詩の朗読だった。『レプリカ』を『ホワイト・アルバム』とすれば『リック~』は『リボルバー』で、順序が逆なのもロック史上最高の変人と名高い名物男ビーフハートらしくてよろしい。ビーフハートのワーナー系作品は90年代初頭に一斉CD化されたが、『リック~』だけなぜか初回プレスきりで廃盤になり相当なプレミアがついていた。今回の再発はタワーレコード限定発売らしいが、これで一気にプレミア価格も下がった。輸入盤CDでも現在廃盤状態なだけに国内盤再発の意義は大きい。『レプリカ』より『リック~』が好きという人も多いし、ビーフハートを初めて聴くならこのアルバムが一番いいと思います。
[ロック(国産)]
ザ・モップス『サイケデリック・サウンド・イン・ジャパン』
モップス『モップス1969~1973』
鈴木ヒロミツ、星勝を擁したザ・モップスはメンバーの平均年齢20歳の1968年にシングル『朝まで待てない』c/w『ブラインド・バード』で日本初のサイケデリック・ロック・バンドとしてデビューした。デビュー・シングルAB面は作詞家・阿久悠にとってもデビュー作だった。『サイケデリック・サウンド・イン・ジャパン』はデビュー・シングルAB面を含むデビュー・アルバムだが、これまで3回CD化されたどれもが『ブラインド・バード』を歌詞の差別表現問題からオミットしていた。ジャックスの『からっぽの世界』や村八分『あッ!』はどちらも90年代には歴史的作品として解禁されたが、『ブラインド・バード』は21世紀になってからの再発盤でもカットされており、パブリック・ドメイン作品として海外プレスされたアルバムでしか聴けない状態だった。モップスは1974年に解散したが、海外での評価も次第に高まり、そのフィードバックもあって、解散40周年を記念してしばらく廃盤状態が続いていたモップスの全アルバムが、これまでアルバム未収録のため未CD化だったシングル曲を同時期のアルバムにボーナス・トラックに追加して一斉再発された。
ザ・モップス(アルバム2作目からはレコード会社を移籍してモップス)には全部で8枚のアルバムがあるが、今回の一斉再発でマストなのはデビュー・アルバム『サイケデリック・サウンド・イン・ジャパン』と『モップス1969~1973』だろう。前者は国内盤CDで初めて『ブラインド・バード』を含む完全版であり、サイケデリック・ロック時代の未収録シングル曲2曲を追加収録。後者は新録音曲やリメイクを含むレコード会社移籍後のオリジナル・ベストアルバムで、今回初めて単独アルバムとしてCD化リイシューされたもの。この後のモップスはラスト・アルバムで解散コンサートのライヴ盤『EXIT』しかないから、『サイケデリック・サウンド・イン・ジャパン』と『モップス1969~1973』の2枚でモップスのあらましはつかめる。
全然ベスト3になっていないが、次回は今回収まりきらなかった2014年CDボックス大賞をやりたいと思っております。候補としては2013年の"Columbia Jazz Collection"、今年作品なら大賞をあげたい、
Various-"Jazz on Vogue The Perfect Collection"(Import,20CD)
に続くシリーズの、
Various-"Atlantic Jazz Legends"(Import,20CD)
があった。発売資料を引くと、
「名門アトランティック・ジャズの至宝20作品を集めたボックス・セット。アトランティックの新旧ロゴをモチーフにした、シックなデザインのボックスにはレーベルが1950年代から1970年代にかけてリリースしてきた、ジャズの名盤、レア盤を20枚収納。その中にはジョン・コルトレーンの『ジャイアント・ステップス』やチャールズ・ミンガスの『ブルース&ルーツ』、MJQの『ピラミッド』やビリー・コブハムの『スペクトラム』までモダン・ジャズ~フュージョンにかけての歴史を語る上で外せない名盤の他、モンゴ・サンタマリアの『モンゴ70』や、ユセフ・ラティーフの『ザ・ブルー・ユセフ・ラティーフ』などのレア・グルーヴの注目盤まで、幅広くピックアップ。各アルバムの簡単な解説と参加ミュージシャンのデータを掲載した28ページのブックレットも付属。」
となかなかいけるように思えるが、普通に入手しやすいアルバムが大半で稀少盤の割合は少なく物足りない。なので大賞は次回で発表いたします。